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クソゲーの悪役令嬢に転生してデッドエンド寸前なので、ヤンデレ悪魔を召喚しました  作者: 志喜屋弥勒
アスモデウスと9人の王(学園入学前編)
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悪魔と仲直りをしました


「オリヴィエ様、私を救って下さった貴方様に一つご忠告を」


アスモデウスの怒りが収まったからか、グレモリーはアスモデウスの様子を窺いながらおずおずと口を開いた。アスモデウスはグレモリーの方を見たが、それでも先ほどの様に威圧するようなことはせずに、ただじっと彼女を見つめていた。


「グレモリーさん、教えて」


「先日この店に来て、貴方と同じようにソロモン王の腹心であった悪魔に認められた者がおりますわ。貴方はアモンから、その者はアンドラスから。互いに5属性魔法の祖である悪魔を従えております」


グレモリーの言っていることは半分以上理解できなかったが、私以外にもレアな魔法具をゲットしてそこに封印されている悪魔から認められた者がいる、ということだろうか。


「グレモリー」


アスモデウスがグレモリーを諫めるように名前を呼んだ。アスモデウスからすれば、これ以上私に余計な知識を与えたくないのだろう。アスモデウスの気圧されるような視線を向けられて尚、グレモリーは言葉を続けた。


「いいえ、これだけは。その者は貴方と同じく、王の位の悪魔を従えておりました。その者の名は―」


「ニコラス・エインズワース」


アスモデウスはそう被せるように告げ、グレモリーはそれにゆっくりと頷いた。


ニコラスも私と同じように、ソロモン王の夢を見たのだろうか。あの完全無欠の王の微笑みを見た彼は何を思ったのだろう。理想の王、誰もが彼を信奉する。そんな王に、彼が目指す王の姿を重ねたのだろうか。


ソロモン王について私はもっと知らなければならない、きっとそうすればよりアスモデウスを理解することが出来るのではないだろうか。アスモデウスから与えられる知識だけを吸収するだけでは、私はこの世界の内情を理解できない。だったら自分自身で必要な知識を蓄えるほかないだろう。


当然、アスモデウスは嫌がるだろうが。


「グレモリー。今回のみはオリヴィエに免じて、君の行動を水に流そう」


アスモデウスは横目でグレモリーを見つめ、感情のこもらない声でそう告げた。


「だけど今後オリヴィエを君たちの望みのために祀り上げ、闘争に巻き込むことがあれば僕は君たちを許さないよ」


凍り付くように低い声でアスモデウスはそう告げた。グレモリーはこくりと頷いて、膝を付いて頭を下げた。

私は正直彼らの言っていることが何一つ理解できなかったが、取りあえずアスモデウスが怒りを治めてくれ、グレモリーが殺されずに済んでよかった。しかもニコラスの情報も知ることが出来て、なんだかんだ収穫は大きいのはでないか。


それに、少なくとも私はこの騒動のお陰でアスモデウスが私に何か隠したいことがあることを知ることが出来た。そして、恐らくそこに私とアスモデウスを取り巻く何か秘密が隠されているのだろう。


アスモデウスはそんな私の思考を打ち消す様に、私の手を強く引いて店から出ていこうとした。私は慌ててグレモリーの方へ振り返り、彼女に礼を言った。


「グレモリーさん有難う。このアモンの短剣、大事に使わせてもらうね」


私が努めて明るくそう言えば、グレモリーは安心したように微笑んだ。やはり私には彼女がアスモデウスの言うような悪人(悪魔だが)とは思えないのである。


「また会いましょう、私たちの新しい王候補さん」


グレモリーは別れ際に何かを言っていたような気がしたが、私は彼女が最後に何を言おうとしていたかを聞き取ることはできなかった。


――――――――――――――


アスモデウスは、ずっと黙ったまま私の手を引いて歩いていた。氷のような冷たい手が、私の手首を握りしめている。彼の長い爪が手首に食い込んでいて、少しだけ痛かった。


「アスモデウス、痛い」


人通りの多い城下の大通りに差し掛かった時、アスモデウスは漸く足を止めた。ざわざわとした大通りの人ごみの中で、アスモデウスはゆっくりと私の方を振り返った。


「なんで、アスモデウスが泣きそうなの」


アスモデウスは人形の様に綺麗な顔を歪めて、今にも泣きそうな表情をしていた。


泣きたいのはこっちの方であるというのに。


散々訳の分からない話をされて、目の前で悪魔とはいえ誰かを殺そうとされて、彼に何かを隠されている。全くもって、私にこそ文句を言う権利があるのではないだろうか。


「オリヴィエ」


「なによ」


「僕のこと、嫌いになったかい?」


アスモデウスは消え入りそうな声で、私にそう問いかけた。そんな置いて行かれた子供のような顔をされたら、許してしまいたくなってしまう。

そもそも私に許すも許さないもないのだ。アスモデウスがいなければ、私は7年後にDEADENDルート一直線なのだし、私は協力をしてもらわなければどうしようもない立場なのである。なのに、どうしてこの悪魔はこんなに不安そうなのだ。


