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第1話 ペッタンコスライムのポヨンでぃ! お前、養ってくれよな!

挿絵(By みてみん)


 ここは海洋領地シャーク・G

 冒険と貿易で潤っている、王都でも有数の領地だ。

 領地の東側の広大な森には多くの魔物が棲んでおり、冒険者たちの格好の狩場になっている。

 今、この森の最奥部で一人の少年が道に迷って途方に暮れている。


 少年の名はリオ=フェルナイト。

 小柄な体に革の防具を身につけた、剣士志望の少年である。

 正義感はいっぱしだが、腕っぷしはからっきしだ。


「迷った……完っ全に迷った。俺の勘ではこっちにレア素材があるはずだったんだが…」


 勘を頼りにレア素材を探す…これだけでこの少年、リオの性格がわかるというものだ。


「これというのも、あの二人のせいだ……」


 リオは、先ほど冒険者ギルドで起きた出来事を思い出していた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 シャーク・G冒険者ギルド港湾支部のエントランス

 リオと二人の少年が何やら話し込んでいる。二人ともリオと同じ冒険者パーティ「潮風の旅団」のメンバーで、バルゴは体の大きなオーク似の少年、ミルはモヒカン頭の少年である。

 バルゴが右手で高々と掲げているのは角兎なのだが、その角はだらーんと垂れ下がっている。


「どうじゃ! 俺様の捕まえたこの角兎! なんと角が柔らかいレア・モンスターよ!!」


「さすが親分、凄いでげすなぁ」


 ドヤ顔のバルゴを褒め称えるミル。まさにガキ大将と腰ぎんちゃくの図である。


「おう! リオどうじゃ!? すごかろう、俺は?」


「なーにがすげえもんか、所詮ウサギだろ?」


「なんじゃと! じゃあ、てめえはもっと珍しいもんが取ってこれるんかいのぅ?」


「そうだ、そうだ! 親分の言う通りでげす!」


「おおぅ! 取ってきてやろうじゃねえか! 吠え面かくなよ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの時の俺を殴ってやりたいよ、あんなやっすい挑発に乗っちまって……」


 森の中でさんざん帰り道を探したリオは、疲れて果てて座り込んでしまう。


「はーぁ、どうすりゃいいんだ…こんな時、相棒でもいれば心強いのによぅ……できればカワイ子ちゃんの……」


 もわもわもわもわ~~ん、とリオの頭の中に草原で女の子と追いかけっこをしている甘い妄想が広がっていく。


「ほら、リオ君。あたしを捕まえて見なさいな」


「あー待ってよー! 妄想のモコちゃーーん!」


「うふふふふ」


「ほーら捕まえた……ムチュー……わっ! なんだ!?」


 たった今口づけをした物体を顔からはがすと、持っているのは黄色の球体。


「うわっ! 気持ち悪っ!」


 リオは球体を投げて、自分から遠ざける。


「ん……? もしかしてあれって、スライムか……?」


 黄色の球体はその体をぷよぷよと変形させている。


「黄色のスライムって珍し……待てよ、特殊個体か!!」


 リオの大声に驚いたのか、スライムはポヨーーンと飛び上がり遠ざかってゆく。


「こら、待てよ! レアモンスター!!」


 ポヨン! ポヨン! ポヨン! ポヨン!


 追いかけるリオだが、右へ左へとポヨンポヨンと飛び跳ねるスライムをなかなか捕まえることができない。しかし天はリオに味方した。行く手を巨大な木に阻まれたスライムが逃げ場を失ってしまう。


「ふふふ、これでお前も年貢の納め時だな……」


 ジリジリと近づき、タイミングを見計らって飛び掛かる。


「往生せいやー!! あ、あーー!!」


 勢いよく木の根っこに躓いて、リオは盛大に転んでしまった。


 ドッシーーーーン!!


「いたたたた……ん? あの特殊個体、どこ行きやがった?」


 起き上がったリオが周りを見回すも、黄色のスライムの姿は既になかった。


「ちっ! 取り逃したか、ちっくしょー!」


「おい! てめえ!!」


「ん? なんか……声が聞こえるような……」


 足元を見るが何もいない。


「てめぇっつってんだよ! このスットコドッコイ!!」


 何やら自分の胸元から声がしている。

 視線を下に移すと、なんと防具にペッタンコになった黄色のスライムが張り付いているではないか。この非常識な事態に、リオの頭が追い付かない。


「ハアーー! な、なんだこれ?!」


「なんだこれじゃねえよ! てんめぇ、どう責任取ってくれんだよ!」


「責任って、そっちが勝手にくっついたんだろ!」


「なんだと! ぶっ飛ばすぞ!」


「てか、口悪いな、お前。とにかく防具からはがせないかやってみるか」


 スライムを掴んで引っ張ってみるが、何度やっても伸びるだけで一向に剥がれない。


「いてて、痛えよ! てめえ、やめろっつんだよ!」


「くそ、取れないか……防具ごと置いていきたいけど、買い直す金もねえし……」


挿絵(By みてみん)


