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苦い恋は珈琲のあとで  作者: あおあん


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22/33

22,夢の中

あまりに照れくさくて、目が合わせられない。


頑張って見ようとするけど、眩しい……とすら感じてしまう。


「瑠璃、おはよ」


昴君は今日も早起きして、何かを作ってくれたみたいだ。


「おはよ。良い匂いがしてる」


「早く来て」


和食だった。


ご飯とお味噌汁、卵焼き、お漬物。


「すごいね……」


「焼き魚とかいる?」


「もうこれ以上は……」


胸もお腹もいっぱいだ。


「ねえ、瑠璃、今日は買い物に行こう」


「いいけど、どこに?なにを買うの?」


「行けば分かる」


そう言って連れて来られたのは、高級なジュエリーショップだった。


「いいから入ろう、まずは見るだけ」


腕を引っ張られる。


昴君は加減をしてくれてるけど、私は全力で抵抗している。


「嫌。要らない。入りたくない」


「要らないなんて言うなよ」


そんな拗ねた顔してもダメ。


「要らないもんは要らない!」


店の佇まいに似つかわしくないやり取りをしている私たちはきっと変な目で見られてる。


「放して。お願い。本当に入りたくない」


「なんだよ。揃いの物が欲しいと思って、どこがいけないんだよ」


昴君はふくれて、店からスタスタと離れていく。


良かった。これでいい。




***




「昴君、ごめんって」


アイスコーヒーを私が淹れて、ご機嫌を取る。


「俺といるのがそんなに恥ずかしい?カップルとか思われるのが嫌なわけ?」


「昴君だから恥ずかしいってわけじゃない。カップルと思われると私が嫌な思いになるの」


ふぅっと鼻から息を吐き、昴君が私を抱き寄せる。


「気にし過ぎだよ。誰も俺たちのことなんて眼中にないって」


そんなこと分かってる。


でも気になっちゃうんだもん。


「買い物はまた今度でいいよ。他の方法で機嫌取ってもらうから」


そう言って、昴君の部屋に連れ込まれた。




***




「疲れたから外に食べに行こう」


「そうだね」


もう真っ暗になっていて、雨も降り始めていた。


「また蕎麦屋に行く?あそこのかつ丼も旨い」


「いいね。昴君、この辺に詳しいみたいだね」


「まあ……住んでたことあるから。母ちゃんと、そん時の彼氏と」


(おっと。地雷か?)


「瑠璃が寝てるの母ちゃんの使ってたベッドだよ。この辺の家電もみんな、その時のまんま」


「そうだったんだ」


通りで。昴君は勝手を知り尽くしてるし、今時、家具付きの賃貸マンションなんて不自然だと思った。


「じじいが甘すぎんだよ。だからあんな自立できない大人になっちゃったんだ。男に流され過ぎなんだよ、あいつは」


昴君のお母さまへの評価は手厳しい。


「瑠璃は大丈夫だもんな。俺に流されない」


「そうとは……言えないかも……」


もちろん流されて今があるわけじゃないけど、非常識なことだって思いつつも断り切れない私は流されてるって言えるよ。


「じゃ、行こか」


でも大きな傘が1本しかなかった。


「私、折り畳み持ってるから」


取りに戻ろうとしたら、昴君に手を掴まれた。


「一緒に入って行こ」


(でた……恥ずかしいんだってば、そういうの)


「暗いし、誰も見てないよ?」


今日はずっと断ってばっかりだった気がして、これくらいなら折れてもいいかと思えた。


ただの相合傘でも恥ずかしいのに、昴君は「濡れるから」と言って私の肩を抱いた。


昴君の息が耳にかかってくすぐったい。


何も付けてないはずなのに、甘くていい香りがする気がした。


「なんだかごめんね、勝手に拗らせちゃって」


「いいよ。瑠璃だから許す」


そう言ってもらって、2人で微笑み合った。


「へい、いらっしゃい!」


お茶を持って来た、威勢のいい店員さんに声を掛けてもらった。


「昴君、久しぶりじゃねえか。爺さんは元気か?」


「はい。相変わらずです」


「お母さんは、ちょっと雰囲気が変わったな?綺麗になったか?」


(そうなるよね……)


