攻略キャラについて整理をしました。
「今から、私の死に関わる人々について説明します。こら、見るからにやる気を失わない」
「うーん、オリヴィエ以外あんまり興味がないなぁ」
「アスモデウスだって、どんな呪いがかかってるか分かった方が一緒に対処しやすいでしょ?」
「君が願ってなかったら正直どうでもいいし、有象無象の人間の呪いなんて毛ほどの関心もない」
アスモデウスはウサミミをつけたままベッドでゴロゴロ転がりながら、私が厨房から持ってきたスコーンをもそもそ食べている。悪魔の王様だとは思えないその姿に思わず呆れてしまう。しかしながら、ベッドの上に零れたスコーンのカスをきちんと魔法で集めてゴミ箱に捨てている所からは育ちの良さが伺えるが。
アスモデウスに呼びかけても、スコーンうま~としか返ってこない。正直引っ叩きたいが、なんとかやる気を出してもらわないと困るのは私の方だ。
「この話が終わったら、城下に遊びに行きましょ。お母さまに馬車を出してもらえるようお願いするわ」
アスモデウスは私の提案を聞くと目をきらきらと輝かせて、ベッドから飛び上がった。
「城下!良いね、人間の世界を歩いて回るなんて何千年振りだろう。丁度欲しいものもあるし、さっさと話しを終わらせて城下に行こうか」
どうやら私の提案はアスモデウスのお眼鏡に叶ったようである。このやる気がある状態のうちに、なんとか説明を終わらせたいところだ。
アスモデウスは、壁にかかっていた鏡を持ってきて、それをベッドの上に置いた。
「どうしたの?その鏡何に使うの?」
「今から君に関係する人間について教えてくれるんだろう?だったら見た方が早いと思ってね。」
「見るってどういうこと?」
「説明するより実践した方が速そうだ。オリヴィエ、その人たちの名前と説明をして」
アスモデウスが何をしようとしているかはイマイチ分からないが、この雰囲気ならちゃんと聞いてくれそうである。
「じゃあ、説明していくね。まずは第二王子のレイノルド・フィリップスから」
レイノルド・フィリップスはこの聖ロストベルト皇国の第二王子であり、私の婚約者でもある。青みかかった灰色の髪に緑色の瞳をした美青年だが、呪いによって心が凍っているため、感情がなく無口で表情がほとんど動かない。また痛みを感じないため、進んで他者の犠牲になって傷つこうとする。
レイノルドの母はフィリップス皇家の元使用人であり、レイノルドを産んだことで第二皇妃となっている。そのため、レイノルドは所謂妾の子であり、皇家の中でも彼は疎まれている。そのため、ゲームの中では明かされていないが、身に受けている呪いも皇家の中の誰かが付けた可能性が高く、非常に不遇な立場にあるキャラクターであると言えるだろう。
私が彼の婚約者となったのは、レイノルドを王にするために権力を持った家柄の令嬢を欲した第二皇妃によって、絶大な権力を誇るノートルダム公爵家が選ばれたからである。そのため、レイノルドはオリヴィエを愛しておらず、オリヴィエもそんなレイノルドに気づいて、魔法学校で様々なキャラクターとフラグを立てようとする。
「ふーん、それってこの子であってる?」
アスモデウスは私を手招きして、鏡の中に移ったものを目の前に示した。
そこには、私がちょうど説明していたレイノルドが幼い姿で映っている。お城のような場所で、背丈より大きな椅子にちょこんと座り、全てを諦めたような冷めた表情で窓の外を見ていた。
そうか、確かに今レイノルドは私と同じ10歳なので、このくらいの見た目だろう。もしかするとこれは見たいものを映しだす魔法なのだろうか。
「そうだよ、これくらいのことは朝飯前さ。それとオリヴィエの予想通り、彼、悪魔召喚の代償によって感情と痛覚を奪われてるね」
「やっぱり、じゃあ契約を上手く破棄できれば助けられる?」
「うん、でも今のままではまだ情報が足りないけどね。取りあえず今は次の人いこうか」
「分かった、次は第一王子のエドワード・フィリップス」
エドワード・フィリップスはレイノルドの兄にあたり、王位継承第一位の正真正銘の王子様だ。母親は正式な皇妃であり、また彼自身も未来を嘱望されているからか、非常にプライドが高く唯我独尊で高慢な性格をしている。
弟であるレイノルドのことを平民の子と呼び、ヒロインのことも最初は下民と呼んで見下していたが、その優しさと平民ながら自分に向かってくる態度に心を許していく。
また彼は皇族らしく振るおうと高慢な態度をとっているが、実際はレイノルドのことも内心では認めており、自身が本当に王位を継承すべきか悩むなど非常に真面目なキャラなのである。
「ふーん、この子自体は呪われてるわけではないんだね。レイノルドの代償を一部引き継いでるだけって感じかな」
「やっぱり分かるんだ、そう、エドワードにかかっている呪いはレイノルドの呪いの一部でしかないのよね。レイノルドの凍った心の呪いに触れようとしたせいで、呪いが一部分だけ移って嫉妬心が強くなったはず」
「じゃあ、この子は放置でいいね。レイノルドの呪いを解けば自動的にこの子の呪いも解けるよ。次は?」
「次は、魔法協会の会長の息子で、5属性魔法を使える天才魔法使いのイヴァン・ボルシェビキ」
イヴァン・ボルシェビキはこの国の魔法に関わる全てを取り仕切る魔法協会の会長の息子であり、魔法学校を飛び級で進学している神童である。
ヒロインよりも年齢は二つ下だがヒロインの先輩にあたるという不思議な属性で、見た目は子供だが中身はクールでニヒルなギャップの塊みたいな美ショタなのだ。
