ラージダンジョンへの挑戦8
「リンゲル! グルドフ! お前達は民を護る時にもその様な態度で臨むのか!」
アスラさんが突然叫んだ!
ランドルフさんが一匹のケルベロスを抑えている間に、前衛を務めていたリンゲルさんとグルドフさんが別のケルベロスをアッサリと後方に向かわせた事で、斥候のヤコブさんが一瞬ピンチになっていた。すぐにアスラさんがカバーしてケルベロスを倒していたが、タイミングを間違えるとヤコブさんは怪我では済まなかったかも知れない。
言われてリンゲルさんがヤコブさんに頭を下げる。
「ヤコブ済まなかった、怪我はないか?」
ヤコブさんは手を振って無事を伝えるが、リンゲルさんを見ようとはしない。
アスラさんからの言葉は止まらない。
「お前たちは後にいるのが王であっても、その様に魔物を背後に回すのか!?」
「それとこれとは状況が違う! 我らは王の騎士だ! 王を守る為であればこの身を捨ててでも魔物など通させはせぬ!」
アスラさんが、チラッとアルの方を見るが。
「ならば、守るに値しない冒険者には、魔物をけし掛けても良いのか? 己らの武力の無さをひけらかして、無名の冒険者にも劣る己らは誰を守るのだ?」
リンゲルさんとグルドフさんの顔は真っ赤になり、全身が震えている。グルドフさんが俺たちを指差し。
「アイツらは俺たちより強い! 身を守るくらい自分たちで出来るだろう!」
アスラさんは急に怒りを落ち着かせ。
「いま危なかったのはヤコブだぞ? お前達は仲間の身を危険に晒したのだぞ?」
リンゲルさんとグルドフさんがお互いの顔を見合わせる。他の三人も寄ってきて、二人を落ち着かせようと声を掛け合っていた。
「リンゲルとグルドフは五十層までだ、五十層に着いたら移動ポータルでそのまま帰って貰う」
アスラさんのその一言で、落ち着き始めていた二人がまた騒ぎ出した。それを、冷めた目で見るアスラさん。
「お前達は王の命令でこのダンジョンの六十層までたどり着けと言われて来たのだろう? その為の最適解を自ずから捨てておいて、置いていかれると分かったら慌てるのか? 王からは一人だけでも構わないと言われているのだ、ここで置いて行かれないだけ有難いと思え」
二人は急にハッとして辺りを見回す。ここはラージダンジョンの四十六層、たった二人の騎士では五十層にたどり着く事も四十層に戻る事も無理だろう。
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「何だアイツらは、何だってあんな横柄な態度で居られるんだ!」
イラつくリンゲルの言葉には正直肯定出来なかったが、何も知らないリンゲルから見たらそう思えるのだろう。この隊の中で、完全にあの冒険者達の事を理解しているのは誰も居ない。しかし、アスラ殿が態々付いてくるのだ普通の冒険者である筈がない。
昨日、ドラコーン族の盾役と話したが。彼は騎士だ、その口ぶりや主人を守るために尽くす姿は間違いなく騎士の姿だった。その仕える主人が誰かは分からなかったが、話している時の目線が、もう一人の若いドラコーン族の青年を見ていたから、もしかするとそうなのかも知れない。もう一人、ゴドス殿がアスラ殿と同じ立場だとしたら、一緒にいるのも理解できる。
斥候のヤコブは、獣人の二人の冒険者の能力の高さを認めて張り合う事を辞めた。二人はヤコブの索敵の能力も認めて的確に指示を出している。そんな態度にも心良く思っているのだろう。
あとは、常に我関せずなアーノルド。仕事はキッチリこなしているので文句は無いが、何を考えているのかサッパリ分からない。
とにかく、我々は王に命じられたこのダンジョンの六十層まで到達せねばならない。悔しく無いと言えば嘘になるが、冒険者達の力を借りないとたどり着けないのは明らかだ。だとしたら……アスラ殿の言う通り、誰も脱落せず六十層に辿り着ける最適解はあの冒険者、テツの指示に従い行動する事。騎士であることは捨て、今は冒険者として行動を共にする事が正解では無いだろうか。
しかし、アスラ殿はこの二人について来させる事は既に諦められている、我らが無理を言ってお願いすれば許してくれるだろうが。その後も態度を改めないのであれば、今度こそその場で見捨てられるだろう。
「リンゲル、グルドフ。話を聞け」
二人とも何を言われるのかある程度理解しているのだろう、嫌々ながらこちらを向いた。
「俺と、ヤコブは向こうの冒険者、テツの指示に従って動く事にする。アーノルドはどうする?」
「僕は、王の命令通り六十層を目指すまでさ。その一番安全な場所が冒険者達のそばならば、冒険者について行くよ」
まあ。俺たちと同意見、と見ておこう。
「お前達はどうする、指示に従わず。このまま五十層についたら地上に追い返されるか。冒険者の指示に従って六十層まで付いて来るのか」
「俺は、付いて行く……」
項垂れるリンゲルを見たあと、グルドフの顔をみる。
グルドフは先ほど迄の怒った顔から、呆れた顔になり。
「俺は抜けるぞ、何の為の騎士だ? 元々団長の息子が降ろされた時から気に入らなかったんだ。俺は五十層に付いたら一人で地上に戻る。ついでに騎士団も辞めてやるよ」
「グルドフ!」
「あとはお前達だけで仲良くやりな」
そう言うとグルドフは少し離れて行った。
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「話し合いは終わったか?」
グルドフが離れて行った入れ替わりに、アスラ殿が近寄ってきた。
「グルドフは五十層に付いたらダンジョンを出ます。残った我々は冒険者、テツの指示に従い、六十層を目指します」
アスラ殿がジッと我らの顔を見回す。我らの気持ちが伝わったのか、アスラ殿は頷くと冒険者達の方へと戻って行った。




