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翌日。
あてがわれた一室にて、東条は大画面を前に辟易としていた。
特大ソファに尊大に腰掛けながら、東条は大きな溜息を吐く。
そんな彼の膝の上で、ノエルが足をぶらつかせる。
「ノエルさんよぉ」
「ん」
「こんなにスペースあんだから、ソファに座ったらどうです?」
「や」
「やかぁ」
東条は軽く笑い、背もたれに両腕を預け天を仰ぐ。
彼らと少し間を空けて座るシャルルが、落ち着いた面持ちで二人のやりとりを笑っている。
その横に、ソワソワしているラファがちょこんと座っている。
部屋のドアが開き、ガブリエルが入室。彼は東条の隣に腰掛け、両手に持っていた軽食を間に置き、尻尾でグラスにワインを注いだ。
「いやだから、何でお前も近くに座んだよ? せっかくこんなデカいソファなのに」
「え、口寂しくなると思って作ってきたんだけど、食べない?」
軽食と呼ぶにはかなり手の凝った品々に、ノエルが「食べる」と即答する。
「長くなりそうだったからね〜」
「マジ憂鬱。昼飯もあるんだから食べ過ぎんなよ?」
「ん。うまうま」
「でしょ〜」
ソワソワしだしたラファに袖を引っ張られ、シャルルが「はいはい」と苦笑する。
「ガブリエーレさん、彼女も混ぜてあげてくれませんか?」
「当たり前でしょ〜よ〜! ほらほら、こっち来て! シャルルっちも! 何遠慮してんの!」
東条の膝から飛び降りたノエルが、隣をポンポンと叩いてラファを呼ぶ。
嬉しそうに料理をモシャる女子二人を肴に、男三人はワインで乾杯する。
「なーなー、シャルルはさ、何で人殺してんの?」
「あはは……、単刀直入ですね。苦しんでいる人達を、幸せな場所へと送ってあげたいからですね」
「あーね。死こそ救済的な?」
「少し違いますが、まぁ他人から見たらそう映るのも無理ないですね」
「尖ってんな〜」
「ね〜。この手に触れたら最後、チ〜ンよチ〜ン」
「こっわ。お前絶対手袋取んなよ?」
「あ、これがジャパニーズ『フリ』だよ!」
「変なこと教えんな」
普通に楽しそうに話す男二人を、シャルルは少しだけ驚きながら見つめる。
「……否定しないのですね」
「ん? あぁ〜、否定ねぇ。……確かに否定するところか」
「安楽死みたいなものでしょ? 背中預けあって戦ったから分かるけど、シャルルっち悪い人間じゃないしね。
それに俺っちだって襲われたら反撃するもん。軍隊が悪いよ軍隊が」
「選帝者なんてだいたいこんなもんだろ。俺は俺の周囲に被害が及ばないなら、他は大してどうでもいいよ」
「あはは。東条さんって、もっと怖い方なのかと思っていました。とても広い心を持っているのですね」
「おぉ、お前分かる奴だな。肉をやろう」
「ありがとうございます」
「違うよシャルルっち、桐っち頭がこう、だからさ」
ガブリエルのジェスチャーに、ラファとノエルが吹き出す。
「あ? イカれモンスターもどきが何言ってんだ? お前よりは常識あるわ」
「何言ってんのよ〜。桐っちもこっち側でしょ〜よ〜」
「周りにいる奴が頭おかしすぎて狂ってくんだよ。筆頭お前な。マジお前のせい。おい肩組むな」
自然に始まる二人漫才。
色のない目を開け、ラファが楽しそうに微笑む。
「……面白いお方達ですね」
「ええ。僕も不思議な気持ちですよ」
シャルルの中で、まだ少しあった緊張と警戒が解けていく。
「初めての感覚です。……否定されないというのは、良いものですね」
「ん。ここにいる人間、皆選帝者。皆どこかおかしいけど、少し似てる。だから居心地良い」
「確かに、そうですね。とても居心地が良いです」
「……シャルルさん」
「はい?」
「……皆さんのお顔が知りたいです。教えてくれませんか?」
色のない瞳を見つめ、シャルルは優しく微笑む。
「喜んで」




