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「秋葉原なんて久しぶりですよー!!」
「悪いな、一希。案内頼んじゃって」
あの襲撃から約二週間が経過した。
生活にこれといった変化はなく穏やかな日常が続いている。久さんの方でもあの獣人三人組の足取りが掴めたみたいで、そのうち事態は終結する見込みということだった。
そして、今日はタイガさんとの約束の日。代理で購入してほしいと依頼のあったゲームの発売日だった。
そのため、俺、サリィ、一希の三人で秋葉原の街にやって来たというわけだ。
「それにしてもすごい街ね、ここ。色の統一感が全くないし、女の子の絵がそこら中にあるし……。あと、あの変な格好している女の人は何?」
「あれはメイドさんだね! え、なになに! サリィちゃん、コスプレとか興味ある!?」
「め、めいど? こ、こすぷれ?」
聞いたこともない単語の数々に、サリィはくるくる目を回している。
「いや、でもダメだ! サリィちゃんにコスプレなんてさせたら、治さんの目が釘付けになっちゃうよ!」
「おい、人をコスプレ好きに仕立て上げるな。大体、サリィは存在自体がコスプレみたいなもんだろ。これ以上はやりすぎ感あって微妙じゃないか?」
「――はぁ、これだから素人は」
一希は肩をすくめてやれやれポーズをする。
「おい、うざい反応するな」
「いいですか、治さん。猫耳ってのは何とでも掛け算できるんですよ。猫耳は最強なんです。
想像してみてください。猫耳メイド、猫耳サンタ、猫耳制服、猫耳スク水、猫耳ナース、猫耳チャイナドレス、その全てがきちんと成立します」
一希に言われて、それぞれをなんとなく頭で想像してみる……うむ、確かに。猫耳ってのは意外と使い勝手が良さそうだな。
しかし、このまま言い包められるのは癪だ。反論させてもらう。
「あぁ、確かに猫耳は万能かもしれん。だが、『何とでも』掛け算できるってのは間違っているんじゃないか?」
秘技、論点のすり替え。某ネット掲示板創設者にも引けを取らない。
「というと?」
「そうだな。例えば、バニーガール。後は天使と悪魔なんかもそうか。すでに他の生き物などがモチーフになっているものは、猫耳との相性が最悪だろ」
「あはは、治さんは甘いなー。日本はヘンタイの国ですよ? そんなのすでに存在するに決まっているじゃないですかー」
得意げな顔をして一希がこちらを見る。
それからスマホを取り出して、『猫耳・バニー』や『猫耳・悪魔』といったワードで検索をかけた。決して少なくない数の画像がヒットする。
そして、どれもそれなりに可愛かった。ちゃんとマリアージュしている。
「言う事ねぇわ、やっぱコイツ強ぇわ」
それってあなたの感想ですよね、とか言う暇もなかった。
「……ねぇ、タイガさんの買い物のこと忘れてない、二人とも」
『やべ(やば)!』
肝心の目的を忘れるところだった。サリィの指摘で現在のタスクを思い出す。
「悪い、一希。この店なんだが案内頼めるか?」
「あいあいさー!!」
今日はこのために一希を呼んだのだ。俺は秋葉原の土地勘がない。こういう事に関しては、一希が一番詳しいからな。とても頼りになる。
案内に従ってジグザグと進むこと数分。お目当ての商業ビルにたどり着く。
「ここの四階だよな」
「ですね、成人向けゲーム……エッチなやつは全部そのフロアにあるかと!」
さて、どうしたものか。この手のゲームはタイトルやイラストが似たようなものばかりなので、出来れば有識者である一希を連れて行きたい。
そうなるとサリィ一人を残すのも悪いので、必然的に中まで付いて来てもらうことになるのだが、これから行くフロアは間違いなくサリィにとって刺激的だ。
成人向けゲームとは言っても、十八歳以上を対象にしたものなので、サリィも年齢的には問題がないのだが、さすがに憚られるよな。
「なぁ、サリィ――」
「いいわよ。私、ここで待ってるから」
俺から確認をする前に、サリィの方からそう提言してくれる。
「マジか、いいのか?」
「だ、だって、今から買いに行くのってそういう……やつなんでしょ? ちょっとそれは恥ずかしいし……」
「じゃあ悪い。すぐ済ませてくるから、そこで待ってくれ。食べ物に釣られてフラフラと歩き回ったりしないように」
「しないわよ!」
いつものようにサリィを揶揄って、俺は一希を引き連れて建物の中に入った。
……後になって、この時の判断を後悔することになるとは知らずに。
「いやー、治さんの性的嗜好が分かって満足です」
「何一つ匂わせた覚えはないぞ」
頼まれていたゲームを無事に購入して店の外に出る。
「えー、ボクの見立てでは――って、あれ? サリィちゃんは?」
「おいおい、店の前で待ってろと言ったのに」
出口の前で待っているように頼んだはずなのだが、そこにサリィの姿はなかった。
「食べ物関係ですかね……?」
「あいつならやりかねないけど、まさかな……一応電話してみる」
スマホのメッセージアプリを起動し、最近作ったサリィのアカウントアイコンをタップ、続けて電話のUIボタンをタップしてサリィに電話を掛ける。
「出ない、な。スマホ見てないのかね」
「じゃあちょっとボク、周辺を見て来ますよ!」
「助かる。あいつが戻って来た時のために、俺はここで待ってるわ」
一希が捜索に出た後も、繰り返し電話を掛けるが応答がない。
メッセージでも「どこにいるんだ」と送信しておいたが、そもそもスマホを見ていないなら意味がない。
ったく、心配かけやがって――――お、既読ついた。よかったよかった。
とりあえず連絡は取れる状況にはあるみたいだが――――え、は?
「どういうことだよ!」
サリィから一通のメッセージが送られてきた。
――――心配しないで、すぐに戻るから。治は一希ちゃんと先に帰ってて。
間違いない、サリィは何らかのトラブルに巻き込まれた。
そして、心当たりは一つしかない。
俺たちを襲った革命派の獣人が関係しているのだろう。こちらを遠ざけるようなメッセージを送ってきたのは、俺を巻き込まないための配慮に違いない。
「くそ! 少しは俺を信用しろよ!」
その場にいなかったのは俺が悪い。けど、どうして助けを求めないんだ。もしお前に何かあったら、俺はお前との約束を守れなくなるんだぞ。
ちくしょう、お前がどういうつもりかは知らんが――――俺は、絶対に約束を破るつもりないからな!




