第2話 出会い
これからできる限り毎日投稿しようと思っています。読んでいただければ幸いです。
九頭英雄はシャオイエ王国にたどり着いた。空港から首都まで、リムジンバスで移動した。
町までの道の周りには普通の麦畑が続いていた。首都である町に着いたが、特に何の面白みもなかった。
道は広く取られ、その両側にはコンクリで固められたビルやアパートが立ち並んでいた。店はいくつかあったが、特にめぼしいものはなく、暇そうな店員が椅子に座って客を待っていた。
英雄は、何かないかと町を散策しているうちに道の片方に高い塀が続く場所に出た。
「これは何の塀だろう。ずいぶん長く続いているな」英雄はそう思いながら、その塀を見ながら歩いていた。その時、どしんと英雄は何かにぶつかった。思わずしりもちをついてしまった。
「あんた何処見て歩いているのよ」声のする方を見てみると、少女が怒った顔をして同じようにしりもちをついていた。
英雄は何も言えずただその少女を見ていた。
少女は飛び起きて、何か文句を言おうとしていたが、ふと気が付いたように、英雄の顔をじっと見て、「あんた外国人?イエ語わかる?なんでこの国に来たの?」と言った。
「は、はい分かります。僕、いや私は日本人です。この国の歴史や文化を研究しに来ました」と英雄はびっくりしたため、つっかえながら答えた。
「ふーん、日本人なんだ。イエ語ができるのね」ちょっと驚いた顔で言った。
「この国は特にめぼしいものはないはずでしょう。外国から観光客だってめったに来ない。何でこんなところに来たの?」不思議そうな顔で尋ねた。
「何もないことはないと思います。国ができてそれが維持されていく中で、歴史や文化ははぐくまれていくものだから、この国にも外国人には見えにくいけれども立派な歴史や文化があるのではないでしょうか」英雄は言った。
「そっか、そういう風に考えるんだ」少女は感心したように言った。
そして、少女はにこやかな笑顔で言った。「ねえ、一つ提案なのだけど、私をガイドに雇わない?私この国のこと結構詳しいわよ。それにせっかく来た外国からのお客をもてなさなくてはね」
英雄は考えた。いきなり会ったこの少女について行っていいのだろうか。確かに現地のガイドがいれば、ただ歩き回っているだけではわからないことも教えてもらえる。
少女を見るとかなり良い身なりをしているし、変に擦れた感じもない。変なぼったくりや怪しげな風俗とも関係なさそうだ。
パスポートとトラベラーチェック、クレジットカードはホテルの金庫に預けてきてあるし、最悪でも今持っている現金と国際運転免許証などの持ち物を奪われるだけだろう。若干不安はあるけれど、ここは乗ってみるのも手だと判断した。
「わかりました。それでは案内をお願いします」英雄は立ち上がりながら言った。
「いいのね、じゃこの街を案内してあげる。感謝しなさいよね」と偉そうに言った。「さっさと来なさい。置いていくわよ」少女は英雄に言って、走り去った。英雄は急いで彼女の後についていった。
二人は雑談をしながら歩いて行った。英雄は大学院で中央アジア、特にユエ大族について研究していること、今回の研究旅行は大学からの依頼で来ていることなどを話した。
「若いのに大学から研究を依頼されるなんて優秀なんだね」と少女は感心していた。
「そんなことないですよ、今回大学から依頼されたのは、前に書いたレポートの出来が良かったからだし、私自身は特に優秀な存在ではありません」英雄は恥ずかしそうに答えた。
「フーン、あんた日本ではあまり認められてないのね」少女はすこしばかりにやりとしながら言葉を返した。
二人はスーク(市場)のようなところにたどり着いた。さっきのビルが立ち上る場所とは違い、小さな露店が所狭しと並び多くの人々が行きかっていた。
「まずは腹ごしらえね」そう少女は言った。少女は器用に人をかき分けて進んでいった。英雄もなんとかそれについていった。「まず前菜はシシカバブ。ここの店のが美味しいのよ」
そう言って、英雄の手を引いて連れて行った。
シシカバブって何だろう、英雄は疑問に思った。
屋台につくと、そこには羊肉を一口大ぐらいに切ったものを、焼き鳥のように串にさして焼いたものが並べられていた。これがシシカバブかな、と英雄は思った。
少女は言った「おじさん、とりあえず8本ちょうだい」 「あいよ毎度ありがとうな」店の店主は愛想よく言った。どうも彼女は常連らしいな、と英雄はこのやり取りから判断した。
そして少女は英雄を見てニヤリとしながら言った。 「案内料代わりにあんたおごってね」
英雄は苦笑いしながら「ええ、わかりました」と言った。
英雄と少女は、屋台の横で二人並んでシシカバブを食べた。香辛料の利いた味で、確かにおいしかった。これピールに合うだろうな、と英雄は思った。
「私の名前はマーシャ。あなたの名前は?」気安い様子でマーシャは言った。
