1A1 おれたちの夏(たたかい)はこれからだ 2
昼の注文ラッシュは隼が来てくれて何とか乗り切った。いや本当に助かりました、隼サマ。
「うんうん、存分に感謝しろよ? 何だかんだ言っても最後はあたしに頼ってくるんだよな……」
おい、何でそこで「よしよーし」で小さくガッツポーズなんだ? 「ぴみっ! 見てんじゃねーよ!」
彼女には遠出して橘高三十六とぬっぺふほふについて調べて貰っていた。博物館の算術コーナーや神社仏閣に奉納された算額など。算額は和算の難題を解くことが出来たことを感謝すると同時に、他の和算家に「お前にこれが解けるか?」と突きつけた挑戦状だ。そして和算の盛んだった土地は遊歴算家の足取りでもある。
二八兵衛は橘高三十六以外にも多くの和算家と交流があった。それ以外にも一夜の宿を求めて僧侶や絵師、俳人などが足を止めている。それはある種情報交換のサロンの役割を果たしていたのかもしれない。だとすれば二八兵衛は彼らの見聞を借りて怪異の伝承を集めていたのではないかと考えるのが自然だ。そして「情報」は商いにも大いに利用されたに違いない。
その中でも二八兵衛は橘高三十六に格別の期待を寄せていたようだ。「算遊記」という算術指南の本も出している。昔に個人で本を出すというのは相当金がかかることだ。
ただし小鴎敬助の預かった本の中にその「算遊記」は無かった。今は少しでもヒントが欲しいということもあって、隼にはそれも一緒に探してもらっていたのだ。




