129.通りすがりのスライム聖女?
『ハーピー』の少女を悪魔から助けてくれたのは、通りすがりの人族の女性という事だった。
人族でありながら、単身悪魔に挑むなんて、普通では考えられない。
どんな人だったのか、尋ねてみた。
その女性は、自分を“通りすがりのスライム聖女”と名乗っていたようだ。
自己紹介なんてできる状況でもなかったし、指示されて、すぐに逃げたようなので、直接聞いたわけではないらしい。
悪魔が、何者だと問いただしたときに、そう名乗っていたのを聞いたのだそうだ。
『光の聖者』の称号を持つ俺としては、“聖女”という言葉に少し引っかかる。
もちろん“スライム”という言葉にも、引っかかるが。
何せ『カントール王国』を始めとした『ジパン群島』には、『スライム』という生物はいないからだ。
英雄譚なんかにも出てくるし、西の大陸なんかには数多く生息しているらしいが、『ジパン群島』にはいないのだ。
正確には、今はいないと言ったほうがいいのかもしれない。
どうも、大昔はいたみたいではある。
そんな事情もあるので、“聖女”だけではなく“スライム”というワードも、すごく引っかかるのだ。
この少女を助けてくれたスライム聖女は、まだ悪魔と交戦中かもしれない。
少女の話では、悪魔には角が二本あったらしいので、中級悪魔だと思う。
中級悪魔なんて、トップランクの冒険者だって数人でないと倒せないと言われている。
俺も、以前この『北端魔境』で、ユーリシアが召喚した中級悪魔と戦ったが、倒すのは大変だった。
もし交戦中だとしたら、助けに行ったほうがいい。
この『連鎖暴走』の元凶はそいつだし、倒してしまいたい。
すぐに向かおう。
と思ったのだが……すぐには行けないようだ。
一旦逃げたはずの『ハーピー』たちが、反転し高速でこちらに向かってくるのだ。
ウルフユニットで追跡している『大剣者』が教えてくれた。
まずは、『ハーピー』たちの対処をするしかない。
すぐに目視できるようになったが、さっきと様子が違う。
さらに凶暴化している感じだ。
悪魔の支配の力が強くなったのか?
まぁ今考えてもしょうがない。
とりあえずは、無力化しないと。
倒すなら難しくないが、この子のためにも殺すわけにはいかない。
さてどうするか。
……幹部の四人は『支配の首輪』で操られている。
残りの者は、魅了状態。
……精神的に、異常をきたしているわけだ。
『光魔法——光の癒し手』は、怪我等の回復だけではなく、スタミナ力や魔力の回復、さらには状態異常の回復もできる。
これを使えば、周りの『ハーピー』たちの魅了状態を解除できるのではないだろうか。
だが、『支配の首輪』には及ばないだろう。
ただこれには、『光魔法——光の洗礼』が効くかもしれない。
この魔法は、光を凝縮した光流で対象を浄化する。
精神波動を下げるマイナスの感情や精神の汚れを浄化できる。
また、精神に障害をもたらす魔法等の効果を打ち消すこともできる。
精神に障害をもたらす魔法の効果を打ち消すから、『光の癒し手』を使わなくても、これだけで魅了状態が解除できるかもしれない。
そしてうまくいけば、『支配の首輪』を無効化したり、威力を下げることができるかもしれない。
ただ支配することが、必ずしも汚れていると言えない可能性があるから、このアイテムに対しては効果を及ぼさないことも十分に考えられる。
いずれにしろ、やってみるしかないが。
俺は、王都でゾンビたちに使ったように、『聖剣 カントローム』を取り出し、技コマンド『聖なる突風』を発動し、そこに『光の洗礼』を合わせ、光の砂嵐を起こした。
光の砂嵐は、襲い来る『ハーピー』たちを包み込む。
猛り狂って突進して来ていた『ハーピー』たちだが、光の砂嵐に巻き込まれ、一気に動きを止める。
と思ったら……四体の『ハーピー』が関係なく、移動してくる。
この四体が、『支配の首輪』をされている幹部だろう。
他の『ハーピー』の動きが止まったおかげで、逆にわかりやすくなった。
ターゲットは、あいつらだ。
「無傷で捕まえるのは大変かもしれない。悪いけど、少し傷つけるかもしれない。でも、殺さない。必ず治すから、我慢して」
俺が『ハーピー』の少女にそう声をかけると、不安そうな顔をしたが、コクリと頷いた。
俺は、迫る『ハーピー』四体に向けて、『光魔法——太陽光線』を連射した。
だが、なんと四体とも躱した。
もともとレベルも高いんだろうし、狂乱状態も影響してか、凄い回避能力だ。
だが、別に外されても構わない。
今の攻撃によって、奴らは、俺を敵認定した。
一直線に襲いかかって来る。
俺は、『魔剣 時置』を取り出し、左手に握る。
そして『ハーピー』たちを充分引きつけ、発動真言を発する。
「時を置け!」
止まった一秒で、『ハーピー』の両翼を斬り落とす。
『聖剣 カントローム』による流れるような連続斬りだ。
だが、今の俺では、一秒の間に二体を斬るのがやっだ。
すぐに残り二体の『ハーピー』の足爪が俺に迫る——
が、俺には届かない。
自律行動している『大剣者』が、二体の『ハーピー』の足爪を足ごと斬り落としたのだ。
続けざまに、俺が翼も切り落とす。
そして、すぐに四大を『巻きひげ縄』で拘束し、『光魔法——光の癒し手』をかける。
これで止血したので、死ぬ事は無い。
切断した部位は、『献身』スキルを使えば、元に戻せる。
『ハーピー』の少女は泣いているが、死んでいないのを確認して、少し安心したようだ。
問題は、この『支配の首輪』だな。
「『大剣者』、壊せると思うか?」
「『アナライズ』による解析では、すぐには外せそうにありません。無理矢理外そうとした場合、対象者が死亡する構造になっているようです。
現状の私がアクセスできる記録領域には、解決策となるようなデータはありません」
そうか……そんな簡単ではないということか。
困った……どうするか……。
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