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【7作目】ダンボール箱の中には猫耳美少女がいました  作者: あぱ山あぱ太朗
某アニメ映画の目玉焼きって美味そうだよな
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4-1

「意外と体は痛くないな」

 見た目こそ派手だったが、体に痛みなどは全くなかった。サリィの機嫌もそこまで悪くなさそうで、思った以上に怒ってはいないみたいだ。

 理由は分からないけど。

 まぁ、こちらとしてはそれに越したことはない。

「治、今日の予定はー?」

「今日もどうせ客来ないだろうしなー、二度寝しようかねー」

 時刻は十時。

 三時過ぎに入眠、十時前に起床なので七時間しか眠っていない。

 十時間睡眠が基本の俺にはバッドコンディションだ。

「えー!! そんなことされたら、私の朝ごはんはどうなるのよ!」

「お前だってついさっき起きたばっかなんだろ? 昼まで我慢すればいいじゃんか」

「それはっ! いえ――そ、そうね……」

 なぜか歯切れが悪い。というか、こいつが飯抜きを許容しただと?

「お前、熱でもあるのか?」

「私が一食抜くのがそんなに不思議!?」

「あらゆる事より三度の飯が好きそうじゃん、お前」

 三度の飯より好き、なんて諺をサリィが使うことはないと思っている。

「べ、別にそんなこともないでしょ。土曜日とかは一日二食だし」

「それをちゃんと記憶しているところがな」

「もーうるさい! 別に一食くらい大丈夫だって!」

 少しいじめ過ぎたみたいだ。サリィが拗ねて顔をプイと背けてしまう。

「簡単なものなら用意するぞ」

「え、ほんと!? あ……」

 過剰反応してしまった事実に顔を赤くするサリィ。やはり食への欲求がすごいな。

 ただ、また拗ねられても困るのでここは知らんぷりしておこう。

 じゃあアレ作るか。久しく使っていないトースターに食パンを放り込む。その間に卵を二つ割ってフライパンの上で目玉焼きを作る。

 で、あとはインスタントのコーンスープの粉にお湯を注ぐ。

 あとは焼けたトーストの上に目玉焼きを乗っけて完成。塩胡椒はお好みで。

「はい、ジ○リ飯」

 某アニメ映画に出てくる風のやつだ。俺が作れる朝食レパートリーの数少ない一つ。

 あとは大体、冷凍食品。もしくはお茶漬け、納豆ご飯。

「あ、ありがとう……! いただきます!」

 余程、お腹が減っていたのかサリィはバクバクと食べ進める。

 こいつの食いっぷりを見ていると、こちらも不思議と食欲が湧いてくるな。

「お前も早く飯を作れるようになってくれ」

「ぜ、善処するわ」

 俺も一言「いただきます」と呟いて、トーストに口をつけようと――――

 プルルルルルルル。

「うちの電話が鳴るなんて珍しいな」

 滅多に鳴らない事務所の電話がけたたましく鳴っている。

 俺、この音嫌い。

 なんて文句を言っているわけにもいかず嫌々ながら電話に出る。

「お電話ありがとうございます。野老澤探偵事務所です」

「治が敬語で喋ってる」

 サリィが失礼なことで驚いていた。

 おそらくは電話の用途を理解していないと思うので、とりあえず人差し指を立てて「シーっ」のジェスチャーをしておく。

「初めまして。私、民主労働党所属・参議院議員の松郷久と申します。お電話口は野老澤治さんでお間違い無いでしょうか?」

「はい、そうですけど――え、参議院議員!?」

 電話相手が嘘をついていないなら、俺は今政治家と話をしていることになる。

 残念ながら「松郷久」という名前に聞き覚えはない。

 与党の閣僚、野党の党首くらいの政治家は知っていても、自分の地区の議員でもない限り政治家の名前を知る機会なんてほとんどないからな。

 しかしなんだ、こういうのって普通は秘書が掛けてきたりするんじゃないのか。政治家本人が直接連絡を取ってくることなんてあるのか。

「単刀直入にですが、『異世界人』と聞いて、何か心当たりはありませんか?」