「別に嫌っても怒ってもないわ、隠し事をされるのはムカつくけれど」


「本当に?」


「本当よ。アスモデウスこそ怒ってるんじゃないの?私が何でも知りたがるから」


アスモデウスは少しだけ目を伏せて、そして首を横に振った。


「いいや、僕も君に怒っていたわけではないよ」


悪魔は漸く笑みを見せたが、やや自嘲的なそれはいつもの彼らしい笑みではなかった。目を離せば消えてしまいそうな淡い微笑みをして、悪魔は唇を閉じた。


「ああ、もう、面倒くさい悪魔ね」


私はアスモデウスの服を引っ張って、顔を近づけるとその頬を両手で挟んだ。びっくりするくらい艶々でシミ一つない肌が憎らしい限りだ。


「アスモデウスが私に何を隠したいのかは知らないし、今はそれでいいわ。だけど、貴方は私と契約を結んだんだから、しっかりと死亡フラグ折ってくれなくちゃ困るんだからね」


私はノンブレスでそう捲し立てて、頬を挟んだままアスモデウスと視線を合わせた。アスモデウスは美しい深紅の瞳の中に私の姿を映していた。徐々に彼の瞳の中に力が戻ってくるのを感じる、そうだ、それでいいのだ。

アスモデウスは飄々として、途方もなく強くて、残酷で、でも子供っぽくて幼いのが彼らしい。


「私を死の運命から救ってくれるんでしょ、しっかりして」


私の言葉を聞き終わると、泣きそうな、でも少しだけ嬉しそうな顔でくしゃりと笑った。私が彼の頬を挟んでいる手を取り、そしてそれに縋るように握りしめた。


「ああ、勿論だよ。オリヴィエ、僕の契約者」


長いまつげを瞬かせて悪魔は優しく微笑み、私の小さな体を抱きしめた。よしよしと背中を撫でてやれば、アスモデウスは落ち着いたようで、瞼を閉じた。



しばらく私は彼の背中を撫でていたのだが、周囲の奇異な視線を感じて冷静になってしまった。


いや、今の状況なんやねん。


城下の大通りで人通りの多い中、小さな少女を抱きしめ続ける絶世の美青年。これは確かに人目を集めてしまっても仕方がないだろう。私は出来るだけ顔を見られない様に俯くが、それでもひそひそと通行人が私たちのことを話しているのが聞こえた。


「あらやだ、なにかしら」


「幼女趣味の男が、手に入らない商家のお嬢さんに告白して振られたんだとよ」


「え、俺は生き別れの兄妹が再会したら、実は本当は赤の他人だったって聞いたぞ」


何やらよく分からない話になっているようであるが、これはどう収集を付ければいいのだろうか。取りあえずアスモデウスの肩を揺すって起こそうとするが全然起きあがってくれる気配がない。

しかしこのまま、公衆の面前で醜態を晒し、あらぬ噂を立てられるのも困るのである。早く起きてもらうために、アスモデウスの顔面を指先で連打するように突けば、彼の唇が少しだけ弧を描いていることに気が付いた。


こいつ、まさか、この状況を楽しんでいるのではないか。


「あははは、本当にオリヴィエは分かりやすいんだから」


アスモデウスに囁かれるようにそう呟かれた瞬間、私は思わず彼の顔面に拳を叩きつけようとしてしまった。勿論アスモデウスは予想していたのか、すっと子供をあしらうかのうように払いのけられる。


「~~~~~、本当に、アスモデウスは、私結構心配してたんだけど」


「ごめんごめん、オリヴィエが困ってるの見てちょっと面白かった」


「殴らせて、一発でいいから」


アスモデウスは私の拳をひょいひょいと避けながら、立ち上がった。逆に私は殴りつけた反動で転びそうになってしまうが、アスモデウスに簡単に支えられてしまった。アスモデウスはさっきまでの不安そうな顔はどこへやら、完全にいつもの調子に戻っていた。


私を揶揄うようにニンマリと唇に弧を描いて、微笑んでいる。その姿を見て、私は何故だか心の中に温かい気持ちが広がっていった。元のアスモデウスに戻ってくれたような気がして、安心したのだろう。

こうして余裕そうに飄々と笑う方が彼に似合っていて、王として権力と力を振るい怖い顔をしたアスモデウスよりも、私はこちらのアスモデウスの方が好きだと思った。


「全く、切り替えが早いんだから」


私はそう悪態をつきながらも、思わず笑ってしまった。そうして、アスモデウスの氷のように冷たい手を握って、今度は私が走り出した。アスモデウスは驚いていたが、私の手にひかれるままゆっくりと走り出した。


「ほら、行くわよ。まだまだ城下には楽しいものがいっぱいあるんだから」


アスモデウスの方を振り返らずにそう言って、魔法協会の本部である大聖堂の近くのスイーツショップに向かって足を進めていく。城下に来るのは久々だが、この前カーシェお兄様が美味しいスイーツショップが職場である大聖堂の近くに出来たとお土産を買ってきてくれたのだ。

お店に併設された喫茶店でしか食べられないスペシャルスイーツもあると聞くし、城下に折角来たのだから食べに行くしかない。


アスモデウスが急に立ち止まって、思わずつんのめってしまう。何かと思って振り返れば、気まずそうな表情で頬をかいていた。


「あ、言い忘れてたんだけど、グレモリーのお店で奥様から貰ったお金全部使っちゃった。えへへ」


「ごめん、やっぱり一発だけ殴ってもいい?」


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