ちなみにぶかぶかのローブを着てちょこちょこ動く可愛らしい見た目とは裏腹に、低く甘いテノールボイスなのも魅力の一つだ。
彼は炎、水、土、風、雷の5属性全ての魔法を使え、魔法学校を飛び級するほどの神童ではあるが、その反動で体が小さく弱い。その原因が彼にかけられた呪いであり、彼は魔法を使うたびに命を削ってしまい、原作ゲーム時点で余命があと数年となっている。
「なるほどね、恐らく呪いを一番簡単に解けるのは彼だろうね。召喚者と召喚した悪魔さえ分かれば、契約を破棄することができるよ」
「え、本当に?」
「うん、そもそも人間は5属性魔法なんて使えるはずないんだ。となれば、それは後天的に使えるように悪魔に願ったんだろう。だから悪魔への願いは「イヴァンが5属性魔法を使えるようになること」で、代償は「イヴァンの生命力」といったところかな」
「流石はアスモデウス、すごいわ」
思わずぱちぱちと拍手をすれば、アスモデウスは美しい赤い目で弧を描いて悪戯っぽく笑った。
「どうせ褒めてくれるんなら、もっと態度に示しておくれよ」
「じゃあ、はーいよしよし。アスモデウス偉い偉い」
「うーん、そういうことを言ったわけではないけれど、まぁ悪い気はしないから良いや」
10歳の幼女によしよしされて喜ぶ悪魔の王とは何とも不思議な光景だが、アスモデウスが喜んでくれるのであれば良いだろう。
アスモデウスの髪は驚くほど指通りが良く、絹のようにさらさらと流れていく。それがあまりに楽しくて遊んでいれば、こちらを見つめていたアスモデウスと目が合った。
彼の瞳の中に、幼いオリヴィエの姿が写っている。それは当然のことではあるのだが、何故だかとても神聖なことのように思えた。血を煮詰めたような赤い、赤い瞳の中に私の姿だけが写っている。
「オリヴィエ」
彼の髪を撫でていた手を取られて、彼の胸に抱きとめられる。小さな私の体は、アスモデウスの膝の上にすっぽりと収まってしまった。
「君の口から知らない人間の名前を聞かされるの、あまり気持ちよくないんだけど、あと何人我慢すればいいんだい?」
耳元で息を吹き込むようにそう囁かれて、顎をゆっくりと持ち上げられた。そうして逃げられないように腰を抱えられて、目線を合わされる。唇が触れそうなほど近い、そのせいか心臓が張り裂けそうなほどに高鳴っていた。これはアスモデウスの顔があまりに良すぎるせいなのか、それとも単純に恐怖で心臓が鳴っているのか、どっちなのだろう。
「あと二人、二人で終わるから」
アスモデウスの胸を押し返して、その場でじたばたともがけば、簡単に拘束は外れてくれた。彼は軽くため息をついて仕方ないとでもいった顔つきをして、ベッドから立ち上がり、お盆の上においた紅茶を淹れてくれた。
温かい紅茶が入れられたティーカップを受け取ると、アスモデウスは少しだけ拗ねたような表情をして口を開いた。
「オリヴィエは僕の契約者で死後魂をもらい受けるから、帰納的に君は僕の物なんだよ」
「なんですか、そのスーパージャイアニズム理論。あまりに暴論でびっくりするわ」
「この話が終わったら、僕がオリヴィエを独占するからね。城下に遊びに行くのは二人でだけだから」
この悪魔、意外と子供っぽいのだ。
私はアスモデウスが入れてくれた紅茶に口付けると、花びらの香りが口の中いっぱいに広がっていく。美味しいと、そう彼に言えば、当然とでも言いたげな顔をした。
「じゃあ、あと二人だけ説明させてね。次は、皇国騎士団長の息子コーネリウス・ドルトムント」
コーネリウス・ドルトムントは聖ロストベスト皇国を守護する皇国騎士団の団長の息子であり、非常に優秀な魔法剣士である。性格も公明正大であり、爽やかで誠実な騎士らしい男だ。
このゲームの中で一番王子様っぽい男であると言っても過言ではないほどに、良く出来た男である。しかしながら、実は彼の固定ルートはヒロイン殺しルートともいわれ、実は最も死亡フラグが立ちやすい危険な男でもある。
コーネリウスは、呪いを受けた子供を救うため、その呪いを引き受けることとなる。これは恐らくだが、悪魔召喚のせいで代償を払わされた子供の代わりに彼が代償を払うこととなるのだろう。そのせいで彼は満月の夜だけ、正気を失い、狂った殺戮者に変貌する。
難が多い攻略対象の中で唯一の良心だと思われていたコーネリウスが、他の攻略キャラを含めヒロインすらも斬殺するとは誰も予想していなかった。
「なるほど、でもまだ彼は呪いを受けていないようだね」
「うん、そうなんだよね。コーネリウスが呪いを受けるのは、あと2年後、コーネリウスが魔法学校に入ってすぐだから、まだ呪いはかかってないの」
「それは対策の仕様がないね、ではこの少年は一旦保留で。最後の一人は?」
アスモデウスがさっさと済ませようと、先を促してくる。私は攻略対象、最後の一人についてどう説明しようか答えあぐねていた。
彼の情報量は多すぎて、何から話していいか分からない。
「オリヴィエ?ねぇ、最後の一人は?」
「最後の一人は、ニコラス・エインズワース、彼はヒロインであるアリス・テールランプの幼馴染で、優秀な悪魔使いであり、」
私はそこで言葉を区切り、頭の中でもう一度これを言うべきか考えなおした。しかし、これは矢張りアスモデウスに伝えておくべきだろうと、口を開く。
「そして、この国を壊し、新たな王になろうとした男よ」




