127.こけし
ナナリーが、特殊な杖での攻撃で魔物を粉砕した後、満足気な声と共に、自分の身の異常の有無を確認したのにはわけがある。
実は、ナナリーが使った杖は、呪われた武器だったのだ。
『魔杖 こけしロッド』……それは、『究極級』階級の『魔法の武器』で、かつ『呪われた武器』なのである。
デワサザーン伯爵家に伝わる、ほぼ使われることがなかった伝家の宝刀でもあった。
代々武門の家柄で、魔法使いが少なかったというのもあるが、呪いの作用により、使いようがなかったのである。
技コマンドを使用すると、呪いが発動する。
一回使うと、左足が麻痺し動かなくなる。
二回使うと、右足も麻痺する。
三回使うと、左手が麻痺し、四回使うと右手も麻痺し、四肢が動かなくなるのである。
しかもその持続時間は、一日×使った技コマンドの回数、つまり四回技コマンドを使うと、その後四日間、四肢が麻痺した状態が続くのである。
四回使うと杖を持つことができなくなるために、理論上、それ以上は使えないということになっている。
この呪いの効果ゆえに、過去の伯爵家においては、実戦で使う事はほぼなかった。
ただ、かなり古い時代に、人々を魔物の『連鎖暴走』から守ったという伝説の武器であり、初代デワサザーン伯爵が、恩人から譲られたものと伝えられている。
そして、この杖が人々を守ったという伝説は、今の『カントール王国』よりも古い時代から伝わっているのだ。
昔話的な一種の英雄譚になっているのである。
そんなこともあり、デワサザーン伯爵領では、『こけしロッド』の頭頂部の人形に似たデザインに人形が、名産品になっているのだ。
『魔除け人形 こけし』という木製の民芸品として、流通しているのである。旅人のお土産品としても、有名なものになっている。
人々の生活にも溶け込んでおり、多くの家では、何かしらの『こけし』が、魔除けとして飾られているのである。
実際、こけし製造にはいつの頃からか、独特の『魔術印』が施されていて、ほんの少しの魔物避けの効果が実際にあるのである。
旅の魔術師によって伝えられたとされる『魔術印』は、こけしの底の部分に刻まれていて、免許皆伝の職人が作った本物を表す意味としても使われていた。
人々の生活に溶け込むほど親しまれている『こけし』のもとになった特別な武器である『こけしロッド』は、残念ながら魔除けの効果どころか、使用者に呪いをもたらす、親しめない、使いづらい武器なのである。
それを、なぜナナリーが使えているのか?
それは、ナナリーの持っているスキルに秘密があった。
彼女は、『呪い無効』という希少なスキルを持っていたのだ。
『呪い耐性』スキルを取得することも珍しいが、その上位スキルである『呪い無効』は、それ以上なのだ。
『神託の巫女』が必ず所持するスキルと言うわけではないが、ナナリーは『神託の巫女』になった時に、取得していたのである。
このスキルがある為に、呪いの効果を受け付けないのだ。
彼女だからこそ、『呪われた武器』である『こけしロッド』の力を引き出せたのである。
長く使い手がいなかった『究極級』階級の『魔法の武器』が、活躍する時が訪れたのである。
デワサザーン伯爵は、ナナリーが『呪い無効』を持っていることを知り、使いこなせるのではないかと思い、ナナリーに託したのであった。
ナナリーは、残っている熊魔物を実験対象のように見据え、『こけしロッド』に秘められたすべての技コマンドを開放する——
「こけしフェイスオープン! 拘束の眼光!」
ナナリーの発動真言と共に、柔和で温かみのある人形の顔が、観音開きのように両側に開く。
そして新たに阿修羅のごとき強面が現れる。
その目が鋭く輝くと、対象とされた熊魔物は身体の自由を失った。
まるで目に見えない縄にでも拘束されたかのように、動きを止めたのである。
「よし、次はこれ! こけしロケット!」
ナナリーの次なる発動真言と共に、『フェイスオープン』は解除され、杖の頭頂部のこけし人形が分離し、宙に浮く。
そして、ターゲットとなっている熊魔物に突進し、その体に風穴を開けた。
「最後はこれ! こけしローラー!」
更なる発動真言と共に、こけし人形が巨大化し、残っている熊魔物に襲いかかる。
横倒しとなった巨大なこけし人形は、ローラーとなって熊魔物を轢き殺した。
『こけしロッド』は、その見た目の不思議さ、人形の柔和な顔からくる場違い感とは裏腹に、凶悪な能力を秘めた、まさに『究極級』階級にふさわしい武器であった。
『こけし落とし』は、巨大な敵を想定した技コマンドである。
『フェイスオープン』からの『拘束の眼光』は、敵を無力化するための攻撃、いわば対人拘束戦を想定したような技コマンドでもある。
『こけしロケット』は、遠距離や空中の敵を倒す為の技コマンドである。
『こけしローラー』は、殲滅戦などを想定した数多くの敵を倒すための技コマンドなのである。
ただ一番の恐ろしい技コマンドは、『フェイスオープン』である。
『フェイスオープン』には、『拘束の眼光』以外にも、実はまだ技があった。
今のナナリーは、それを引き出すほどの杖との親和性を得ておらず、発動真言も、必然的に思い浮かばなかったのである。
『こけしロッド』は、末恐ろしい武器なのであるが、その能力の全てが伝承されているわけでもなく、この武器の本当の恐ろしさは、まだ誰も知らないのであった。
すべての技コマンドを引き出したいと思い、そして自分の手で魔物を倒すという経験をしたナナリーは、大きな充実感を得ていた。
だが、おそらくヤマトが見たら、クマの着ぐるみを着て変な人形のついた杖で戦う『神託の巫女』ってアリなんだろうか? と首を傾げたに違いない。
見る人が見れば、場違い感は半端ないのだが、この戦場にそれに気づく者は、今のところいなかった……。
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