116.もう一つの公爵家登場
ミトノ公爵家一同が、『ヤマダイ国』の住民として移住してくれることが正式に決まった。
俺は、改めて気になることを確認した。
それは、全く何もないような場所、しかも魔物の領域で大丈夫なのかということである。
いくら贖罪として『カントール王国』を離れると言っても、『ヤマダイ国』には、ほんとに何もない。
開拓から始めなければいけない場所である。
裕福な暮らしをしていたであろう公爵家の人たちが、耐えられるのかは疑問だ。
だが公爵の答えは、いたってシンプルだった。
全く問題ないし、公爵家の人間の食生活は、それほど贅沢ではない。
農地を持っていて、自給自足に近い生活をしていたというのだ。
だから開拓という行為自体を、楽しむことができるだろうと笑っていた。
そして、自分たちの身は、自分たちで守れるし、当面の生活に必要な物資ぐらいは蓄えがあると言って、茶目っ気のある笑みまで浮かべていたのだ。
豪快な人であり、潔い人であり、茶目っ気もある人であり、不思議な魅力の人である。
そして何人ぐらいなのか、軽い気持ちで訊いてみたら、五百人以上になると言われて、一瞬固まってしまった。
使用人など全てを合わせると、そのぐらいの人数になるらしい。
貴族の中でも、一番規模が大きいとは言っていたが、せいぜい百人くらいだろうと思っていた。
まさか五百人以上とは。
ただよくよく聞いてみると、半分以上は子供とのことだ。
貴族籍を持った者と使用人は、半分くらいなのだそうだ。
凄い子だくさんの人が多いのかと思ったが、違っていた。
ほとんどは親を亡くした孤児たちで、引き取っているとの事だった。
普通の孤児院をはるかに超える人数を、引き取っている。
貴族家で、そんなことをしているところがあるなんて、全く知らなかった。
貴族によっては、孤児院に寄付しているところはあると思うが、まさか自分たちで引き取るなんて。
子供たちが大きくなると、基本的には独立して出ていくのだそうだ。
公爵家で何かを強制するとかいう事は、ないらしい。
なるべく自立できるように手に職をつけさせる努力していると言うから、素晴らしい。
ほんとに大規模な充実した孤児院という感じだ。
というか、普通の孤児院に入るよりも、子供たちにとっては幸せなのではないだろうか。
公爵家として、国からある程度の碌はあったようだが、とても足りずに、所有する土地で自給自足するための野菜を作ったり、商売などもしていたようだ。
なぜそんなにも多くの子供たちを引き取っていたのかと尋ねてみたら、ミトノ公爵家では昔からやっていることなのだそうだ。
子供は、国の未来という考え方らしい。
国も孤児院を運営していて、それなりに機能していたと思うが、それを補完する役割を担っていたようだ。
それと、孤児院として運営しているわけではなく、家族として迎え入れているらしい。
さすがに、養子としているわけではないみたいだけど。
もしかしたら、どんな国を作るのかと俺に尋ねたときに、俺が家族として受け入れて守ると答えた事は、ミトノ公爵家の理念と通じていたのかもしれない。
それで移住を決めてくれたのかもしれない。
ふと、そんなふうに思った。
それから、俺が尋ねたわけでは無いのだが、しばらく食べる分の蓄えはあるし、お金もある程度はあるから、負担はかけないと思うと言ってくれた。
まぁ食事については、あまり心配していない。
贅沢を言われたら困るが、肉で良いなら魔物の肉がいっぱいあるからね。
狩り放題だし。
ミトノ公爵との話も一段落して、やっと仲間たちとゆっくり話せると思ったが、そうは問屋が卸さないみたいだ。
再び、城内が騒然としてきた。
大規模な武装集団が、周りを威嚇しながらやって来たのだ。
「ふん、やっと来たのね。ずいぶん遅かったこと」
吐き捨てるように言ったのは、ミトノ公爵だ。
ミトノ公爵の言葉と、先頭を歩く貴族の偉そうな態度からして、今まで話題に出ていたヒトツバ公爵家ではないだろうか?
「皆の者、ご苦労。戦後処理は、我がヒトツバ公爵家が行う。
国王を軟禁しているという情報も、既に得ている。
国王を軟禁した反逆者ヤマトを直ちに捕らえろ!」
やはり、ヒトツバ公爵だった。
「ずいぶん遅く現れて、何の戯言をほざいているのかしら?」
ミトノ公爵が、前に出た。
「ミトノ公爵、貴様、国王を補佐する立場を忘れ、罪人に手を貸すとは何事か!」
「黙りなさい! ヒトツバ公爵、今までどこにいたのですか?
人々が苦しんでいる時、避難シェルターに逃げていたんでしょう?
そして安全を充分確認して、さらに情報も収集してからやって来た?
全く嘆かわしい。
我がミトノ公爵家はもちろん、志ある貴族家は、魔物たちを撃退するために私兵を出したり、人々の避難に協力していたのですよ。
あなたは何をしていたのですか?」
「ふん、これだから先を見通せない愚か者は困る。
我ら国の中枢を担う者に、万が一のことがあったら、どうするのだ?
国が立ち行かなるなくなるだろう。
責任が果たせなくなるではないか。
民を守るために、兵士がいるのだ。
兵士の仕事を行う必要など無いし、そのこと自体国益に反するのが、なぜわからん。バカめ!」
ヒトツバ公爵は、一見もっともらしいことを言っているが、間違っている。
そもそも人がいなくなれば、国など何の意味もないのだ。
それにしても、こいつ国王に似ている。
見かけが似ているだけでなく、立ち居振る舞いや言う事までも。ムカついてしょうがない。
クラウディアさんが耳打ちしてくれたが、国王の弟らしい。
納得だ。
「私はヤマトだ。『カントール王国』は、今後私の庇護下に入る。
そして国民を守ることができず、害悪となっている王家及びそれに追随する貴族、役人は、すべて捕らえ、厳罰に処する。
ヒトツバ公爵、貴様もその対象だ。素直に縛に付け!」
「何だと!? この無礼者! えーい、皆の者、こやつを捕らえよ! 我が、国王に変わり取り仕切る! 我に従え!」
ヒトツバ公爵が、周辺にいた兵士たちに向け、声高に叫んだが、誰一人従おうとする兵士はいない。
「何をしている! 早く——」
「兵士たちの指揮権は、私にある。あなたに従う者はいないと知れ!」
ヒトツバ公爵の言葉を遮るように、モーリス侯爵が言い放った。
「貴様、モーリス、無礼な口を利きおって! だいたい、お主は、引退したはず。何を今更——」
「残念ながら、王家が無能すぎて、ゆっくり引退も出来なかったのですよ、ガハハハハ」
またもや遮るように、そして、少し馬鹿にするような感じで、モーリス侯爵が笑った。
ヒトツバ公爵は、唇を噛み締めて血管を浮き立たせている。
「……ならば仕方あるまい。ヤマト及びそれに組みする者どもを、直ちに捕らえる。抵抗する場合、殺してもかまわん。皆の者、かかれ!」
ヒトツバ公爵がそう言うと、連れて来た私兵約百人が武器を構えた。
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