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191.全艦撃沈の圧巻

「おお、これはすごいなぁ。圧巻だ」


 俺は、港から海上を眺めている。


 決して静かな海ではない。

 今まさに戦闘が行われている海だ。


 南西方向にある『南宮島』の『キュウシュ連合国』の二百隻の艦隊が、次々に沈んでいく。


 魔砲搭載の船もかなりあり、砲撃の雨が降っている。

 魔法攻撃も、弓攻撃も全力で展開している。


 だが、こちらの被害は無い。


 なにせこちらの戦力は……クラーケン二体だからな。


 敵の立場に立てば、相手が悪いとしか言いようがない。


 『ハーミットクラーケン』は、特殊な耐性で物理攻撃も魔法攻撃も弾いてしまう。

 『スクイードクラーケン』は魔法障壁を纏っていて、魔法では大したダメージを与えられない。

 物理攻撃は防げないものの尋常でない再生力で、これまた大したダメージは受けない。


 二体とも巨大なだけに的としては大きく、攻撃を当てることができても、ダメージを与える事はほぼできない。

 本当に相手が悪いのだ。


 二体は、まるで遊んでいるかのように船を次々に沈めていく。


 俺の指示に従い、船を粉砕してしまわないように直接の打撃を避け、海面を叩きつけたり盛り上げたりして、ひっくり返している。


 そして、途中からコツをつかんだのか、『ハーミットクラーケン』はハサミ腕で潰さない程度に船をつかんで、海中に引きずり込むようになった。

 『スクイードクラーケン』も腕を船に巻きつけて、海中に引きずり込んでいる。


 二体は、まるで競い合うかのように、どんどん船を沈めている。

 蹴散らして行っていると言っても良いだろう。

 まぁ蹴っているわけではないが。


 やはりクラーケンは恐ろしいな。

 一体で天災級、それが二体だからな……。

 思わず相手に同情してしまった。

 まぁ俺のせいなんだけど……。

 いや奴らの自業自得だな。


 この戦いを見ている限り、今後他国が大艦隊で攻めてきたとしてもやられる気がしない。

 この国に上陸する前に、クラーケンたちに完膚なきまでに叩き潰されるだろう。


 まぁこの二体は『封印具』となっていて、常に海で警戒させるわけにはいかないから、気づくのが遅れれば上陸される可能性はあるが。


 沈没とともに、兵士たちも海に投げ出されている。


 かなりの者が命を落としているだろう。

 だが他国に侵略してくるということは、返り討ちにあって死ぬことも当然覚悟しているはずだ。


 助けられる範囲では助けてやるつもりだが、全てを助けることはできない。

 少し心が重くなるが、ここは割り切るしかないだろう。




 ◇




「くそ! なんだこれは!? 一体どうなってるんだ! なぜクラーケンが二体も! 偵察部隊の報告では、連鎖暴走(スタンピード)は終わっているはず、なぜクラーケンが、しかも二体いるんだ!?」


 『キュウシュ連合国』の盟主国である『フク王国』の大将軍メンタインは、混乱の中絶叫した。


「大将軍閣下、どうされますか? 軍船が次々に沈没していきます。

 クラーケンには全く歯が立ちません!」


「うるさい! 分かっとるわ! くそ! 『カントール王国』を手に入れる絶好の機会だったはずが……」


 メンタイン将軍は、ほぞを噛んだ。


 ……連鎖暴走(スタンピード)で疲弊したハコネゼル領を速やかに制圧し、そのまま王都に向けて進軍する予定が……まさか全滅の憂き目にあうとは……。

 国の命運を賭けた侵攻作戦が……なぜこんなことに……。

 どこで間違った……?

 悔やんでも悔やみ切れない。

 連合国の盟主国の立場をより強力にするために、『カントール王国』を手中に収め、連合の他の国々を強大な力で事実上支配する、そんな計画が、今まさに水泡に帰そうとしているのだ。


 この艦隊と動員した精鋭兵を失えば、盟主国の地位が危うくなる。一気に、弱小国になってしまう。

 そして他の連合国に無断で、『フク王国』単独で戦争を仕掛けたことが大きな問題となるだろう……。


 途中までは青賢人が言っていた通りにことが進んでいたはず……なぜこうなったのか全くわからない。


 ……怒りと後悔、様々な感情が彼の思考を完全に止めてしまっていた。


「閣下、クラーケンには魔砲もバリスタも効きません。

 早く撤退の指示を! 本当に全滅してしまいます!」


「…………」


「……もはや立て直しは不可能です! ここは一旦引きましょう! 閣下! 閣下!」


 メンタイン将軍は、副官の怒鳴り声に、ようやく我に返る。


「くそ……相手がこんな化け物ではやむを得ないか……。すぐに撤退だ!」


 そう言った次の瞬間、彼の船は一瞬にして水中へと没していた。


 こうして侵略艦隊は、あっという間に海の藻屑となったのだった




 ◇




 完全勝利だな、これは。

 混乱の中、すべての船が海の中へと消えた。

 逃げ出す間もなかった感じだ。


 海に飛び込んで生き残った兵士たちはそれなりにいるが、溺死した者もかなりいるのではないだろうか。


 だが助かった者たちも、かなりの数にのぼっている。


 そのまま見捨てようかとも思ったのだが……助けられる兵士については、助けることにしたのだ。


 捕虜としての価値もあるし、酷い国王や将軍のせいで消耗品として扱われているという悲惨な状況の可能性もあると考えたのだ。


 兵士全員が、侵略について肯定的なんてことはないはずだ。

 自国を守るということについては、ほとんどすべての兵士が肯定的に戦うだろうが、突然に他国を侵略するという行為に対しては、疑問を感じている兵士もいるはずだ。

 だが軍という命令系統の中では、上官の指示に抗う事はかなり難しい。


 そんなことを考えてしまって、救える命を救うことにしたのだ。

 侵略してきた国が酷い国だった場合は、もしかしたら移民を希望してくれるかもしれないし。


 死んだほうがいいような悪辣な兵士を助けてしまう可能性もあるが、それはまた別の話だ。


 一人一人尋問するから、そこで犯罪歴や素行の悪さが判明した者については、個別に対処すればいいのである。

 最初に人海戦術である程度線引きをした後に、怪しい者については、俺の固有スキル『固有スキル収集』の技コマンド『強者の威光(マウントポジション)』を使って、今までの行いを白状させてもいい。

 強制的に尋問できるから、こういう場合にもかなり使える。


 実のところ、この技コマンドがあるおかげで、侵略してきた兵士を可能な限り助けるという甘い対応をすることに踏み切れたというのが本音だが。



読んでいただき、誠にありがとうございます。


ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、ありがとうございます。

誤字報告も助かっています。ありがとうございます。


次話の投稿は、明後日の予定です。

少し遅れる可能性もありますが、その時はごめんなさい。


よろしくお願いします。


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