25話
東条は歩きながら両手を武装し、一本ずつ蟹の脚を握る。すると、
ジュ〜、と音を上げ、辺りに香ばしい香りが漂い始めた。
「ほれ」
「ん。ありがと」
殻を剥き、ブリブリに詰まった 身を二人で貪る。
東条の漆黒は、エネルギーと名のつく物なら何でも変換可能、熱エネルギーとて例外ではない。
今や彼は、歩く自動コンロと化したのだ。
「うんまいなコイツ」
「やっぱ狩る?」
「迷う程美味いけど、繁殖するまで待った方が楽しめるさ」
「ん。我慢」
ノエルは身長よりもデカい脚を、モグモグと頬張る。
「にしても、モンスターってのは美味いのが多いな」
東京にいたエビやワニ、コカトリスも美味だった。何なら、スーパーで売られている食用の物より美味かったかもしれない。
東条は手を差し出すノエルにウェットシートを渡す。
「ん。人間が健康維持に必要な成分に、もう魔素は入ってる。魔素が味覚にどういう影響を与えるのかは知らないけど、身体が求めているのは事実」
「マジか、一般人も?」
「も」
「やば」
知らぬ間に身体が作り変えられているとは、恐怖以外の何者でもない。
「え、じゃあもしさ、俺が極端に魔素が少ない場所行ったらどうなるん?」
「能力使えなくなって、体調悪くなるくらいで済む」
「あ、そなの」
「人間の身体は元々魔素基準で作られてない。無くなっても問題はない」
「ノエルは?」
「死ぬ」
「やば」
東条は淡々と述べるノエルにギョッとする。
「ノエルくらいの完璧美少女になれば、魔素ゼロの場所でも一ヶ月は生きられる。歩くのも儘ならないただの美少女になっちゃうけど」
「そりゃ大変だ。お前もちゃんと生物なんだな」
「マサは酸素のない場所で一ヶ月生きれる?」
「うん、無理だな。やっぱお前生物の域超えてるわ」
「ん。ノエルは神。あんなエセ神共とは格が違う」
「もう忘れろって、どんだけ嫌いなんだよ」
ぶらぶらと観光しながら歩いていると、遠方から無数の羽音が向かって来ているのに気付く。
「……何か来てね?」
「匂いかな」
「野生動物に蟹は勿体ねぇだろ」
二人は十字路の中心で止まる。東条は袖から腕を出し、ノエルは土の椅子に座った。
「お前、本当に何もしないのかよ」
「守ってくれるんじゃないの?」
「……へいへい、お姫様」「「――ッビィ――……」」
無造作に振るわれた銀線が、高速で突っ込んで来た何かを両断した。
東条は刀に付いた体液を切り、地面で痙攣するそれを見る。
「……蜂?」
体長五十㎝位の、凶悪な顎と針を持った、蜂。
「……まさか、この音、全部?」
東条は冷や汗を垂らす。既に羽音以外、何も聞こえない。
「……」
「あ、おい⁉︎」
一瞬でノエルを覆った樹木のドームに、殴る蹴るの暴行。
「俺も入れろバカ野郎!範囲攻撃はお前の分野だろ!ちょっ、ノエルさん⁉︎いやマジで!」
号泣の顔文字を浮かべながらドームをぶん殴っていた東条は、ふ、と無数の威圧感を感じ、ゆっくりと振り向く。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「カチカチカチカチ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
蜂。蜂。蜂。見渡す限り、三百六十度全てが蜂。日光が遮られる程の蜂の大群に、東条は固まった。その数、軽く五千匹は超えている。
「……いや、あの、縄張りとか入っちゃってました?それなら謝りますんで」
こんな光景、流石の東条でも顔が引き攣る。
「カチカチ」
「あ、この二匹は既にお亡くなりになっていまして、本当に残念です。はい。……おいノエル!逃げるぞ!この数はダルすぎる!キモい!普通にやだ!(ボソ!)」
「「「「「「カチカチカチカチ」」」」」」
「ねえ、ちょっと、ノエルさん⁉︎(ボソ)」
振り返った東条は、樹木の隙間から覗くレンズと目が合う。
「なるべく離れないで。上手く撮れないから」
「――ックソチューバーガァアッ‼︎」
「「「「「「「「「「「「「「「「「ガチガチガチガチガチッ‼︎」」」」」」」」」」」」」」」」」
東条はドームの上に立ち、迫り来る暴威に向かって雄叫びを上げるのだった。