「……っ! どうでしょう、自分は漫画やアニメなどあまり見ないもので」

 なんだ、この男。咄嗟に誤魔化したが通用しているだろうか。いや、電話を掛けてくる時点である程度の調べはついてるはずだ。

「安心してください。私は味方ですから。ぜひ、野老澤さんのお力になりたく」

「……まずはお話を伺っても?」

 相手が政治家ともなれば話の規模は変わってくる。

 ここまで異世界人のことは一度も匂わせていないが、向こうはその存在を前提として会話を進めていた。おそらく、一般人が知り得ない情報を保持している可能性が高い。

 この電話から推察されるのは、異世界人の存在は国家・政治家レベルでは認識されており、国民に隠す形で何らかの対応が行われているということだ。

 そうなった場合、一個人が抗うには無理がある。

「はい、もちろんそのつもりですよ。急ですが、本日のご予定は?」

「このあとは終日空いてます」

「それはよかったです、それでしたら――」

 松郷氏から時間と場所を指定され、一人で来るようにとも念押しされた。急なアポイントメントは大嫌いだが、そんなことも言ってられない。

「だ、大丈夫……?」

 喋り終えたのを確認してサリィが話しかけてくる。内容までは分からないと思うが、異様な空気感は伝わってしまったと思う。

「うむ、急遽出かけることになった」

「わ、私もついてっていいの?」

「すまん。今回、サリィは連れていけない。込み入った仕事の話でな」

 不安そうなサリィには申し訳ないが、一人で来いというお達しだからな。

 ――――ただ、おそらく松郷氏はサリィのことを把握している。

 それなのに、どうしてサリィを連れてくるように指示をしないのか。事務所で一人待っているサリィに何かを仕掛けてくる可能性もゼロではない。

「治はいなくならないよね……?」

 サリィはぎゅっと俺の手を握って、涙目ながらに迫ってきた。

 その蠱惑的な仕草にむくむくと情欲が湧いてくるが、必死にそれを抑えつけてただサリィの頭を撫でる。

「大丈夫大丈夫。俺、天才だから」

「質問の答えになってないし! あと、頭撫でて良いなんて許可してない!」

 不満そうにしているが、サリィは決して手を振り払おうとしなかった。

「というか、俺はお前がなんかやらかさないか心配だわ」

「や、やらかさないし!」

「ってことで、お守り役を呼びます」

「だ、誰を呼ぶの? 一希ちゃん?」

「ん、いや、今回は武闘派がいいな。大丈夫、サリィも知ってる人だから」

 メッセージアプリを起動し、白羽の矢が立った人物に電話を掛ける。

「……何よ、今日は休みなんだけど」

「うわー、ご機嫌ななめっすね。愛しの治からの電話ですよ」

 ツーツーツー。

「切りやがった、あの人!」

「萌葉さん?」

「そうそう正解」

 今回の件、萌葉さんになら任せられる。武闘派ってこともあるし、潜ってきた修羅場の数が違うからな。

 電話だと切らせそうなのでメッセージで丁重にお願いする。

 すると、一分もしないうちにOKの返事が来た。

 マジでいい人すぎんか、萌葉さん。今度、アルケミーでガッツリ酒を飲んで、売り上げに貢献しないとな。


「休みの日にすんません。サリィのこと、よろしくお願いします」

 一時間後、準備を済ませた萌葉さんが事務所まで来てくれた。

 萌葉さんには、サリィの日用品などの買い物を手伝って欲しいという表の理由と、ゴタゴタに巻きまれる可能性があるから護衛をお願いしますという裏の理由、両方伝えてある。

 事情とかは一切に聞かずに、こんな依頼を引き受けてくれる人は萌葉さん以外にはいないだろうな。本当に頭が上がらないです。

「任されたよ。かかった費用はアンタに全部請求するからね」

「……了解っす」

 こんな無理なお願いをして、NOとは口が裂けても言えない。

「じゃあ、サリィちゃん行こっか」

「は、はい! よろしくお願いします、萌葉さん」

「サリィ、萌葉さんに迷惑かけるなよ」

 まだ不安そうなサリィに声を掛けておく。サリィに『裏の理由』は一切伝えていないが、不穏な空気は察しているようだからな。

