126.回復だけじゃなく、攻撃もしたいナナリー
この戦場には、もう一人、槍の使い手がいた。
『十神教会』神殿騎士サザリーである。
彼女は、『神託の巫女』ナナリーと共に、ヤマトたちに同行していたのだ。
護衛対象で妹でもあるナナリーが、『ヤマダイ国』の危機に少しでも力になりたいと同行を希望したために、共に来ているのである。
サザリーは、もともと槍の使い手である。
それを知ったヤマトから、『魔槍 トンボギリー』を託されていた。
「たぁぁぁぁ!」
魔力の赤い残光を引きながら放たれた魔槍の一撃は、熊魔物の首を宙に飛ばした。
『魔槍 トンボギリー』……ヤマトが『加護ガチャ』によって手に入れた『究極級』階級の『魔法の武器』である。
サザリーは、長銃を構えるかのように槍を持ち直すと、その穂先にイメージを集中する。
「トンボ斬り!」
高まった集中とともに発せられた発動真言』により、穂先と柄の接続部分が少し膨らむ。
そして、塗装がはがれるように、八枚の薄い物体が落ち、宙に浮く。
それは一瞬にして、羽根を広げたトンボの形に変化する。
次の瞬間には、標的に向かい、一気に射出された。
トンボ型の手裏剣は、乱舞するように小刻みに動きながら、もう一体の熊魔物に襲いかかる。
——ザン、ザン、ザン、ザン
——ザン、ザン、ザン、ザン
分厚い熊魔物の体をあっさり貫通し、八つの穴を開け、瞬殺した。
遠距離攻撃においても、『究極級』階級らしい見事な威力である。
広範囲に広がった戦場を駆け巡る一陣の風……それは、クマ型ゴーレム『クマゴロウ』に騎乗した『神託の巫女』ナナリーだ。
『クマゴロウ』四体のうち、一体をナナリーが操作していた。
残りの三体は、『大剣者』の操作で迎撃に当たっているが、一体はナナリーが使い、戦場での回復に当たっていたのだ。
ヤマトは当初、四体とも迎撃に当てるつもりで『大剣者』に託したのだが、負傷者が予想よりも多いという報告を受け、修正したのだった。
ただナナリーは、『クマゴロウ』を使うのは初めてなので、『大剣者』もサポートしている。
実際は、サポートしているというよりは、そのまま『大剣者』が操作している。
『クマゴロウ』に指示を出すナナリーの声を聞いて、『大剣者』が動かしているのである。
そんな状態なので、『ウルフユニットモード』を起動し、開いた背のコックピットに騎乗しているナナリーは、スムーズに、ハイスピードに動けている。
広範囲を移動して、守備隊の兵士たち、『ノッカー族』の戦士たち、『河童族』の戦士たちを瞬く間に回復していったのだ。
内蔵されていた五体のウルフユニットは、『クマゴロウ』を守るように並走し、時折襲ってくる魔物を排除していた。
負傷戦士たちの回復により、更に形勢は好転していった。
そしてナナリーは、他の女子メンバー同様、内蔵されている『ベルセルクコスチューム』を気に入り、装着もしていた。
『ベルセルクコスチューム』は、フード付きローブで、軽くて動きやすいにもかかわらず、高い防御力を持っている優れた装備である。
ただ、ローブには、全体にクマの毛のようなものが付いていて、クマの毛皮の外見である。
フードに至っては、クマの頭のデザインになっているのだ。
クマの口から下がなく、そこから自分の顔が出るようになっている。
ヤマトが英雄譚などに登場する伝説の『着ぐるみアーマー』かと少し感動したものの、その見た目から、戦いで使う気にはなれないと、ゲンナリしていた装備でもあった。
ただ、女子メンバーは可愛いと言って喜んでいて、みんな一度は装着する。
それでも、魔境探索の時などに実際に装着した者は、一人もいなかった。
実戦で装備したのは、ナナリーが初めてである。
ナナリーは、それほどに気に入っていたのである。
まぁ実際には、初めて騎乗した『クマゴロウ』で、装着システムが発動して、それに従っただけなのだが。
だが、本当に気に入っていて、喜び勇んで装着中なのである。
サイズ調整機能があり、小さなナナリーでも、違和感なくフィットしている。
可憐な少女が、クマの着ぐるみを着て、クマ型ゴーレムに騎乗して、戦場を駆け回る姿は、普通なら違和感しかない。
だが、なぜかナナリーは、戦っている戦士たちに可愛いと思わせるような、抜群の着こなしを見せていたのだ。
彼女は戦闘要員ではないので、普通ならここで活躍も終わりなのだが、一通り回復を終えたことを確認すると、巨大熊魔物がいる前線に向けて加速した。
「もう熊魔物が、ほとんど残っていない。急がなきゃ! せっかく借りた魔法道具が試せなくなっちゃう!」
『クマゴロウ』の加速で、前線に到着したナナリーは、サザリーに声をかける。
「それを私にやらせて! 王都での戦いは、回復に専念してたから試せなかった。今試したいの!」
驚き、振り返ったサザリーだったが、何かを諦めたように、一瞬上を見て、動きを止めた。
「気をつけるのだぞ」
「わかった。ありがとう」
地面に降り立ったナナリーが手にしたのは、先程までの回復魔法を補助するための杖ではなく、少し変わった形状の杖だった。
ナナリーの身長ほどもある長い杖の頭頂部には、人の顔を模した人形が付いている。
「行くわよ、こけし落とし!」
ナナリーの発動真言とともに、杖の頭頂部にセットされた顔と胴体だけの人形が、長く伸びながら巨大化する。
そして、歪に変形した杖を、ナナリーは事もなげに振り下ろす——
——バゴーンッ
標的にされた熊魔物は、突然現れた巨大な人形に押しつぶされた。
「わー、すごい! 全然重くならない。あんなに大きくなったのに、軽く振り降ろせた!
そしてやっぱり、呪いも発動していないみたい。
私なら、使いこなせそう。
伯爵の期待に、応えられそうだわ」
ナナリーは、魔物を倒した喜びとともに、その身に何も起きてないことを確認し、喜びの声を上げた。
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