128.連鎖暴走の原因
俺は、迎撃され後方に移動していた『ハーピー』の群れに、『オートホース』で急行した。
猛スピードで現れた俺に対し、『ハーピー』たちは、慌てたようにしつつも、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
翼から羽毛の針を飛ばしてきたのだ。
『ハーピー』は、魔物といっても『オリジン』という特殊な存在で、動物が魔素を浴びることによって変質した通常の魔物と違って、会話することも理論上は可能だ。
話してみることも考えたが、そもそもが突然俺たちを襲ってきているし、今も攻撃を仕掛けている。
甘いことを言っていないで、問答無用で倒してしまったほうが良さそうだ。
ソーラーレイで、焼き尽くすか。
そう思って、スキルを発動しようと思ったとき——
「助けてぇぇぇ! 殺さないでぇぇぇ!」
ズシンと心に響くような声が聞こえた。
音量はかすかなのだが……何故か力強い、魂のこもったような声が、聞こえたのだ。
俺は、声の方向を見下ろす。
……そこには、小さなハーピーが……おそらく子供だが、ボロボロの状態で立っていた。
左の翼、人間で言えば左腕が無くなっている。
大量に血が出ていて、今にも命が尽きそうな感じだ。
さっきの声は、魂の叫びのような、振り絞った声だったようだ。
それにしても、“助けて”とは、どういうことだ?
俺は、攻撃してきている『ハーピー』たちから、一旦距離を取る。
俺のこの動きで、ハーピーは追撃してくるかもしれないと思ったが、退却を選択したのか、森の奥のほうに動き出した。
逃したくはないが……
「『大剣者』、ウルフユニットで追跡できるか?」
「可能です。戦場にいるウルフユニットを、何体か追跡に回します」
「頼む」
俺は、あのボロボロの『ハーピー』の子供を、どうにかしよう。
その子の元へ、急降下で降り立った。
この子……立ちながら、気を失っているのか?
ハーピーの年齢感覚はわからないが、人間で言ったら十歳くらいの女の子だ。
ピンクの髪と翼が、血で赤く染まっている。
俺は急いで、『光魔法——光の癒し手』を発動する。
急速に回復してきているので、これで命を落とす事は無いだろう。
だが、失った左翼が回復してくる様子は無い。
そこで、『献身』スキルを発動することにした。
これなら、部位欠損も治せる。
俺は、二度『献身』スキルを発動し、翼を再生した。
「う、うう……」
まだ苦しそうだが、意識を取り戻してきた。
「大丈夫かい?」
「あ、あぁ……あなたは……? 仲間のみんなは? 殺さないで……」
「大丈夫、殺してないよ」
「良かった……お願い、殺さないで」
少女は、ホッとした安堵を浮かべながらも、懇願するように再度お願いしてきた。
「でも襲ってきたのは、君たちだと思うけど?」
「そ、それには……事情があるの。操られてるの……」
「操られている!? ……事情を説明してくれるかい?」
「うん、わかった」
少女は、苦しいながらも、何とか言葉をつなぎ、説明してくれた。
それは、驚くべき内容だった。
この『魔境台地』の東にある山を越えて、少し行ったところに『ハーピー』たちの住む森があるのだそうだ。
俺たちは、まだ東側には本格的な探索に出かけてないが、比較的近いところに『ハーピー』が住んでいたようだ。
そこに、いきなり悪魔が現れて、『ハーピー』の族長や幹部に、『支配の首輪』という魔法道具を付けさせたのだそうだ。
というのも、この子が最初に捕まって、人質にされたらしい。
それ故、抵抗できなかったようだ。
だが、どうやら族長は、『支配の首輪』をはめて、この子が解放されたら、すぐに自分たち四人を殺せと仲間たちに指示を出していたらしい。
悪魔に操られるのを、よしとしなかったのだろう。
何よりも、残される仲間が危険になると考えたのかもしれない。
ところが、悪魔は首輪をはめても、この子を解放しなかったらしい。
そんな状況なので、残された者たちも指示を実行することができなかったようだ。
そうしている間に、族長たちは『支配の首輪』に完全に支配されてしまったらしい。
その後は、支配された族長が、ハーピーの『固有スキル』を使って、残された者たちを、魅了状態にして従わせたのだそうだ。
ハーピーは、『種族固有スキル』に『羽根剣』と『魅惑の羽ばたき』を持っているらしい。
『羽根剣』は、さっき俺に放ってきた羽根による攻撃だろう。
『魅惑の羽ばたき』は、対象を高確率で魅了し、かつ簡単な指示を出せるそうだ。
これを使って、残っている一族の者を魅了したようだ。
そんな形で悪魔の支配を群れ全体が受けることになり、『魔境台地』に攻めてきたということのようだ。
東側の山にいた魔物たちを、追い立てながら来たらしい。
それで、魔物たちの『連鎖暴走』になったわけだ。
おそらく、ただ追い立てただけでなく、強い魔物は魅了しているのかもしれない。
その魔物たちで、まずは攻撃させ、それでも生き残った場合は、『ハーピー』たちが殺すことになっていたようだ。
狙いは、まさに俺たち人族だった。
この子は、拘束されていたので、指示内容などを詳しく聞けていたわけである。
仲間の『ハーピー』たちが飛び立った後も、悪魔はその場に残っていて、この子も捕まったままだったらしい。
そんな状況の中で、なぜ逃げることができたのかと尋ねたら、突然、一人の人族の女性が現れて、悪魔を攻撃して助けてくれたというのだ。
そして、悪魔は引き受けるから、早く逃げるようにと言われたそうだ。
すぐに逃げ出し、仲間たちの後を追いかけて来たようだが、途中で興奮した魔物の不意打ちを喰らって、片翼を失うほどの大怪我を負ったらしい。
それでも何とかその魔物から逃げ切り、ここまでやって来たそうだ。
すごい根性の持ち主だ。
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