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不敬者

 ピニャーシュさんにお悩み相談していたせいもあるけれど、地下に避難所を作り終わるころにはだいぶ周囲が暗くなっていた。

慣れない魔法を使ったおかげで、ちょっと精神的にも疲れてた……かな。

まあ、何度もやっているうちに慣れるでしょう。


 避難所に睡眠の邪魔にならない程度のうす明かりをともし、【お庭】の入り口を開く。

中に一歩足を踏み入れた途端、耳に入るのは今まで聞いたことがなかったにぎやかな声。楽しそうに弾む声に、自然と口元が緩んでしまう。


 こういう雰囲気はヒガシショユ村ぶり。

あそこを出てからまだ半年も経っていないのに、ひどく懐かしい気持ちになった。トリーはもう、王都に行ってしまって居ないけれど、トリーのお父さんや弟さん、それからヌンツィオさんたちは元気かな?

なんか、ヌンツィオさん辺りは、にぃに(・・・)と文通(という名の情報交換)してそうな気はするけれど……


「そっか」


 わたしもにぃに(・・・)にお手紙を書けばいいんだ。

すごく心配しているみたいだから……うん、あとで書こう。武神さまから言付けを聞くよりも詳しく状況を説明できるし、安心するかも。

トリーにも届けてくれるんだし、かかさま(魔神様)にお願いできるよね。


「フェリシアさまっ」

「みんないっぱい食べたっす!」


 ちょっと考えに沈んでいるうちに、加護者になったマルコとカルロが飛んできて口々に報告してくれる。

今日は昨日よりも重めの具沢山な麦がゆだったんだけど、みんな満足してくれたみたい。すでに食器類は洗い終わって乾かしているところで、避難所に移動する準備も整っている。


「祭壇セットとゴザも大丈夫?」

「はいっ! 仮設祭壇のセットはこの中に入れてあります!」

「ゴザはみんな、一個づつ抱えてんよ。祭壇って、オイラかマルコがそばにいればいいんだろ?」

「うん。一度だけお祈り捧げたらどっちかがそばにいてくれれば、寝ていても大丈夫」


 本来なら、朝・昼・晩の三回、祭壇にお祈りをささげないといけない。

でも、今回の場合はずっと移動を続ける予定だからね。定住しているわけでもないので、問題ないってかかさま(魔神様)の言質も取ってあるし、大丈夫。


「避難所に移動したら、三人で一緒にお祈りしよう」

「はい!」

「ういっす」

「じゃあ、もう移動するってみんなに伝えてくるっ」


 言うが早いか、シュタターっと走っていくマルコの背中に首をかしげる。

うっかりスルーしちゃったけど、『さま』ってなに?

なんか、今朝までため口だったのに、微妙に言葉遣いも変わってたよね……?


 説明を求めてそばにいるふたりの顔を交互に見たけれど、カルロはニコニコ、ピニャーシュさんはいつものすまし顔で何にも情報は得られない。


「ねえ、マルコって最初からあんな感じだったっけ……?」

「そうなんじゃねーっすか?」


 いや……もっと、普通にタメ口だったと思う。



☆★☆★☆★☆★☆★☆



 みんなを避難所という名の今日の寝床に送り届けたあと、食事を終えたわたしとピニャーシュさんは冬エリアで途方に暮れていた。……いや、途方に暮れてるのはわたしだけかも。ピニャーシュさんはいつものすまし顔だし。



☆★☆★☆★☆★☆★☆


 あんまりにも魔獣と遭遇するものだから、移動中はビリビリメリノとハニブーンに周辺敬語をお願いすることにした。

その結果は、というと――


「にぃに(・・・)と一緒の時よりひどい、とは……?」


 思わず、何度も見直すレベルの魔獣の死体の山が出来上がると言う……

いや、ビリビリメリノはともかく、ハニブーンってそれほど好戦的じゃなかったはずだよね?


「フェリシア嬢のビリビリメリノとハニブーンが、大分活躍しておったからの」

「いや、そうなんだけど……」


 ピニャーシュさんと、加護者ふたり組もがんばってたよね?

 マルコとカルロは、ハニブーンに刺されて弱ったガルゥを中心に狩りをしていたはず。

むしろ、ピニャーシュさんがそうするように指示を出していた記憶がある。

 ちなみに、同じように言われていたドメニコさんは怖くて動けなかったみたいだけど、彼の場合、低ランクの体術だから仕方がない。躊躇なく動いていたマルコとカルロの方が、ある意味オカシイんじゃないかな?

 間違いないのは、わたしはドメニコさん派閥だってことだね。

武術系スキルを手に入れたとしても、すぐに実戦だなんて無理すぎる。


「まじめな話、これでもだいぶ魔獣の群れを避けて進んでおる。人族領域から遠い地にあることを思えば、襲撃は少ない方じゃぞ?」

「そう……」


 でも、こんなに食べきれないよ?

目の前に積みあがる魔獣の死骸に向けた目が死ぬ。

 前々から思っていたんだけど、ピニャーシュさん。あなた、わたしを食肉卸売業者にでもするつもりですか……?


『冬エリア、広げようか。それとも、氷室を増設しちゃう?』

《おうちの地下に、氷室と解体場をお願いできるとありがたいです……》


 苦笑とともに『了解』の言葉が届く。

かかさま(魔神様)が気をまわしてくださったのをいいことに、要求を上乗せしてしまった罪悪感がハンパない。不敬な神子でごめんなさい。


「かかさま(魔神様)が置き場を作ってくれるって。あとでそっちに――」


 運ぶ算段を付けようと思っていたら、目の前から死骸の山が消えてなくなった。

どうやら、かかさま(魔神様)が気を使ってくれたっぽい。ありがたやー。


「神々は仕事が早いの」

「ソウダネ」

「アレを解体させれば、あ奴らの身体能力もちょっとは鍛えられるじゃろうて」


 ……どうやらピニャーシュさん、やる気のある子に解体スキルを仕込むつもりのご様子です。

また、食肉が増えちゃうね。普通に食べるだけじゃ消費速度が足りないし、どうにかこうにか大量消費する方法を考えないと……

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