26話
――「……何、あれ」
紫苑はマンションの屋上に隠れながら、黒光りする特大のモヤを眺め、そして驚愕した。
「……まさかあれ、全部?」
予想できるモンスターは一種、『キラービー』と呼ばれる凶暴な肉食モンスターだ。
普段は個別で狩を行うLv2のモンスターだが、群れる事でその危険度は跳ね上がる。
もしあの馬鹿げた規模の中心に人がいるとしたら、例え一級調査員でも生きてはいないだろう。
「……」
てかキラービーの縄張りに踏み込むとか、命知らんとも程がある。
もしかしたら他県から来た調査員やったのかもしれへん。ほんせやけどアプリを見れば、事前に危険地帯を知る事が出来るのやから、自業自得や。
彼女は哀れな同業者にから目を逸らし、その場を離れようとした。
「後で骨は拾ってあげ「ほんのりハチミツの香りぃいイイッッ‼︎‼︎」……は?」
その時、羽音に混じって意味不明な言葉が聞こえたのだ。
「……幻聴?」
……いや違う。耳を澄ませば微かに聞こえる。誰かの叫び声。
まさか。紫苑は躊躇いながらも、連続でジャンプし大群の五百m付近まで近づく。
そのけたたましい騒音に顔を顰めながら、目を凝らす。
すると、
「……何、あれ」
透明な体液に塗れた黒い人型の何かが、中心で刀?を振り回し暴れ回っていた。
恐らく刀、で合っていると思う。あまりにも振る速度が速すぎて、あれが何なのか判別がつかないのだ。
彼を取り巻く刀の残光が、一秒に十数体の屍を生み出し大地に積み上げていく。
その足元は今や、惨殺死体で埋め尽くされていた。
「アヒャヒャヒャ、ヒャッ‼︎」
「っ」
ドンッ、という音と共に、蜂の大群が一瞬揺れる。
彼の近くに居た蜂は粉々になり全滅だ。
衝撃波。漆黒の全身。異常な強さ。……間違いない。
あれが日本最強の男、――カオナシ。
「……」
紫苑は興奮に口角を上げる。
ずっと、話を聞きたかった。尋ねたい事があった。
彼女はカードケースから、一枚の写真を取り出す。
写真の中に写っていたのは、小学生くらいの二人の少女。
仏頂面の紫苑と、もう一人。
「…………絶対助けに行くさかいに、待ってなよ」
上品にはにかむ、紗命の姿だった。




