閑話:アイーシャ・ノーラント
私は、いわゆる戦災孤児だ。
当時、王国ではあちこちで小競り合いが起きていた。
原因は、先代の魔王様へ反旗を翻した、一部の貴族たちによるものだ。
私が住んでいた小さな村は、その犠牲となった。
─ アイーシャ、逃げなさい!!
それが、母の最後の言葉。
父は、私と母を守ろうとして切り捨てられた。
怒号と悲鳴、むせ返るような血の匂い。
今でも夢に見る。
木のウロに身を隠し、ひたすらジッと隠れていた。
やがて辺りが静まりかえって、そうっと這い出てみると…
そこには、私の知ってる村はなかった。
壊された家屋と、燃え盛る炎。
お父さんも、お母さんも、隣のおばあちゃんも。
皆、殺されて、燃えてしまった。
あまりにも現実離れした光景は、悪い夢でも見ているようだった。
「遅かったか……」
「……だぁれ?」
「お前は…そうか、生き残りがいたか」
炎に包まれた村を眺めていると、見知らぬ大人が近づいてきた。
藍色のローブ姿の、魔術師。
不思議と、怖いとは思わなかったのを覚えている。
「娘、名は ?」
「アイーシャ」
「年はいくつだ」
「10歳」
ぎこちないながら、そっと頭を撫でてくれた手は、酷く優しかった。
それが、私とベネフィアット様の出会い。
その日から、ベネフィアット様こそが私の全て。
ベネフィアット様は、私にあらゆる教育を受けさせてくれた。
幸いにも魔術や剣の腕には、そこそこ才能があったらしい。
部下としてベネフィアット様の手助けが出来るようになった。
賢者という二つ名を持つ程の知識。
魔王様すら頭が上がらぬ、鋼鉄の宰相。
知れば知るほど、ベネフィアット様への忠誠心は増すばかり。
この御方の一番の部下である事は、我が誇り。
なのに。
なのに、これは何の冗談だ?
ベネフィアット様が隠居した??
「うむ、新たな世代で新たな国を作っていくのだ!」
「素晴らしいご判断です、魔王様!」
「うむ、これから忙しくなるぞ!」
どうせ、バードメラ家の仕組んだ事だろう!
頭の上がらぬ存在が疎ましかったのか、何が魔王だ!!
ベネフィアット様宅はすでにもぬけの殻。
私宛に、手紙が残されていた。
書かれていたのは、自由に生きろというメッセージ。
(宰相様を、ベネフィアット様を探さなくては!)
ベネフィアット様のいない魔王国なんて、未練はない。
今頃、おひとりで不自由してはいないだろうか。
待ってて下さい、必ず見つけて見せます…!
◇◇◇◇
いや、まさか別の大陸にいらっしゃるとは思いもしませんでした。
てっきり人族に囚われているのかと…
でも、こうして無事に再会出来て感無量です。
「アイーシャよ、こんな年寄りで良いのか?」
「ベン様、お慕いしております」
「あの日、幼きお前と出会ったのは運命だったのやも知れん」
「運命…ええ、きっと」
「我が妻に、なってくれるか?」
あの人族の少年には感謝しなくては。
何となく、対立してはいけない気がする。
腕にはそこそこ覚えのある私が、手も足も出なかった。
え、ベン様も?……本当に何者なんでしょうね。
さあ、そんな事よりベン様!
今日は私たちの初夜ですよね?
私、赤ちゃん欲しいです!頑張りましょう!!
1550年前からずっと、愛してます…旦那様。
読んでくださって、ありがとうございます。
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