23話
「特区程じゃあねぇが、やっぱトレントだらけだな」
「……ん」
ノエルはポーチからビデオカメラを取り出し、構えながら歩く。
手当たり次第に生え散らかす緑は、人工物を突き破り空へと手を伸ばしている。見飽きた光景だ。
「……お、あれは」
少し進むと、川を挟んで、白シャツを着た人間のデカい看板が見えてくる。有名なブリコの看板だ。
「撮って」
「あいよ」
両手を上げたノエルを、記念に一枚パシャリ。旅フォルダに、また一枚思い出が残る。
「適当にそこら辺回って、新世界経由で南目指すか」
「り」
――ぶらぶら。
デカい赤いカニが壁に張り付いている。
その下には、かに道楽の文字。ここが緑化に巻き込まれていなければ、蟹の良い匂いが漂っていたに違いない。
「撮って」
「あいよ」
ノエルが蟹の下に行き、指をわしゃわしゃする。何だそれは、蟹の真似か?似てるじゃねーの。
「ハイチーズ」
ドンッッ‼︎
「……撮れた?」
「中々良いのが撮れたぞ」
画面の中に映るのは、蟹の真似をするノエル、
とその脳天に巨大な爪を振り下ろす蟹、
とその爪を防ぐ土で出来た巨腕。
あれが元々生きている事など、二人には分かっている。
蟹は脚を器用に動かし、地面に着地。爪をカチカチと鳴らし威嚇を始めた。
「えーと、あのモンスターは、……あった。かに道楽、ってそのまんまじゃねーか」
東条はアプリで検索をかけ、その生態を調べる。周囲の倒壊した店舗を、トレントごと破壊しながら振るわれる爪を躱しながら。
「あれ食べたい!」
「あー、ちょいまち。何かコイツ、あんま害ないから、壊れた模型の代わりに生かされてるっぽいわ。っと」
「えー」
東条はスマホをノエルに投げ渡し、甲羅を蹴って距離を取った。
姿勢を低くし、左手は鞘に、右手を柄に添える。
――抜刀の構え。
「でもまあ、」
加速。よろける蟹の下を通り抜けざま、刀を一閃。
「脚の一、二本、貰っても構わねぇだろ」
蟹が後ろに倒れると同時に、左右真ん中の二本がずれ落ちた。
「クククっ、初めてにしちゃあ、なかなかカッコよかったんじゃね⁉︎どうだったよ!」
東条はビュッと蟹汁を切った後、スマートに刀身を鞘に収めようとして失敗する。
「ノエル爪が良かった」
「あ?ばっかお前、それじゃあコイツが餌取れなくなっちまうだろ。どうせお前の食い意地に反応しちまったんだろうし、静かにさせといてやれ」
彼は二本の脚を拾い、未だに起き上がれずにバタついている蟹を、漆黒武装した腕で持ち上げる。
「ほれ、ちゃんとくっつけ」
バシッ、と半ば強引に蟹が定位置に戻った。
「怖がらせて悪かったな。脚再生するまで安静にしとけよ」
「……命拾いしたな」
去って行く台風を見送る蟹は、意味の分からない二人に冷や汗を垂らすのだった。




