第5話 王とのかつての約束
戦は七ヶ月続き、神を信じる者たち《宗教国家》が勝利を納めた。
「神の教えに背き、偽物の身体を作った挙句、不純の存在のまま神の元へ行こうとするからだ!」
大国の軍隊は神の名を空に叫び、身体を失った大国の兵士はテントへ消え、二度と出ることは無かった。
後にそのテントの中の死体は敗戦国へ捨てられ、腐るのを待つのみであった。
王は大国に捕まり、何も持たされず、断頭台へ送られた。
「また生まれてくる時には、神に背くでないぞ」
最期に聞かされたのは許しの詞では無かった。
王子は父の正式な退位を見ることなく
王となった。
先の戦で国は荒れ果ており、今まで政治への関わりを避けていたので、何をすべきかわからず大臣の言いなりとなっていた。
そんな状態が続く中、敗北による飢餓は続いた。残った領土には敵国と自国の兵士の死体が転がり、誰も葬ろうとはしない。
それを知った王子は国の安定よりも人として死ねなかった者たちに許しの詞おとを喋り、足りない身体の一部をその死体に着けて、金貨を一枚渡し土に埋めた。
人として死なせようとしたのだ。
しかし民衆はこのことを耳に入れてしまったのだ。
吹き込んだのは兵士か、大臣か…誰にしても、この状況をなんとかしたい者が話したのだろう、その噂は瞬く間に広がり、民衆は声を上げた。
「我らの兵士はともかく、敵国の兵士にまで施しをしているというのか」
「俺らの明日の食べ物より、死体を相手にするのか!」
「私の赤ん坊は、昨日亡くなったのよ・・・」
「墓を暴け!」
「王家を潰せ!」
「この国は今の王ではダメだ!」
「俺らの明日のために、王家を殺せ!」
義手をはめ込んでいる者まで叫んでいる。
作った人が王子と知っていても。
「私はなんてことを、父上が敵国に捕まり、神の元へ行けなかったと聞いてから人の生死について幼少の時よりも執着していた・・・死体ばかりを相手する王と言われても、何も言えないな。」
「王よ・・・」
今、王のそばにいるのはこの三人の隊長たちのみである。
いつものように慰めようとするが、もはや王の顔を見ることは出来なかった。
生きものを寄せ付けない眼に、凍りつき顰めた表情をしている王の顔は、死神にすら見えたからである。
やがて、民衆の松明は城を囲った、その赤く燃えたぎる炎は、怒りと血に満ちているようである。
「王!お逃げください!こちらに、さぁ早く!」
秘密の抜け道に案内された、城の門は壊され、怒号と足音が城内に響いている。
いつ民衆がこの部屋に入ってくるのか、いつこの道がバレるのか、恐れにより足はすくみ震える王の姿を目にした隊長の一人は剣を抜いた。
「何をしている、早く逃げるぞ!」
王は震える身体を抑え言い放った。
「王よ、もうここまでです。」
他の隊長たちは、その刃に対して鞘と柄を握り構えた。
「ここに来て裏切りか!」
「王への恩義を忘れたか!」
隊長の二人は王を庇うように前に出た。
呼吸も忘れ、互いの髪の毛の揺らぎにすら反応していた。
「待て!」
王は二人をどかした
「もう良い、私は民を救えぬ愚かな王だ。人を人として死なせる事に執着し、明日の身も分からず、またこの世を繰り返すのかと絶望しながら倒れる者たちを救えぬ王だ!私こそ人として死ぬべきではない人間なのだ。」
「王よ!」
まるで獣のような声にかすかに零れた涙が抜いた刃をつたった。
「お忘れですか?かつての約束を・・・」
民衆の足音が近づいてくる。
それに気づいた四人は扉を見た、早く逃げなければいけない状況、刃を見せた隊長だけが扉から目を離さなかった。
「王をこの場から逃がせ!」
濡れた剣先は、扉に向いた。
咆哮に充てられた三人は背筋がひりついた。
二人の隊長は王を引っ張るように逃げた。
「何があろうと王子をお守りします。」
抜け道の扉が閉まる瞬間 静かにそう聞こえた気がした。
王はやっと呼吸をした。




