悪魔に全部バレました
―君は何故未来のことをそんなに詳しく知っているんだい?―
アスモデウスは私にそう尋ねてから、黙りこくったままの私をじっと見つめている。私は脳をフル回転しながら、この局面をどう切り抜けるかを考えていた。
どうする、どうする、私。手元のライフカードは3つしかない。
⑴正直に全てを話す。
これが一番簡単だが、言った後の展開が読めないため、正直あまり選びたくない。そもそも、正直に言ったところであまりに荒唐無稽な話過ぎて信じてもらえないのが関の山ではないか。しかも、貴方はゲームの中のキャラクターですらないんです、なんて言った日には、アスモデウスを怒らせて殺されるのではないか。
やっぱりこのカードは使えない、最終手段として取っておこう。
⑵未来視の能力を持っていることにする。
これが一番便利で都合のいい言い訳だ。限局的で自分に関係のある未来のみが見えるとでも言っておけば、大体のことは言い訳が付く。完璧な言い訳だ、ビバ未来視。
⑶この場から逃げる。
最悪の選択肢だ、逃げられる気もしなければ、はぐらかし続けられる気もしない。この選択肢はなしの方向で行こう。
というわけで、私は選んだのは二枚目のカードだ。私は突然頭を押さえて、床にうずくまった。イメージするのは、常に最強の自分だ。古今東西の未来視を持っているチートキャラを思い出し、あくまでクールにそれっぽく演技を続ける。
「うっ、頭が」
そうして、片目を押さえながら立ち上がり、アスモデウスの目の前でポーズをとった。アスモデウスは驚くほどニコニコと楽しそうに微笑んでいたが見なかったことにさせてもらおう。
「アスモデウス、私実はね、未来を見通せる力を持っているの」
「へぇ、そうなんだ、すごい力を持っているんだね。では、明日のアフタヌーンティーのお菓子でも当ててもらおうかな」
「えっ、いや、私が見れるのは自分に関わる限局的な未来だけで…」
「そうなのかい?でもさっきの説明だと分岐する未来全てを見通していたけれど、それはどういう原理なのかな?」
「ウッ」
「ははは、37点ってとこだね。もうちょっと設定練ってから話しなよ」
にこにこと笑みを崩さないまま、痛いところをバシバシと突いてくる。アスモデウスは笑みを絶やさずに、私の次の言葉を待っていた。恐らく37点は私のお粗末な言い訳に対する設定なのだろうが、あまりにも低すぎないか。それに、人が頑張って考えた設定に点数をつけるのは些か失礼ではないだろうか、アスモデウスさん。
これはどうすればいいのだろう。
正直言って、このまま未来視ネタで突き通すのは難しそうだが、かといって残りのカードを切るのも難しそうだ。うーむ、一度逃げて体制を立て直すか、それとも全部ここで告白するか。
「鬼ごっこか。別にいいけど、捕まった時の言い訳は考えてから逃げなよ」
アスモデウスはベッドに腰かけたまま長い足を組んで、妖艶に微笑んだ。それを見た瞬間に、私は3つ目のカードを投げ捨てた。このカードは駄目だ、使えない。
というか、何でアスモデウスは私が逃げようとしたことに気が付いたんだろう。
あれ、まさかこれ。
「まさか、心を読まれているのではないか、ね。今回は思ったより気が付くのが早くて、僕は嬉しいよ」
まさかであった。
つまりは、アスモデウスには全てお見通しなのだ。最初から私が転生者であるということを知ったうえで、態々質問をしてくれたのだろう。そして私が下手糞な演技をしている最中も真実を知っていながら、心の奥では嘲笑っていたのだ。
「本当に性格悪いわね、分かってるんなら最初から言えばいいじゃない」
「いやぁ、僕もまさかオリヴィエが元々この世界の人間ではなくて、この世界の出来事をゲームとして体験していて、自分が死ぬことを知っているから、その死から逃れようと僕を呼んだなんて信じられないよ。それこそ未来視の方が納得いく答えだ」
「説明ありがとう、そして地獄に落ちろ」
「ははっ、悪魔である僕からすれば、地獄に落ちろという言葉はお家に帰りなさいくらいのソフトな暴言だよ」
悪魔の王とは思えないほど無邪気で飄々としていて少し子供っぽいアスモデウスの、悪魔らしい片鱗を見た気がする。アスモデウスは愉快そうに笑って、私の頭をポンポンと叩いた。
「ごめんごめん、あまりに君が必死だったからつい揶揄いたくなってしまってね」
「はいはい、ワロスワロス。どうせ私はピエロですよ。笑いたければ笑えばいいわ」
拗ねたようにアスモデウスに恨み言を吐けば、彼は優しい目をして私を抱き上げた。そうして子供をあやすかの様に、背中をさすられる。
「これに懲りたら、もう僕に嘘をついては駄目だよ」
アスモデウスは私の唇に人差し指を押し付けて、優しく微笑んだ。何故だかちょっと嬉しそうなのが癪だが、機嫌がいいに越したことはない。それにしても、アスモデウスを召喚したときにチェンジって言ったのも全部意味分かってたなこいつ。
召喚と言えば、アスモデウスを召喚したときの詠唱をどこで知ったのか聞かれていたのだった。