「サリィちゃんもアンタに言われたくないわよ」

「うるさいわ! んで、サリィ。なんかあったら俺のスマホに連絡……って、あーそういえばスマホ持ってなかったな、お前」

 スマホという単語にサリィは「すまほ?」と首を傾げる。

「今時、スマホがないと不便だろうに」

「えーそれも込み入った事情ってやつで。ちょい考えときます。萌葉さんも何かあれば呼んでください。飛んでいきますから」

「あたしがそんなピンチに陥ってるなら、間違いなくアンタは足手まといよ」

「……間違いない」

 萌葉さんには、当時対立していたレディース集団の総勢三十人に囲まれた中でも、五体満足で帰ってきたという武勇伝があるらしい。

 本人が言っているだけなら眉唾なんだが、中野の居酒屋で一緒に飲んだイカツイお兄さん達が「マジマジ! 萌葉ぱねーから! なんだ、俺たちの言うことが信じられねーのか。ぶっ飛ばすぞ、クソガキ!」と豪語していたからな。後半は完全に脅しだったけど。

 しかし萌葉さんが使う古武術ってのは、そんなに万能なんですかね。機会があれば、俺も習ってみようかしら。

「ま、アンタはアンタで頑張りな」

「うっす。じゃあな、サリィ。また夜にな」

 一緒に楽しく晩飯を食えるように、ちょっくら政治家とやり合ってくるわ。

「うん、行ってきます!」

「おう、行ってらっしゃい」

「……治、気をつけてね」

「余裕余裕」

 最後まで飄々とした態度でサリィと萌葉さんを送り出す。

 さて、二人が出て行ったことだし、久しぶりにガッツリ仕事するか。

「松郷久……ね」

 パソコンを立ち上げて、松郷久の経歴について簡単に確認する。

「あーこの人、大学一緒なんだな。んで、大学卒業後は大手総合商社勤務……。ははーん、超エリートじゃないすか」

 かたや中退の俺とは天と地の差だ。

「その後の経歴もすごいねー。市議会議員である父親の地盤を受け継いで市議会議員に。絵に描いたような世襲議員……けど、この時はまだ自由国民党所属なのか」

 さっきの電話では民主労働党所属って言っていたよな。このページにも民主労働党所属ってちゃんと書いてあるし。

 ちなみに自由国民党とは、ざっくり解説。

 通称、自国党。戦後からほとんどの期間を日本の与党として君臨している。政治思想は中道右派、保守、経済自由主義。右か左で言えば右の政党だな。

 そして、民主労働党について。

 通称、民労党。日本の最大野党。多くはないが過去に数回与党になったこともある。政治思想は中道左派、リベラル、社会自由主義。右か左かで言えば左の政党。

「日本は基本的に保守政党が強いよなー。最近だと日の丸党とかいう、民族主義が強めな政党とかも議席伸ばしてるし」

 あ、俺にはこれといった支持政党はありません。

 政治的主張は基本しない人間なんで。ほら、ポジション取ると怖いからね。

 だから、選挙とかもいかないし(いや、行けよ)。

「松郷久……調べれば調べるほどよく分からん。父親の基盤とかコネとか考えたら自国党で国政選挙に出た方がいいだろうに、なぜか民労党から出馬して参議院議員になっている。――――現在の主な活動は、外国人移民の支援か」

 少しだけ、松郷久という人物の活動を想像することができた。

 氏の行動原理までは分からないが、そこは直接会って話を聞くのが早いだろう。

「さてと、指定場所は中野の『ハイパーウルトラ日本語学校』か。……変な名前だな、おい。にしても、さすがは外国人支援をしている政治家。指定場所もそれっぽい」

 ふむ、まだ待ち合わせの時刻まで余裕がある。前乗りしてその辺プラプラしていようかな。じゃないと遅刻しそうだし、俺。

 あー、あとあれだな。先程のサリィと萌葉さんとした会話を思い出した。

「寄りたいとこもあるし、ちょうどいいか」

 スーツとか死んでも着たくないので、いつも通りのラフな格好で事務所を後にした。

 東中野駅から電車に乗り込み、中央線で中野駅まで向かう。


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