「私の名前は九頭英雄といいます」「じゃあ、ヒデオっていうね。あとヒデオ、言葉遣いそんなに気にしなくてもいいわよ」そう言って、マーシャは微笑みを浮かべた。
「ああわかった」英雄もつられたように微笑みながらそう言った。
そして二人は次の屋台へと場所を移した。
「次はメインのモモよ」「モモってなに?」モモって果物のモモ?それとも鳥のモモとかのモモ?でもマーシャはイエ語で話しているのだから日本語のモモとは違う意味なのだろう、英雄は考えをめぐらしたが、英雄はモモが何なのか全く想像がつかなかった。
「まあ、食べてごらんなさい。ねえ、モモを二皿ちょうだい」「あいよ」そこの店主はそう言って、素焼きの大き目なスープカップを2つ渡してきた。中を見ると、ほぼ透明のスープの中に水餃子のようなものがいくつか入っていた。
食べてみると厚めの小麦粉の皮の中に、香辛料と一緒に混ぜられた羊肉のひき肉が詰められており、香辛料が肉の臭みを消すとともに肉自体のうまみを増し、羊肉から染み出た肉汁は香辛料と相まって英雄の舌に強いインパクトを加えていた。
更にしょうがを聞かせたスープとよく合って、一口食べたとたん次の一口が欲しくなる最高の一品となっていた。
「これ本当においしいね」英雄は思わず言った。「そうでしょう。気に入ると思ってたわ」マーシャは誇らしげに胸を張っていった。
「さて、最後はデザートね」マーシャは元気よく、次の場所へと進んでいった。
そこは果物を切り売りしている店だった。「おじさん、ハミウリちょうだい」「あいよ」
メロンのような色をした果物が渡された。「これはメロンなのかい?」「ううん、違うよ。ハミウリ」「ハミウリ?」「とりあえず食べればわかるから」そう言って、マーシャはそのメロンのようなものにかぶりついた。
九頭も覚悟を決めてかぶりついた。味はメロンのような、食感はスイカのようななんとも不思議なものだった。
そして、ほのかな甘さとスイカのように果汁を多く含んだ身はとってもみずみずしく、口の中に残っていた羊肉の油を押し流して口の中をさっぱりさせる効果があった。
「さて、次はシャオイエの名所案内ね」マーシャはそう言って、スークの奥へ進んでいった。
スークの奥には神殿のような建物があった。このスークは神殿の門前町のようなものらしい。「ここがシャオイエの信仰の中心であるアロン神殿よ」マーシャは得意げに言った。
神殿には誰もが入れるようだった。特に目立った装飾品はなく、一番奥の祭壇のようなところに足のつけられた箱のようなものが祭られていた。そして人が運べるようになのか金色の棒が二本つけられていた。
「これはこの神殿のご神体よ」マーシャは言った。
「不思議な形をしたご神体だね」英雄は言った。
「契約の箱というの。これはレプリカだけどね」マーシャは静かに答えた。
「この箱は私たちのご先祖様がずっと崇拝してきたものなの」マーシャは続けた。
「私たちのご先祖様は遠く西からやってきた。いま、シャオイエには4部族がいるけれど、私たちはもともと10の部族が一緒にいたの。でもいろいろあって、100年前に2つに分かれて6部族は別の国になっているわ」
「そうなんだ」英雄は思った。別れた6部族の国って、前に行ったことがあるターイエのことだろうか。
「ご神体の本体はどこにあるのかな」英雄はマーシャに聞いてみた。
「ヘイス族という部族が代々保管を任されているわ」マーシャは言った。
「じゃヘイス族のところに行けばご神体を見せてもらえるかな」英雄は聞いてみた。
「無理だと思う。ヘイス族は外部の人間を受け入れないし、非常に獰猛な部族と聞いているわ。行っても追い出されるのが関の山だし、下手すれば殺されかねないわよ」マーシャは真剣な顔で言った。
「そんなに獰猛なの?」英雄は聞いた。
「ヘイス族は契約の箱の保護を任されてきた部族よ。彼らは山に囲まれた盆地にその居住地を定め。外部からの人間を寄せ付けずただひたすら契約の箱を守ってきたそうよ」マーシャは恐ろしげな顔で答えた。
英雄は彼の前回の経験から、そんなに怖い部族だったのかな、と疑問に思った。
「歴史の話を続けるね。西から来た私たちはここに国を作ったわ。でも、私たち10部族の一部は、更に豊かな土地、「乳と蜜の流れる土地」と言われた土地を求めて、更に東に旅立ったという伝承が残されているわ」
「乳と蜜の流れる土地」とは旧約聖書に書かれている土地のことだろうか。それは今のイスラエルやパレスチナのあたりをいうはずだが、と英雄は思った。
そういえば昔読んだ本で、日本人の祖先が遥か西方から逃れてきた人々が作ったという説があったことを英雄は思い出した。
とんでもない奇説だと思ったけれど、もし、それが本当ならかなりの発見だ。ひょっとしたらレポートの材料になるかもしれないと英雄は思った。
「なんでそんなことを知っているんだい?」
「この話は王家……わが家に伝わる伝承よ。この話はおばあさまから聞いたの」