「あ、そういえば、さっきの話に戻るけど、アスモデウスを召喚したときの詠唱はニコラスが唱えていたものをそのまま言ったわ」
「だろうね。ということは、ニコラスはもう既に僕と同じ王の位を持つ悪魔を召喚している可能性が高い」
「王の位を持つ悪魔って?」
「旧約聖書に登場する古代イスラエルの王、ソロモンの使役する72の悪魔の中で、ソロモン王より王位を与えられた最上位の悪魔のことだよ。僕と、バアル、パイモン、ベレト、プルソン、ヴィネ、バラム、サガン、ベリアルの9体さ。それぞれ軍勢を持ち、悪魔の中でも絶大な魔力と権力を持っているんだ」
「王といってもたくさんいるのね」
「ソロモンに従属した悪魔の中でも特に力が強い僕らには、絶大な権力を持ったソロモン王によってこの世界を九等分にして与えられた。その代わりに、僕らの持つ悪魔の権能をソロモン王に一部譲渡したのさ。それが、人間が魔法を使えるようになったきっかけだ」
「なるほど、じゃあ私たちが使える魔法って元々悪魔の力なのね」
「ああ、だからそれに対抗するため、天使が人間に授けたのが光魔法なんだよ。5属性魔法や悪魔との契約を無効化し破棄できる唯一の力だ」
「だから光魔法ってあんなに希少価値が高いとされているのね」
なるほど、なるほど、悪魔について魔法について少し分かってきた気がする。
しかし、問題はニコラスだ。ニコラスが召喚した悪魔について知り、ニコラスを安全に止めるためにはどうすればいいかを考えなければいけない。
「ニコラスが召喚した悪魔についてだけど、僕の魔法が弾かれているところを見ると、僕と同じように常時ニコラスの側にいると考えられるね。うーん、そうすると人間が好きな王だろうけど、人を思い通りに動かす権能を譲渡してもらっていることも合わせるとパイモンかベリアルだろうね」
「その権能って何なの?魔法とは違うの?」
「まあ、魔法みたいなものだけど、魔法は僕らが持っている莫大な力という灯から派生して細々と燃え続ける所謂分火のようなものなんだよね。権能というのは、その大本の灯のことだから、力の質と量が全く違うのさ」
なるほど、悪魔の力を薄めずにそのまま貰えるって感じなのか。なんだそのチートみたいな力、私だって同じ王の位の悪魔を召喚しているのにニコラスだけ持っているのずるくないか。
「はは、まあ僕も君に僕の力の一部を権能としてあげることはできるよ」
「え、欲しい欲しい。できれば、すごく強いやつ」
「でもオリヴィエは、魔術師としても召喚術師としてもまだ半人前だから、もうちょっと強くなったらね」
どうやら私はその悪魔の権能をいつかゲットすることが出来るようだ。ニコラスが“人間を思い通りに動かす”という権能だったが、私はどんな力を手に入れることが出来るのだろうか。アスモデウスっぽい権能を考えてみるが、あまり思いつかない。
そもそもアスモデウスはどんな力を持った悪魔なのだろうか、今までアスモデウスが使っていた魔法は単純な攻撃魔法と遠視魔法だけだ。流石に王の位を持った悪魔なのだから、何かしらすごい力を持っていそうではあるが。
「アスモデウスって、どんな力を持った悪魔なの?」
「なんだい、今日のオリヴィエは知りたがりだね」
「いいじゃない、知っていた方が後々困らないわ」
「うーん、教えてもいいんだけど」
「だけど?」
「多分今のオリヴィエでは、僕の能力を理解できないと思うんだよね。だからもうちょっと魔法について勉強してからにしようか」
アスモデウスは悩んだ後、少し困ったような表情をしてそう私に告げた。
今の私では理解できないような能力って、どれほど高等な魔法なのだろうか。突然空から大量の剣を落としたり、瞬間移動のように空間転移をしたり、地震を起こしたり、私の持っている魔法の知識などそれくらいしかないが。
「え、それくらいは全部できるよ」
「出来るんかい」
「ふふふ、もっと凄い力だから楽しみにしておきたまえ。オリヴィエ、きっとびっくりするだろうなぁ」
やはり王の位をもっているアスモデウスは絶大な魔力を持っているようだ。そんな悪魔と契約できていることは少しだけ誇らしいし、何よりもこれからのDEADENDフラグ破壊の協力者としても非常に頼もしい限りである。
そして少なくともニコラスが王の位の悪魔を召喚しているということは、後々必ず王の位の悪魔と対峙しなくてはいけない。ニコラス以外の攻略キャラにかかっている悪魔の呪いだって、解かなければならないのだ。
それまでに、アスモデウスだけに頼るのではなく、私自身もより強くなっている必要がある。アスモデウス曰く、私は魔法も召喚術も、どちらも半人前らしいのでもっと知識を付けなければならない。
「アスモデウス、私に魔法を教えて頂戴」
「喜んで、僕は君の師でもあるからね。でもその前に、約束忘れてないかい?」
「え?」
約束、何か私はアスモデウスと約束していただろうか。思い出せずにいると、アスモデウスは見る見るうちに拗ねたように唇を尖らせた。
「僕と!!二人で!!話が終わったら城下に遊びに行くって約束したよね!!」




