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「あったあった、ハイパーウルトラ日本語学校」
指定された住所には、屋上の看板にデカデカと『ハイパーウルトラ日本語学校』と書かれた五階建てくらいのビルがあった。
つか、ハイパーウルトラってカタカナ表記なんだな。ますますダサい……。
「まー、名前がダサい以外は普通だな」
なんだかんだ約束時間のギリギリまで前の予定が延びてしまった。
ということで、約束時間の二分前。五分前行動とか出来た試しがない。
むしろ、遅刻をしていないだけ上々だ。
「うし、いくか」
ガラス張りの自動ドアを反応させて一階の受付エリアに入る。
建物の中に入ってからも特に違和感なし。塾とか予備校の事務的な雰囲気というのか、まさしくそんな感じだった。
受付には二人のアジア系女性がいたので、特に理由もなく右側の人の前に立つ。
……右の人の方が、おっぱい大きいからとかそんな理由じゃないですよ?
「コンニチワ、本日はどのようなご用件でショウカ?」
アジア系女性と評したが、やっぱり純日本人ではなさそうだ。日本語が第一言語って感じの喋り方ではない。めちゃくちゃ上手だけど。
しかし、だからといって中国人・韓国人って感じもでないんだよな。東アジア系の外見ではあるんだけど。
「えーと、松郷さんに呼ばれてきたんですけど」
「伺っておりマス。トコロザワ様でお間違いないでショウカ?」
「あ、はい。そうです」
「お待ちしておりまシタ……! 校長室までご案内いたしマス!」
おっぱいが大きい方のお姉さんは、もう一人のお姉さんに目配せをすると、受付のカウンターから出てきて俺の正面に立った。
そして、「どうぞこちらへ」とエレベーターの前まで誘導してくれる。エレベーターはすでに一階に停まっており、お姉さんがボタンを押すとすぐに開いた。
「校長室は最上階の五階になりマス」
「はいはい、どうも。松郷さんってここの校長さんなんですか?」
エレベーター内のシーンとした空気が嫌いなので、ついつい話しかけてしまう。
「いえ、本校の校長は松郷さんの奥様、セフィレムさんが勤めておりマス」
「へーそうなんっすね」
松郷氏の奥さんって外国人なんだな。金髪で、スレンダーで、爆乳で、おまけに美人、そんな女性を勝手に想像してしまう。
羨ましいな、おい。松郷氏がいけすかない感じだったら一発殴ろう。
「どうぞ」
お姉さんがわざわざ『開』ボタンを押し続けてくれているので、頭を下げながらエレベーターを降りた。
……このエレベーターのボタンを押し続ける文化ってめんどいよね。
続いてお姉さんもエレベーターを降りると、先導するように廊下を歩き始める。
「こちらが校長室となりマス」
「ほーほー」
別に校長室の扉だからって豪華絢爛とかそういうこともなく、校長室というプレートが貼り付けられているごく普通の扉だった。
「失礼致しマス。トコロザワ様がお見えになりまシタ」
お姉さんがノックをして、中にいる人物に用件を伝えてくれる。
「――――どうぞ、入っていただいて」
室内からハキハキした声が返ってくる。自信に満ちた声、というのか。
返事があったことを確認してお姉さんは扉を開けた。
「どうぞ、お入りくだサイ」
促されるまま校長室の中に足を踏み入れる。こういう時って、「失礼しまーす」とか言っておけばいいんだよな。
「やあやあ、ご足労かけて申し訳ない。どうぞ、こちらに掛けてください」
部屋に入ると精悍な顔をした男が恭しく出迎えてくれた。
さっき写真で見た人物が、目の前にいるというのも不思議な感覚だ。
しかも、写真で見るより全然若いな。年齢は四十五歳ということだが、全然そんな風には見えない。
ギラギラしている、そんな言葉が一番しっくりくる。
「じゃあ、失礼して」
特に遠慮することなく、目の前のソファー席に腰をかける。
その間に、受付のお姉さんは「失礼致しマス」と部屋から出ていってしまう。
……さて、どうしたものか。これは触れてもいいのだろうか。
いや、気になったことを放置できるような性分ではない。聞いてしまおう。
「えーと、そちらの女性は?」
国会議員と対面している緊張とか一切ないんですわ。
そんなことより、松郷氏の隣にいる金髪碧眼の少女が気になって仕方ないのだ。見た感じ中学生……いや、小学生かもしれない。
「あぁ、ごめんごめん。紹介させてください、こちら妻のセフィレムです」
松郷氏の紹介を受けて、金髪碧眼の少女がペコリと頭を下げる。
ふむふむ、なるほど。
「えーと、初対面ですみません。松郷さんってロリコンなんですか?」
我ながら頭おかしいことを聞いている自覚はあります。
「あはは、それがちょっと色々複雑で――」
「……風よ、吹き荒れろ」
「グべヴァ!?」
金髪碧眼の少女が何かを呟いたと思ったら、気が付いたら壁に叩きつけられていた。
え、は? 何が起きたんだ?
超局所的に台風が発生した、そんなイメージ。理屈は分からないが、あの金髪碧眼の少女が何かをしたのは間違いない。
「ちょ、セフィ!?」
「このクソガキ、いきなり何を言い出すかと思えば! 久のことを悪く言うのは絶対に許せない!」
「ひえ!?」
この少女、思った以上に迫力がある。珍しく情けない声を出してしまう。
「こら、セフィ。口が悪いよ。それにいきなり暴力的手段を取るのは感心しないな」
「うっ、ごめんなさい……」
金髪碧眼の少女はしょんぼりと落ち込んだ顔をする。
「でも、僕のために怒ってくれたのは嬉しかったよ。よしよし」
「えへへ」
そんな少女を慰めるように松郷氏は頭をなでなでしていた。
そして、嬉しそうに目を細める金髪碧眼の少女。二人は見つめ合って、ただ静かに微笑みを交わしている。
端的に言えばイチャイチャし出した。完全に二人の世界に入ってしまっている。
「あのー、結構痛かったんですけどー?」
こちとら、背中を負傷しているんですが。
何の説明もないまま、二人のラブラブ・ワールドに入られても困る。
「あぁ! 本当にすまない、野老澤くん! ほら、セフィも謝って!」
「……謝罪します」
平謝りの松郷氏と違って、肝心の少女は謝罪をしているような態度には見えない。
せめて、頭ぐらい下げようぜ。不貞腐れているようにしか見えませんよ。
「まぁ、いいです。自分も失礼なことを言ってしまったので」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「それで色々と聞きたいことがありすぎるんですが、何から聞けばいいですかね?」
本題に入ろうにもどう切り込めばいいものか、といった感じだ。




