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東条はフライドチキンを片手に、『接続中』と表示されている大画面に視線を戻す。
「で、いつ始まんだっけこれ?」
「そろそろじゃない? 何か映画みたいで楽しみだよね!」
「映画ならどれだけ良かったか……」
そして約束の時間ピッタリに、大画面が起動する。
画面に映るのは、各国の総理大臣、大統領、副大統領、防衛大臣、情報局局長、軍事顧問、世界的企業のCEOなどなど、国を代表する錚々たるメンツ。
世の権力者達が、画面にぎゅうぎゅうに並べられていた。
国の代表達は、それはもう身を正し、感じたことのない緊張を胸に、何十分も前から準備していたのだ。
当然だ。これから彼らが前にするのは、世界を救った英雄。【選帝者】と呼ばれる、人の皮を被った一騎当千の怪物なのだから。
そも、日本やアメリカ、メキシコやイギリスなどの当事国以外は、選帝者という名称すら最近知った、なんていう国家も珍しくないのである。
そんなところに、あのLIVE配信である。各国上層部の反応は、ド肝ブチ抜かれるとか、そんな次元ではなかっただろう。
【選帝者】や【王】と呼ばれる者達の、本気の喧嘩。それがいかに埒外で、いかに手に負えない代物なのか、今回の配信で、それが全世界に知れ渡ったのだ。
そんな者達と謁見できる機会を、みすみす逃すのはバカの所業。少しでも選ばれし者達の記憶に残ろうと、彼らなりの誠意を持ってこの会合に参加したのである。
……そして彼らは見た。
特大ソファに腰掛け、映画感覚でこちらを見ている英雄達の姿を。
一番初めに目についたのは、【魔人】:東条 桐将。
ソファの背もたれに両腕を回し、足を組んで踏ん反り返り、しゃぶっていたフライドチキンの骨をゴミ箱に吹き捨てる。
特徴的なオッドアイには、この数の国家を前にして動揺一つない。寧ろ心底怠そうな気配すら伝わってくる。
なるほど、噂に違わぬ尊大ぶり。これは日本も苦労する。
その隣で、溶けたアイスクリームのような格好でこちらを見ている少女が、【蛇王】:ノエル。
モンスターでありながら、比較的人類に友好的な王の一柱。
機嫌を取るのは案外簡単だが、逆鱗に触れた際の被害規模が馬鹿げているため、国家間で不可侵条約が定められている一人である。
ただ、彼女の機嫌を取ることは、お目付け役である東条 桐将の機嫌を取ることとほぼ同義であるため、期待はしない方が良いとのこと。
我々は、彼女が人間の味方であり続けることを願うしかない。
知り合いでもいたのか、笑顔で手を振ってくれているのが、【万魔殿】:ガブリエーレ アルベルティ。
元々就いていた職業が関係しているのか、食べることに対して異常な執着を見せている。
今はサバイバル料理系配信者として世界中にファンを抱えており、フレンドリーな性格も相まって、前者二人と同等以上の影響力を持っている人物である。
選帝者の中でも、比較的穏やかで話の通じる人間という認識……であったのが、先日までの話。
あのLIVEを見た我々は、果たして彼に人間の部分が残っているのか測りかねている。
そして背筋を伸ばし、一番こちらに礼儀を尽くしてくれていそうなのが、……何の皮肉か、【天国の処刑人】シャルル アンリ。
フランスの辺境で特殊部隊を壊滅させた後、パッタリと目撃情報が途絶えていた国際指名手配犯である。
LIVEに彼の姿が映った時は、世界中の警察が動揺したことだろう。
今思えば、彼は世界中の貧困地域や、モンスター災害に遭うも国の手が回らない箇所を転々としていたのだろう。恥ずかしながら、五年経った今でも、発展途上国の死傷者数は計測できていないのが現状。
いったい彼の手によって、何人が《《救済》》されたのか、……考えたくもない。
画面に目も向けず、料理を美味しそうに食んでいる少女。……我々は、ついこの前まで彼女のことを知らなかった。
ラファ ミルザ。
一年前、とある探検家が中東に足を踏み入れた。
彼曰く、中東諸国は時代が数世紀後退したような、酷い有様だったらしい。
強力なモンスターこそ多くないが、辛うじて存在していた法と秩序は完全に崩壊し、マッドマックスのような光景が広がっていたと。
しかしアフガニスタンに入ると同時に、彼は驚いたと言う。
なぜなら、女性が物のように扱われていた周辺国と違い、そこでは女性こそが主権を握っていたからだ。
と言うよりも、男が殆どいなかったらしい。
各地に点在する大集落が周辺の治安維持を担い、中央に全ての集落を統括する都市まで建設されていたと言う。
彼はそこの都市を治める女性に謁見し、話を聞くことに成功した。
曰く、
《この場所はラファ様がお造りになられた。私は彼女が学び、帰るまで、ここを預かっているに過ぎない。
互いを尊重するならば、あなたも、私も、ここでは全てが平等だ》
と。
ラファ。
ラファ ミルザ。
統治者だけでなく、この都市にいる女性のほぼ全てが、ラファという名を口にした。
彼女達の瞳に映るのは、感謝と尊敬、そして信仰に近いほどの親愛。
ラファ ミルザに会えなかったことだけが、私の心残りである。
彼のレポートはこう締め括られている。
なぜ彼女がシャルル アンリと行動を共にしていたのか?
なぜ人畜無害そうな彼女がこの異常な面々の中にいるのか?
その一切が不明。
というのも、彼女が何をしたのか、LIVEでも判断ができなかったからである。
ちょうどそこだけが映らなかったのか? それとも意図的に映さなかったのか? 我々には推測することしかできない。
しかしあの時、あの場所で、凄まじい数のエネルギーが一瞬で消滅したことが分かっている。人間サイズに換算すると、およそ三百万人が一斉に死んだことになるほどのエネルギーがだ。
海を埋め尽くしていた深きものどもが、配信の終わりにはいなくなっていた。対個人に特化しているシャルル アンリが、あの量の深きものどもを捌けるとは到底思えない。恐らく、ラファ ミルザが何かしたのだ。
アフガニスタンで信仰される彼女もまた、選帝者と見て間違いないだろう。




