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英雄の人生探訪旅行譚  作者: 信礼智義
1/8

第1話 人生の選択

前作の投稿から一か月以上空いてしまいました。「英雄の冒険旅行譚」の続編です。

楽しんでいただければありがたいです。前作を読まなくても基本問題ありませんが、読んでいただくとより面白くなると思います。

 大学院1年生の九頭英雄は進路のことで悩んでいた。


 夏に旅したターイエのレポートは教授にも大変評判が良かった。特に評価されたのは、ターイエにいる一少数部族に焦点を当て、かなり詳しく調査されていたことだ。


 この内容は教授たちの中でも話題になり、人によっては研究者として残らないかと言ってくれる人もいた。


 しかし、研究者として残った場合、自分の将来はかなり厳しいものになることが想像された。日本では中央アジアの研究自体あまりメジャーなモノではなく、さらに専門はイエ大族に関わることでは、ほぼ求人はない。


 ちなみにイエ大族とは、中央アジアにいる古くからの民族で歴史をさかのぼると2000年以上になる部族である。現在はターイエ、シャオイエ、ロシアに居住している。その中でも10この支族に分かれており、おのおの文化や習慣が異なる。


 我が家には弟と妹がおり、弟は大学で情報学を専攻していて、プログラミングや情報システムに詳しく将来の就職先には困らないスキルを持っている。


 妹は空間把握に優れ、さらに芸術的才能があり、将来は建築、文化など企業にとって有益なスキルを持っており、いろいろな企業で活躍可能である。


 自分だけすごくニッチなものを専攻してしまい、大学院まで進ませてもらった。

両親は何も言わないが、長男の自分だけ進路が未定であることに九頭英雄は大変引け目を感じていた。


 実は大学4年生の時、教授のコネを使って、いくつかの企業に自分を売り込んでみた。

イエ語がネイティブ並みに話せること、中央アジアに詳しいことなどを武器に人材として使ってもらえるかどうか申し込みしてみた。

 しかし軒並みだめだった。

 イエ語が話せても特に会社として利用する予定がなく、また中央アジアには進出する予定はないため、会社では必要ないと言われてしまったのだ。


 かなりショックだった。今までの勉強がなにも役に立たないといわれたに等しいからだ。失意の中、親に相談して、大学院に進ませてもらい、時間的猶予を得たが、進路のことは頭から離れない日々が続いた。


 企業では就職が難しいことが分かったので、地元の公務員試験を受けて地方公務員になるかと思い、勉強を始めていた。実際、自分にとって最後の思い出のつもりで、ターイエに行った。

 しかし、思いがけなく大冒険をして、多くの人々と触れ合い、教授から高く評価される研究ができたことで、自分の中で欲が出てきた。

 このまま大学に残るか、公務員試験を受けて就職するか、九頭英雄はただただ悩んでいた。


 そんな悩みを抱えていた時である。教授から「君のレポートは大変評価されている。そんな君に一つ頼みたいことがある。中央アジアにあるシャオイエ国に調査に行ってほしい。調査費は大学が持つ」とのことだ。

 シャオイエは、イエ大族の作った国の一つである。もともとシャオイエ国は、100年ほど前にイエ王国という国が二つに分裂してできた一方の国で、そのあと、旧ソ連の衛星国の一つとなり、シャオイエ人民共和国となった。ところがソ連が崩壊して、王政復古がなされて、立憲君主制の国家となったそうだ。ちなみにもう一方が私が研究レポートを書いたターイエ国である。


 「なんで私が選ばれたのでしょうか」と教授に尋ねたら、「君のレポートが大変評価されてね。自費でコネもない君が飛び込みであそこまでのレポートをかけるなんて、すごい調査力だと教授会でも評判になったよ。その調査力を見込んでシャオイエの調査をお願いしたいのだ。」それから教授は困った顔をして「実はあの国は何も研究できるものがないのだよ。あの国はソ連の衛星国のときに街並みもソ連風に改造され、過去の習慣や風俗も社会主義に合わないとして弾圧、矯正されてしまってね。ほとんどめぼしいものが残っていないのだ」

 更に教授は続けた。「シャオイエは中央アジアにある国だ。中央アジアの研究者としては無視するわけにはいかないが、行っても得るものがほとんどない。そこで前回の君のレポートだ。君だったら、あの国で何か新しい発見があるのではないかという希望があってね。費用的なところも学生の君なら安く上がるという期待もある」


 「でも中央アジアなんて日本では人気のない研究テーマですよね。特に注目を浴びていないし。なんでそんなところの調査に大学がお金を出してくれるのですか?」英雄は尋ねた。

 「この大学はほかの大学が手を付けていないニッチな部分を拾って、研究するのが建学の精神になっているのだよ」教授は話し始めた。

 「経営者として考えるなら利益の上がらないところに経営資源を配分するのは間違いだと思うだろう」

 「はい、そう思います」英雄は答えた。

 「でもそれは学問、そして国家にとって正しいことなのだろうか?突然ある地域について何らかの選択をせまられたとき、何の知識もなければ、正しい選択肢を選ぶことは難しいだろう。日本はこの前の戦争でも戦場となった地域の知識がろくにない状態で戦い、敗れていった。この大学は創設者がその反省を踏まえ、戦後建てた大学だ。実際、本大学が集めた情報、分析結果が政府にとって役に立ったこともいくつもあった。かなり昔のことだが中東地域の情報やその分析は結構政府に喜ばれたらしい。まあ、このあたりのことはあまり公にはできない事もあるけどな。その代わり、いろいろな形で国から助成金が出ており、大学の経営がやっていけるわけだ」教授はにが笑いしながら言った。


 「中央アジアはこれから焦点を浴びる可能性のある国々だ。日本では研究者の数も規模もわずかではあるが、将来性のある地域なのだよ。まあ、現実問題として、予算は現状そんなにないのだけれどもな」教授は話し続けた。

 「どうだろう。行ってもらえないか。もし将来大学に残るのなら君のキャリアには絶対プラスになると思うのだが」と教授は言い募った。


 「わかりました。行かせてください」英雄は言った。正直、自分の力が認められて研究を任されるのはとてもうれしい。

 「そうかよろしく頼む。お金の件は事務へ行って聞いてくれ。研究テーマは自由だ。あの国に行って君の判断で選んでくれ。期待しているぞ」そう教授は言って、席を立った。

 英雄は心の中でこのシャオイエと自分を重ねていた。何のとりえもない自分と似た国、シャオイエに行って何か掴めるだろうか。

 英雄はふと、ターイエのお姫様や少尉殿の顔を思い浮かべた。8月の大冒険から2か月がたっているが、相変わらずみんな忙しくしているのだろうか。シャオイエはターイエの隣国だ。もともと一つの国だというし、似たところがあるだろうか。

 また、あの時と同じような冒険ができたら、と英雄は思った。

何となくだが、シャオイエに行くことで、大学に残るか、就職するかで悩んでいるこの問題が解決できるような気がしていた。


お読みいただきありがとうございました。つたない文章ですが、何らかの評価を頂けますとすごくうれしいです。

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