いま王家と言わなかったか?マーシャは王家の出身なのかな。
「マーシャ、君は……」
「ええい、次行きましょう、次」マーシャは強引に話を切り上げた。
「次はちょっと遠いからバイクを借りて行くわよ」そう言って、神殿から走り去っていった。
私はそのあとを追いかけていった。
借りたバイクに乗って僕らは町の郊外にある城跡に向かっていた。「これから行く場所はシャオイエ王国の歴史が始まった土地なの」マーシャはバイクの背に乗りながら言った。
30分ぐらいバイクを走らせていると朽ちかけた城壁のようなものがあった。
「ここはなんていう場所なのかい?」英雄は尋ねた。
「東マサダ城址というわ」マーシャは言葉少なげに答えた。
そばにバイクを止めて、中に入っていった。
中に入ると城の中は迷路のようになっていたことが分かった。しかし、城壁は崩れており、中にある物見の塔は大半が壊れて途中からなくなっていた。
だいたい100年前ぐらいの遺跡なのだろうか。まともに管理されておらず、あちこちが崩れて、廃墟のようになっていた。見たところ観光客は誰もいなかった。
「ここは忘れられた土地なの」マーシャは言った。
「この国が一時期ソ連の属国になっていたのは知っている?」マーシャは背を向けたまま、英雄に聞いてきた。
「ああ知っている」英雄は答えた。
「ソ連の侵攻を受けてひいおじい様ら王家の人々は国外に逃げ出したわ。そしてこの国は歴史を奪われたの」マーシャは言った。
「ソ連にとって都合のいい歴史が教育され、民族の自立を促すような歴史は抹殺されたわ。このマサダ城は国が分かれる際にシャオイエ王家とそれを支持する四部族が立てこもり、敵を撃退した場所なの。シャオイエの独立の歴史はここから始まったといっても過言ではないわ。それはソ連にとって民族の自立を促す都合の悪い歴史だった。そしてこの城での戦いは歴史から抹殺されたの」マーシャは寂しげに言った。
「そうなんだ。この城は君たちの歴史にとっても重要なものなんだね」英雄はマーシャに言った。
「私はこの国が好き。私にはとても優秀なお姉さまがいるの。いずれこの国はお姉さまが継ぐことになるわ。でも私もこの国のため、少しでも力になりたい。お姉さまに比べて頭のよくない私は多くのことを経験することでお姉さまの助けになりたい。そのためにもお姉さまが知ることのできないことを少しでも多く知って、お姉さまの役に立ちたいの」そうマーシャは独白した。
「君にとってこの国はかけがいのないものなのだね」英雄は言った。
「ええそうよ」そう言ったあと、振り向いて英雄の目を見ながらこう言った。「どう、私の部下にならない?」
「部下?」英雄は思わず繰り返した。
「そう、この国は世界から忘れられているような小国よ。この国を発展させ、中央アジアにシャオイエありと言わしめるような力をつける必要があるの」マーシャは続けた。
「ヒデオには、日本で高等教育を受けた知識と能力がある。それにユエ語も堪能で、日本と我が国の懸け橋となる力がある。そういう人材を部下に欲しい」
「僕なんて、とても君の役には立たないよ。それに外国人を雇うなんてほかの人が許さないよ」英雄はそう言った。
「大丈夫、あなたは絶対に役に立つ。今まで話をしてきてそう感じたわ。それに日本人ならこの国に受けいけられる」マーシャは自信満々に言った。
「この国には、第2次世界大戦のとき日本兵の収容所があり、多くの日本人がこの国に残留して教育や産業の発展に力を発揮したわ。それでこの国には日本人の血を引くものも数多くいるし、国民は日本に親近感を持っているわ。そして、現国王の父は日本に留学していたし、母は日本人よ」
「お母さんは日本人なのか」英雄は驚いていった。
「ええ、父が日本に留学している時に知り合って、結婚したって言ってたわ」マーシャは言った。
「だからこの国では、日本人に親近感を持つ人が多いのよ。私が日本人を部下にしたからって、誰も反対する人はいないわ」マーシャは続けた。
「給与はほとんど出せないし、仕事は過酷だろうけどやりがいはあるわ。そうだ、あなたが比類ない功績を挙げたら、場合によっては私の婿に考えてあげてもいいわよ」そう得意満面に行った。
「私みたいに美人で、スタイルもよく高貴な身分な女性を、あなたのものできるのよ。こんなチャンスは英雄の人生で二度とないわよ」そう言いながら小さい体で無い胸を張って、英雄を見上げながら迫ってきた。
「あはは、ありがとう。考えておくね」英雄は苦笑いをしながら後ずさった。
「ちょっと、こんないい条件なのに、どうしてすぐに部下になりますと即答できないの」マーシャは怒ったようにさらに詰め寄ってきた。
「いや、さすがにそれはないでしょう」英雄はさらに後ずさった。詰め寄るマーシャと後ずさる英雄、二人はぶつかって、転倒してしまった。
その瞬間、一発の銃声が轟いた。
一か月以上ぶりの投稿なので、やり方を忘れてしまいとても苦労しました。




