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第2話 美味え!これがスーシか!ギルマス、奢ってくれよな!

 ここは海洋領地シャーク・G

 貿易港とダンジョンを持つこの街は、ネール・リマ王国の中でも特に栄えている。

 街の中心から外れた港町にある冒険者ギルドの港湾支部、ここには多くの少年少女が今日も冒険を求めてやってくる。彼らの憧れは、10年前に魔王を封印したと言われる、シャーク・G出身の勇者パーティ、勇者、女剣士、賢者の3人である。

 主人公リオも、そんな少年の一人だ。


 シャーク・G冒険者ギルド港湾支部は海にほど近い場所に建っている。漁師たちの怒鳴り声、魚市場の喧騒、そして海産物がこの港町の名物だ。


「ちゃーーす! ファイナ先生! 今日はこいつの獣魔登録をしたいんだ」


「獣魔って、その黄色いペッタンコ?」


「ああ、ポヨンって言うんだ」


「へー、変わってるのね」


 リオは受付けの女性、ファイナにポヨンを紹介する。ファイナは指導教官も兼ねるショートカットの女性、なぜかいつもビキニアーマーを着ているのだ。ファイナは物珍しそうにポヨンを人差し指で突っつく。


「えへへへー、何だよ…綺麗なおねいさん♡」


「わっ!喋った!」


「遊んでないで、早いとこやっちゃってよ。ファイナ先生」


「そ、そうね。ごめんなさいね」


 リオの指摘に顔を赤くしたファイナは、慌てて書類を書いて獣魔登録を終わらせる。


「さ、これで終了よ。今日からよろしくね、ポヨンちゃん」


「ああ! よろしく頼むぜ! 綺麗なファイナさん!」


「まあ…」


「よっしゃ! 今日は朝飯抜いてきたから、食堂行こうぜ!ポヨン」


「お、気が利くじゃねぇか、リオ!」


 リオがファイナと仲良くやっている様子を、エントランスの椅子に座って面白くなさそうに見ているガラの悪い5人の冒険者。そのうちの一人が、リオに足をひっかける。


 スッテーン!


 盛大に転んでしまうリオ。足を引っかけた男を睨みつけるが、その前にポヨンが吠える。


「てんめ! この畜生が! なにしやがんでぇ!?」


「そっちが勝手につまづいただけじゃねえか」


「んだと、やんのか!?」


 一触即発の空気だが、そこへローブを着た魔法使い風の初老の男が現れる。


「こら、お前たち。ギルド内での私闘は禁止じゃぞい!」


「うるせえ、爺ぃ面のギルマスが!」


 男たちがギルマスと名乗った男、タウレン=グレイマギアに悪態をつく。


「儂はまだ300歳、エルフの中では若輩じゃぞい。確かにエルフ仲間には老けてると言われたが…」


「やっぱ、爺ぃじゃねえか!」


「くーー、ギルマス生活200年、こんなにバカにされたことはなかったぞい?」


 齢300歳のギルマスだが、腕で顔を隠しながらもおいおいと泣き出してしまう。そこへ短く整えた髪の、ガタイのいい色男が近づいてくる。副ギルマスのサウリス=ヴァリアントだ。


「お前ら、いい加減にしろ! ギルマスに失礼だろうが!」


「やべえ、副ギルマスだ! ズラかるぞ!」


 蜘蛛の子を散らすように逃げ出した冒険者たち。タウレンがサウリスに抱き着く。


「よよよー、ありがとう、サウリス先生」


「いえいえ、これくらい。それよりも、リオ=フェルナイトも、そこにいませんでしたか?」


「さあて? どうだったかの?」


 どさくさに紛れて逃げ出したリオとポヨン。冒険者ギルド内の食堂「トレジャー」へ慌てて駆け込む。


「やべえ、やべえ……苦手なんだよなぁ、サウリス先生」


「まったくヘタレがよぅ、あんな奴ら、ガッツ=アタックで倒しゃあいいんだよ!」


「なんだよ、そのガッツ=アタックって? とにかく落ち着けよ」


「おめぇは人が良すぎんだよ!」


「まあまあ、シャーク・G名物のスーシでも食って、立てた腹を眠らせようぜ」


「ちっ! しゃあねえな。たらふく食ったるぜ!」


 トレジャーはギルド内に併設された食堂で、シャーク・Gの名物料理「スーシ」も食べられる。今は午前中ということもあって、利用している冒険者もまばらで、肉の塊にエールを頼んでいる者もいれば、なにやら麺類らしきものをすすっている者もいる。

