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手中のスマホに目をやる。画面は花咲ちゃんのイラスト投稿ページのまま止まっていた。
話が逸れて、またもやフォロー許可するのを忘れていたことに気づく。私はそのまま画面を閉じ、先程の出来事を反芻した。
あの脳裏に焼き付いたイラストは、たしかに上手な部類に入る。しかし、それはあくまで小学生というアドバンテージがあるうえで、だ。
客観的に見れば、おそらく私の方が上手い。手の描き方や顔と身体のバランスなど、拙い点は多い。色塗りだって光陰がばらばらで未熟だ。
この絵のどこに魅力があるかと問われれば返答に迷う。所詮、小学生と考えれば褒めるに値する、程度だ。
それなのに、私が一ヶ月かけて伸ばした『いいね』の数を、この子はたった一夜で追いつこうとしている。
現状のアルゴリズムがどうなっているのかは分からない。花咲ちゃんのイラストがなぜ目立ったのか、皆目見当もつかない。
対照的に、爆発的な注目を浴びることなく地道に伸びていった私のアカウントには、アンチすら湧かない。
あぁ、かつての自分みたいだと思った。親や友達に持ち上げられて、持て囃されて、上手い気になって。
もしも、私の時代に今のような環境があったなら、私だって調子に乗って投稿していただろう。そして花咲ちゃんみたいに注目されて、賛否両論あったとしても、思う通りに突き進めていけたなら。
いや、しかし。小学生時代の自分の技術は、果たして彼女と比べて遜色ないと言えるだろうか。あの頃はデジタルで描く方法も限られていた。そもそも家にパソコンがあったかすら覚えていない。
あれ、今私は何をしに、ここにいるんだっけ?
次々と思考が切り替わる。得体の知れない胸騒ぎがしてきた。どくどくと、鼓動が早くなるのを感じる。
蝉が、まだ鳴いている。その音とあの子の無邪気な笑顔がこびり付き、私はつい頭を抱えた。そしてパンクしそうな思考を整理しようと、しばらくその場で動かずにいた。
夕風が吹いて、鞄から少しはみ出ていた紙束が靡く。私はそれをばっと掴み、乱暴に鞄に押し戻した。
何かが、全てが良くない方向へ進んでいる予感がした。暑さで脳が焼かれている感覚がする。それが果たして本当に暑さのせいかは分からなかった。おぼつかない足取りで家路につく。
靴を脱ぎ捨てると冷蔵庫に直行し、ストックしていたミネラルウォーターを取り出す。ほてった体に冷水が染み渡り、少しだけ心身の落ち着きを取り戻す。そのまま機械的に夕食、風呂を済ませ寝床へつく。
何も考えたくないのに、脳は勝手に思考する。黒いモヤが全身を纏っていくような感覚がした。
目が冴えて眠れない。ダメだと分かっていても、手元のスマホはいつの間にかSNSを開いていた。
花咲ちゃんは宣言通り、新しいイラストをあげていた。今度は別作品のファンアートのようだった。構図は前回と似通っていたが、キャラ自体は特徴の違いがちゃんと描かれていて、きちんと差別化ができている。
そこにはまたも、賞賛するコメントで溢れ『いいね』はあっという間に三桁に。そしてリアルタイムでどんどん拡散され増えていく数字を見て、私は耐えきれずスマホの電源を切った。
その日から、花咲ちゃんと話すことはなかった。
なぜかというと、あの河原に行っても、彼女らのグループへ話しかける隙がなくなってしまったからだ。
以前のように、通りがかる際に声をかけようも、彼女たちは話に夢中になっていて、周りのことなど見えていないようだった。
元々、堤防側からは注意深く見ないと人がいることに気づかない高さだ。花咲ちゃんはこちら側を気にする様子もなく、前だけを見て進んでいく。
ある日、彼女の友達の一人と目が合った。優しそうな雰囲気のタレ目の女の子だった。しかし、視線はすぐに逸らされ、何事もなかったように会話を続けたまま、彼女たちは去って行った。
そのときようやく、私は彼女らの意思を察し、寄り道することをやめたのだった。