お母さまに間違われて、胸からズキズキと大量出血を起こしている。


「は?あんなのと一緒にすんなよ。俺の彼女だよ」


「あれ!それは大変失礼しました。昴が女なんか連れてくっから、てっきり家族と思っちまった。通りで、そうだよなあ?俺ってば、どこに目玉つけてんだって話だよなあ?」


店員さんはおろおろしながら行ってしまった。


「ごめんね、昴君」


「次、謝ったら、いじめるぞ」


「え?」


「瑠璃がどんなに嫌がっても、俺、やめないから」


さっきまでの事を思い出して、顔が熱くなる。


「容赦しないから、気を付けろよ」


「はい」


昴君の意外な一面を知ってしまった。


にやりと笑っている昴君にドキドキが止まらなかった。


女として見てもらえてることに、こんなにも高揚するなんて。




***




昴君と暮らしていると、甘やかされてダメ人間になってしまいそう。


料理は上手いし、家事もできるし、職場でもほら……


「店長、ブレンドの豆、またちょっと調整していい?」

「うん。お願い」


気が利く提案、その後に……


「瑠璃、昼休憩一緒にいい?カレー食い行かない?」


と耳元で囁かれる。


人づきあいが苦手だと思っていたけど、とんだ『たらし』に生まれ変わってしまったようだ。


山室君と京介君は、見慣れたというか、見飽きたのか『気にも留めない』って感じだったけど、私は他のバイトスタッフや、お客様の目が気になって、いつもビクビクしている。


「ちょっと近いから……」

「あ。わりぃ」


すまなそうに一歩下がる昴君に、胸が詰まる。


「1時半でいい?」

「?」

「お昼休憩、1時半になったらカレー食べに行こう」

「やった」


その笑顔にとどめを刺される。


ああ。幸せ過ぎてどうにかなりそう。


昴君は全力で私への好意を伝えてくれる。


けどもう、私のそれは昴君の気持ちを越えてきてるかも知れない。


隠しきれなくなってきてる想いを、どう取り扱っていいのか分からない。


「店長?」


バイトスタッフに言われ、はっと我に返る。


「山室さんが呼んでますよ?」

「あ、ああ」


心ここにあらずの時間が増えて、仕事でミスしないか心配だ。


好きな人のことを考えて『ドジっちゃいました』が許される歳でも、立場でもないのに。


頭を小刻みに振って、邪念を追い払う。


「山室君、どうかした?」


仕事モードに切り替えた。




***




「こんなとこにカレー屋さんなんてあったんだね」


店舗からほど近いのに、さっぱり気が付かなかった。


「知り合いがやってるんだ」


「へえ。友達いないって言ってなかった?」


「友達じゃない。ただの知り合い。スパイスの調合に意見を聞かれただけ」


「それって充分、友達だと思うけど?」


「違げえし。金もらったから、仕事だし」


「ふぅん、あっそ」


あまり自分のことを話してくれないから、ちょっと新鮮。


「おお!昴!来てくれたんだ。サンキュー」


息が止まった。


てっきり男の子かと思っていたから。


「繁盛してんの?」

「おかげさまでー。今日は2人?」


親し気に話している声が、だんだんと遠くに聞こえてくる。


「瑠璃、こっちだって」


昴君について、カウンター席に着く。


「いつもの2つ」

「あいよ」


ちゃきちゃきの印象がある、ベリーショートの小柄な女性から目が離せない。


「気になる?」

「え?」


昴君がチラチラとこちらを見ている。


「嫉妬した?」

「そんなんじゃ……」


昴君はぷくっと頬を膨らませた。


「ちぇっ。嫉妬しないのかよ」

「え……」


してるに決まってるでしょ。


「やっぱなー。あれじゃ、嫉妬を煽れないか」


昴君は勝手にお水をお代わりした。


「なんか今、失礼なこと言われた気がするんですけど!」


厨房で女の子が声を張る。


「やっぱお前じゃ駄目だった!」

「あははは。だから言ったじゃん!私なんかじゃ、昴の恋人には太刀打ちできないって!」


ゲラゲラと笑っている2人に付いて行けない。


「コイツ、彼女自慢しに時々来るんですよ」


カレーとナンの湯気が立ち込めるプレートが出された。


「そんでもって、その彼女さんに焼き餅焼かせたいとか言って。馬鹿ですよねー?」


「お前、それ以上言ったらいじめるぞ」


それは、昨日私に言った『甘いお仕置き』の言葉だから……使って欲しくなかった。


「お前の秘密しゃべる」


「はあ?昴、はあ?相変わらず性格悪い。捻くれてる。彼女さん、こんな奴のどこがいいんですか?……あっ……」


ちっとも笑えてない私に、2人が気まずそうに目配せをした。


「やば」


そう言って昴君が私の首筋にキスをした。


「なんだ。昴、大成功じゃん」


「サンキュ。ユキト」


2人は「イエーイ」と言いながらハイタッチをした。


「コイツ、元男」


「ユキって呼んでくださいね。瑠璃さん」


可愛いけどさぁ……




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