 席に着いた二人のところに、白い調理服を着たダークエルフの女性が近づいてくる。プラミア=シェルド 、この辺りでは珍しい女性のスーシ職人である。


「プラミアさん、いっち番安いスーシ、二人前頂戴」


「ああ、リオか。じゃあ、雑魚スーシでいいな」


 注文を取って去っていくプラミアを、ポヨンがずっと目で追っている。


「なあなあ、リオ、あの人すげえな」


「ん、プラミアさんのことか? 何がすげぇんだよ?」


「あの人の胸、俺が二人くっついてるみたいだったぜ!」


「ポヨンが二人…? ポヨンポヨン……」


 ようやくポヨンの言っている意味がわかったリオが取り乱す。


「バ、バカ! そんなこと大声で言うなよ。怖えんだぞ、プラミアさん」


 チラッとプラミアを見ると、何故かこちらを睨んでいる。


「こ、怖えな、リオ」


「だろ…」


 しばらくして、プラミアが二人前のスーシを持ってくる。


「ほらよ」


「おー!うんまそー!! おい、リオ!早くしてくれよ!」


「はいはい、わかったよ。ほれ」


 リオが雑魚スーシの一個を箸でつまんでポヨンの口の中に入れる。


「うんめぇー!! リオ、リオ! もう一個くれよ」


 どんどん雑魚スーシを食べるポヨン、あっという間に一人前を食べつくしてしまう。


「おい、リオ! お前、それ残すんなら、俺にくれ」


「まだ食べてもいないわ!」


「じゃあ、もう一人前頼んでくれよー」


「できるか!」


 と、そこへプラミアがやってくる。


「おい、そこのスライム! いい食べっぷりじゃないか。気に入ったよ!」


「おねいさんのきれいなお手々で作ってくれたかと思うと、100倍美味いぜ! 」


「ふふ、あたしがギルマスに奢らせるから、思う存分食べな、雑魚スーシ」


「おー!綺麗なおねいさんは心もきれいだな。 遠慮なくいただくぜ!」


 プラミアが持ってきた雑魚スーシ30貫を次々とリオに口に入れさせるポヨン。その様子を見ていたプラミアが気づいたように言う。


「ん…お前、スライムの特殊個体か、珍しいな」


「ああ、珍しいだろ?」


「まあ…そうだな」


 そこに再びギルマスのタウレンが現れる。


「プラミア君、私の大きな地獄耳に聞こえたのじゃが、私の奢りと言うのはどういうことぞい?」


「え、えーーと?」


「ギルマス生活200年、こんなに驚いたことはないのじゃぞい」


「まあまあ、同じエルフ仲間ってことでさ、稼いでるんだろ。ウリウリ」


 食べ終えたリオとポヨンがサッと席を立つ。


「じゃあ、ギルマス。ござっす!」


「お、おい!お前たち!」


 追いすがるタウレンを尻目に、二人は元気よく店を飛び出していった。呆気に取られているタウレンに、プラミアが手を差し出す。


「ギルマス、お勘定いい? 一万イェン」


「くー! ギルマス生活200年、こんなに悲しいことはなかったぞい?」


 涙を流すタウレンから容赦なくいただいた一万イェンを、プラミアは嬉々として財布の中に入れる。


「まいど!!」


挿絵(By みてみん)


 そんな二人の様子を少し離れた場所で、じっと見つめている副ギルマスのサウリス。その額に一筋の冷や汗が流れる。


「あれは、新人冒険者のリオ君ですか」


 サウリスの呟きに、側にいたファイナが答える。


「そうですわ。あの子、今日は黄色の喋るスライムを防具に張り付けて、獣魔登録してほしいって…」


「黄色のスライム…」


 渋い顔をして考え込むサウリス。何かを思い出しているようだ。


「どうかしました?」


「いや、10年前に勇者パーティーのポーターをした時の話なんですが…」


「凄いですよね、サウリス先生。あの憧れの勇者パーティーのポーターなんて」


「いやポーターと言っても、勇者たち3人を支援する騎士たちの荷物持ちをやっただけですよ」


 謙遜するサウリスだが、当時はB級冒険者として将来を期待されていたのだ。


「それでもすごいと思いますけど… でも、勇者はやっぱり強かったんですか?」


「そうだね。一度だけ、遠くから勇者の必殺技『タフネス=アタック』を見たことがあるけど、凄かったなあ」


「うわー、憧れちゃいますねー」


「はは、それで本題なんだけど…その時、騎士たちの間にちょっとした噂があったんだ」


「噂…ですか?」


「ああ、勇者の肩にいつも黄色いスライムがのっかっているのを見たっていうね…」


 勇者と黄色いスライムの関係、それが何なのかはわからない。しかし黄色いスライムが、勇者の出現の前触れ……いや、魔王復活の前触れだとしたら……

 今は何もわからないが、可能性はゼロではない。あのスライムについては秘密裏に探らなければ……サウリスは真剣な面持ちで、リオたちが去っていた方を見つめ続けていた。


 そのサウリスの左耳に、熱い吐息がかけられる。


「フッ…」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「なーに、渋い顔してんのさ。いい男が台無しだよーーん」


 サウリスの横顔から顔を話して、今度は腕を自らの双丘の間に押し込むプラミア。ファイナが真っ赤になって突っかかる。


「な、何をしてるんですか!? プラミアさん!」


「そんな怖い目で見んなよ、美人が台無しだぜ。ファイナセンセ」


「何言ってるんですか!? 大体破廉恥ですよ、ハ・レ・ン・チ」


「お前さんのそのビキニアーマーの方が、よっぽど破廉恥に見えるけどなぁ」


「こ、これはかの勇者パーティーの剣聖が着ていたという、伝説のアーマーですよ! 確かに露出は少し多いけど……」


 勇者パーティーの剣聖と呼ばれた女性剣士に憧れるファイナは、王都の胡散臭い武器屋で女性剣士が着ていたと言われるビキニアーマーを高額で購入し、常に身に着けていた。


「悔しかったら、あんたもその二つの武器、使ってみなよ」


「ハハハ、ハレンチィーー!」


 ―――両手に花のサウリスだが、女性より黄色いスライムの方が気になるのであった。


挿絵(By みてみん)

最後までお読みいただきありがとうございます。


次回のガッツスライム・ポヨンは

【よっ! おあついねぇ、お二人さん!!】

冒険者パーティ「潮風の旅団」のメンバー、キアラとロロ新登場です。


次回も「ガッツだ、ガッツ! ドゥガッツ!!」

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