1BA さらば甘くやさしき日々よ 1
誰もギルバート=メイザースに関わろうとしなければ、あとは勝手にのたれ死にするだろう。後は二人を心身共に「開放」してやるだけだ。洗脳はもう解けたようなものだろうから、残っているのは「悪魔の心臓」の始末だけだな。まあ、それもすでに手は打ってあるんだがな。
「えっ、それはどういうこと?」
ああ、タネ明かしをしておこう。お前らはもうぬっぺふほふの肉を食べているんだよ。
「もう食べた? いつの間に……って、まさか!」
そういうことだ。わらび餅も芋羊羹も美味かっただろう? パクパク何度もおかわりしていたしな。食いしん坊バンザイ。
「食いしん坊って……そりゃあ美味かったけど、一言くらい言っとけよ!」
「あれ? でも待って。もう遇ってたってこと? これからじゃなかったの?」
出現する時間には数日の誤差があるんだよ。それを祝子の幸運で「調整」してもらって昨日の夜に遇っていたんだ。隼にも内緒にしてたのは悪かったがな。
今のところ【ライブラ】から「悪魔の心臓」を取り出すことはできない。「悪魔の心臓」はどちらかが危機的状況に陥ったときにリセットすることでお互いの体を急激に回復させる。ただしそれには残りの寿命を代償にするリスクを伴うという禁断の裏技だ。
ただし発動させなければすぐに命に関わるというものでもない。そしてぬっぺふほふの肉には、普段の「悪魔の心臓」の活動を抑え、リセットの劇薬を緩和してくれる効果があると私は踏んでいる。臨床試験の無いぶっつけ本番ではあるがな。
「でも時彦くん、そうじゃないのかもしれない……考え違いしてたのかも」
不意に祝子がそんなことを口にする。……どういうことだ?
「だって二人の魔子はどこも変化してないじゃない? そんなことって考えられる?」
確かに言われてみればそうだが、私は二人がギャンビットだからむしろ拒絶反応が出ないのが「正しい」反応だと思っていた。
「そもそも二人は……その【ライブラ】だってことに間違いないの? それはどこで分かったの?」
それは二人が攫われて『E∴D∴N』に洗脳された状況から……それに隼から【ライブラ】という証言が……ん? それならなぜ隼は……そのためにわざと開放したのか!
その疑問を口に出す前に、隼が私の背中に体を預けてくる。おい何を、なっ……何じゃこりゃぁぁ!
次の瞬間、私の腹からは猿吠の切っ先が突きだしていた。




