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「うわ〜、すっごい数」
「ズーム会議とか大学以来だわ」
皺や白髪が多い画面上で、一際目立つ若さ。彼女を見つけた東条は、ほんの少しだけ姿勢を正した。
「見美さん、やってやりましたよ。ちゃんと見てくれてました?」
ニヤリと笑いサムズアップする東条に、見美も固い表情を崩す。
『勿論ですよ。本当に感謝しています』
「あざっす。帰ったらお祭りしましょ」
「お祭り。やりたい」
「えっ、俺っちも行きたい! 行っていい⁉︎」
『That's a good idea. Well then,お祭りの計画は次の機会に話し合いましょう。本日は、私達の感謝を受け取っていただけると嬉しいです』
「「「はーい」」」
『『『これが今の日本のトップ……』』』
暴走しそうになった会話の本筋を、一呼吸で元に戻す。その手腕と落ち着きぶりに、他国の者達も感嘆する。
画面の中央にいたアメリカ大統領、フレデリックが、目元に皺を寄せ口を開く。
『時間をかけるのも彼らに悪い。始めるとしよう。
私は合衆国大統領のフレデリックだ。今回の進行役を務めさせてもらう。よろしく頼むよ』
黙して肯定する選帝者達を見て、フレデリックは軽く笑う。
『ではまず、此度の英雄的行動に感謝と敬意を表し、世界を代表して礼を言わせてくれ。本当に、ありがとう』
一斉に頭を下げる六十以上の国家。
その中で唯一頭を下げずに投げキッスをする、イギリス代表のスカアハこと、ヴァイオレット ギネス。相変わらず元気なようで何よりだ。
中々に壮観な光景を、見逃すまいとノエルが写メる。
「おいおい」
「これ待ち受けにする」
「性格悪すぎんだろ。後でエアドロして」
「ギャハハっ」
苦笑しながら頭を上げたフレデリックが、『さて、』と本題に入る。
『今回は急遽時間を作ってもらったわけだから、小難しい話をするつもりはない。まず五人には、世界中から勲章が授与される。良ければ受け取ってくれ』
「わーい」
「玄関に飾ろうぜ」
『加えて東条殿、ノエル殿、アルベルティ殿には、許可がなくとも承認国の国境を跨げるビザを発行する。これは半永久的に使用可能だ』
「わーい」
「怠い手続きしなくていいのはアツいな」
『……でだが、なぜアンリ殿とミルザ殿に発行できないかは、分かるな?』
「勿論」
シャルルが穏やかな笑顔で答える。
『単刀直入に言おう。今回の功績に免じて、今までの犯罪行為は水に流す。だから一度帰国し、罪を償え』
「断ります」
『っ……』
即答。
怒りに口を挟もうとした他国の代表を、フレデリックが手を挙げて制す。
『なぜだ? 不便な生活はさせないと約束するし、貴殿も追われる生活には疲れただろう?』
「なぜ、と言われても……どこかで幸福を願っている方がいる限り、僕が歩みを止めるわけにはいきませんので」
『その願っているものが死ではなくとも、貴殿は笑顔で人を殺せるのか?』
「考え方の違いですね。僕が連れて行ってあげられる場所を、あなた達が勝手に死と定義しているだけですから」
『……そうか。ミルザ殿、貴殿はどうする? 彼についていく以上、犯罪者の仲間という扱いをせざるを得ないが』
ラファは首を傾げ、少しだけ考える。
「……私は、知りたいのです」
『何をだ?』
「……幸福とは何か? 平等とは何か? 世界はなぜ、こんなにも不平等なのか?
……もし全員が笑って過ごせる場所があるなら、私も行ってみたいのです」
『彼といては、その夢から遠ざかるばかりだと思うが?』
「……今、勝負をしているのです」
『誰と?』
「……シャルルさんと。楽しいです」
『そ、そうか。何の勝負を?』
「……最も美しい場所は、此岸にあるのか、彼岸にあるのか。それを確かめたいのです。……それに、シャルルさんはダメ人間です」
「おっと、いきなり刺さないでくれます?」
「……シャルルさんは、私がいないと何もできないので、仕方なく旅を続けます」
「あはは、どの口が言っているのでしょう」
仲良さげな二人とは裏腹に、大画面は苦虫を噛み潰したような表情で溢れている。
『……東条殿』
「んはい?」
『貴殿らは個人的に依頼を受けたりもしていたな?』
「まぁ、気分と報酬次第で」
『アンリ殿とミルザ殿を拘束し、フランスに送還することは可能か?』
「気分が乗らないので無理ですね」
『……』
即答である。
東条は不思議そうに自分を見上げてくるラファを一瞥し、軽く鼻で笑う。
「それ俺に頼んじゃったら、いよいよ警察とか軍隊がいる意味なくなっちゃうでしょ。あくまで俺の仕事は探索と狩猟ですよ? お忘れですか?」
正論である。
フレデリックの視線が、ガブリエーレに移る。
「ん? あ、俺っちもパス。二人とは友達になっちゃったから」
残るノエルは、ラファにお菓子をあーんしている。返答は目に見えている。
この場には、大統領直々の依頼を足蹴にできる者しか揃っていないのだ。選帝者に常識が通じないことを、彼らは改めて理解させられた。
『そうか、残念だ』
「終わり?」
ノエルが空になったフライドチキンのバケツを持って首を傾げる。
『ああ、そうだな。今回は我々からの礼を伝えたかっただけだから、これくらいにしようか。今後の予定に関する詳細は、各々の所属する国から追って連絡があるだろう』
「ん。ヴァイオレット、皆元気?」
『んふふっ。ええ、元気すぎてうるさいくらいよぉ。アリアは東条君に会いたがっていたわねぇ』
「ハハッ、モテる男は困るね〜。よろしく伝えといてくれ」
『はぁい』
「見美、明後日くらいに帰る。お祭りしたい」
『分かりました。案を出しておきますね?』
「ん。じゃ」
「あ! 大統領! 俺っちまだこっちにいるから! 当分イタリアには帰ら」
――ブツッ。
ブラックアウトした画面に、「あぁー!」とガブリエーレが怒る。
「やったなノエっち!」
「逃げろ逃げろ」
部屋からバタバタと出ていく二人を、東条も溜息を吐きながら追いかける。
後にポツンと残された、シャルルとラファ。
「……元気な方達ですね」
「ええ。とても素敵な人達です。……片付けましょうか」
「……お願いします」
「はぁ、はいはい」
皿やゴミを回収するシャルルの顔は、楽しそうに緩んでいた。