 諦めてうなだれるリオに、黄色のスライムが問いかける。


「おい、おめえ!名前はなんていうんだよ?」


「ああ、リオ=フェルナイトっていうんだけど……」


「リオか……俺ぁポヨンていうケチな男よ。こうなったらリオ、てめえに養ってもらうからな」


「はあー? なんでそうなるんだよ!?」


「うるせえ! わかったらさっさと飯もってきやがれ!!」


「飯ってどっから……って、俺、迷子になってたんだ」


 ポヨンがあまりにうるさくて忘れていたが、道に迷っていたのだった。状況を思い出し、辺りを見回したリオは急に不安になる。


「どどど、どうしよう…」


「どうもこうもねえやな、ここは東の森の最奥だぜ。助けなんかこねぇよ」


 ポヨンの絶望的な物言いに、リオの不安が爆発する。


「ウワーーン! じにだぐないよーー! だれがだじけでぇーーー!!」


「うるせぇ、うるせぇ、うっるせえぇーー!! 俺ぁ泣く子と蛇が大ぇきれぇなんだよ!!」


「で、でも…」


「デモもストもねえ!」


 訳もわからず、ポヨンにまで見放される始末。

 一体、どうしたらよいのか……


「リオ、おめえ、こんな時どうすっか、分かんねぇのか?」


「どうするって…じっと動かずに助けを待つのかよ?」


「かぁーー! おめぇは本っ当にバカだな」


「んだと? んじゃ、おめえはどうすんだよ?!」


「決まってんじゃねぇかよ」


 ドヤ顔のポヨン。ほんとにこいつに解決策なんてあるのか。


「ガッツだよ」


「はぁっ? ガッツーー!?」


「ああ、ガッツがあれば何でもできるって、昔の偉ぇ人も言ってらぁ!」


「それは違ぇだろ!」


「いいから、おめぇ。自分のステータスを見てみろい!」


 何がガッツだよ、と訝しみながらリオは自分のステータスを開く。


「ステータス・オープン」


 いつも通りの各種パラメータの下に、なぜか「ガッツ度」と書かれた見慣れないゲージが見える。


「なんだぁ、このガッツ度って?」


「そいつがガッツゲージよ! おめぇがガッツを出せばゲージがたまる。すると俺の魔力が流れ込んで、すっげえ魔法が使えるって寸法よ!」


「いやいやいや、そんな馬鹿な話ないだろ!」


「疑うんならやってみろい! こっちゃあな、痩せても枯れても特殊個体なんでぃ」


 全く根拠のない話だが、ポヨンの勢いに押されて試してみることにした。


「わ、わかったよ… で、どうすりゃいいんだ?」


「この逆境に負けない、お前の強い心を口に出すんだ!」


「お、おう… お、俺は負けないゾー」


 誰も見ていないはずなのに、なんとなく気恥ずかしくて、弱々しく言ってみる。

 ……が、何も起こらない。


「お前ふざけてんのか? このままだと死ぬかもしれねえんだぞ、まじめにやれ!」


「よ、よし! 俺は負けない! 俺は負けない!!」


「そうだ!その調子でぃ!!」


 リオの気迫に、ガッツゲージが上がり始める。

 その事実がリオをさらに駆り立てる。


「俺は負けない! 俺は負けない!! 俺は勝つ! きっと勝つ!!」


 さらにガッツゲージが上がり続ける。


「おぉぅ!来たぜ、来たぜぃ!」


 スライムの体が徐々に光りはじめ、魔力がどんどん増えていく。


「俺は、絶対に、勝つんだーー!!」


 上を向いて両手を構え、リオ渾身の叫び声にガッツゲージが頂点を超える。


「ガッツだ!ガッツ! ドゥ!ガッツ!!」


 ビッカーー!!


 ポヨンの体がすさまじい光を発する。


「すっげぇ魔力だぜ! ビッグジャーンプ!!」


 ポヨンの体がリオの体ごと、空高く飛び上がる。


「てやんでぃ、ばーろ、ちくしょー! 今だ!リオ、飛行魔法だ!!」


「飛行魔法って、そんなの使えるわけあるか!」


「でぇじょうぶ! 俺の魔力とガッツで何とかなるぜ!」


「そんな馬鹿なー!」


 リオの意思とは無関係に飛行魔法が発動し、町の方向に向かって飛び始める。

 空の上であまりの寒さに震えるリオだったが、だんだん近づく港の光景が目に入る。


「お、おい、ポヨン! これどこまで行くんだよ!? もう海まで来ちまったぜ!」


「おっ海か、ちょうどいいや、降りるぞ!!」


「お、おいーー!」


 海に向かって急降下するポヨン、そのスピードにリオの目と鼻と口からキラキラした液体が溢れだす。


「落ちる、落ちるって! ポヨン!!」


「もう止まんねえよ! 行くぜ!! リオ!」


 ザッパーーン!!


 水しぶきを上げて海に落ちた二人は、海底に向かってどんどん沈んでいく。 一難去ってまた一難、リオを絶望が襲う。すると、ポヨンが水を思いっきり吸い込み、体にたまった海水を下に向かって一気に吐き出す。


 ジュボボボボボーー!!


 ポヨンの吐き出した水がジェット水流になり、今度はすさまじい勢いで上に上がっていく。

 もう息が限界だ…そう思ったリオだったが、間一髪海上に飛び出した。そのまま背中から着水し、海面に仰向けで浮かぶリオとポヨン。


「うえー、死ぬかと思ったぜ! なあ、ポヨン」


 ポヨンは海中で咥えたのだろう、大きな魚を食べている。


「もぐもぐ、言ったろ…ガッツの力は偉大だろって」


「またガッツかよ!!」


「それよりリオ、この魚うめぇな、もっとくれよ!」


「おまえってやつはよー!」


 シャーク・Gの海に、リオの呆れ声がこだまするのであった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


次回のガッツスライム・ポヨンは

【美味え!これがスーシか!ギルマス、奢ってくれよな!】

シャーク・G名物のスーシとはいったい!?


次回も「ガッツだ、ガッツ! ドゥガッツ!!」

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