いろいろ不安
ピニャーシュさんに、無駄な心配をかけてしまった。
かかさまに魔法薬のことを話し終わった直後に戻ってきたから、わたし、ずいぶんと思い詰めた顔をしていたらしい。心臓に悪いよね。ちょっと離れてただけで、被保護者が死にそうな顔してうつむいてたりしたらギョッとする。
反省しなくては。
さて、改めて魔法薬について考えよう。
かかさまに聞いたところ、魔法薬は癒食の半上位スキルにあたるらしい。
半上位スキルと言い方になったのは、この二つのスキルが本質的には違うものだから。
【癒食】は、口に入れるもの――食べ物や飲み物で魔素中毒にならないよう、食材に含まれる魔素の調整をするのが主な使用目的になる。個々人の魔力量にあわせて使用することにより、食材に内包されている効能が活性化して一時的なドーピング効果が得られることもあるけれど、それはあくまでも副次的なもの。
本来の使用目的とは、また違う。
対する【魔法薬作成】の場合は、素材に含まれる効能を活性化させるのが主な使用目的だ。
まずは目的とする効能を強化して分離し、それから人属が利用できるように整える。効果は癒食と比べて劇的で、モノによってはあとから体に不具合がでることもあるらしい。
『いきなり口に入れるものは避けた方がいいだろうね。そうすると、【なめしスライム】とか【石鹸】がおススメ。今ある在庫は人数が増えたから、すぐに無くなっちゃうでしょう?』
なんか、知らない名前が出てきたよ。
《かかさま、【なめしスライム】って?》
『皮をなめすのに使う魔導生物なんだけど――』
なめしスライムというのは、なんか、赤黒いネバネバしたものらしい。
そんでもって、魔力を注ぐと生皮の『腐る成分』を取り除いてくれるんだって。
おススメしてくれた理由は、保護した子たちの履物や衣類に利用できるから。
狩りが大好きなにぃにのおかげで生皮がたくさんあるし、ちょうどいいかも?
それに、生皮のままよりも、処理が終わったものの方が高く売れそう――っと、ソレはともかくとして、みんなの服や靴も必要なのは間違いないね。
でも、だれか作れる人いたっけ?
《縫製神の加護をもらった子がいるでしょう。あの子なら、革も縫えるから大丈夫だよ》
縫製神さまの加護を授かったのはたしか、兎人のカルロさんだったね。
あとで、村から持ち出したモノを確認して、裁縫道具があったら渡そう。材料は――大きな布袋で大丈夫、かな? 簡単な服くらいなら作れるかも。
【駆け出しマーケット】で交換しまくったから、下着も割とたくさんあったはず。あと、靴はないけどつっかけや草履も少しはあったはず。足袋がないから外の草むらを歩かせるのは危険だけど、移動中や【お庭】の中ならそれで充分だよね。
……良かった。これなら、最低限だけど衣食住は賄えそう。
《かかさま。お庭の外で夜を過ごすつもりなんだけど――》
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お昼寝を終えたみんなをミルギューに分乗させて移動できたのは、合計八時間。
今日の移動時間は終了したので、みんなには【お庭】での雑用をお願いした。雑用が終わったらご飯を食べるように伝えてあるから、今日の寝床が出来上がるころにはみんなお腹がポンポンになってるはず。
わたしとピニャーシュさんは、そのあとでゆっくり食べる予定です。
土魔法で地下へ下りる階段を作りつつ、今日の行程について思考を巡らせる。
周囲の魔獣が魔素の変化に反応していなくなるのを期待して、のんびりと移動したから思った以上に距離が稼げてなさそうなのが気がかりだ。
そして気になっているのは、そんな文字通り牛歩な旅をしているのに、今日だけで十六回も魔獣に遭遇していること。
遭遇頻度が、めちゃくちゃ多い。
わたし、動く魔素処理機的な能力も搭載されてるって聞いているんだけど……今日の遭遇っぷりをみると、あんまり効果がないように思えてとっても不安。
だって、道中だけでなく、一時間ごとにとっている休憩中に襲ってくるのもいたんだもの。ピニャーシュさんが居なかったら、ホントに危なかったと思う。にぃにと一緒の時はこんなに魔獣に出くわさなかったのに……
やっぱり、わたしの力不足?
かかさまの神子として、もっと何かを頑張らなきゃなのかな?
悶々と思い悩んでいたら、頭をポンポン撫でられた。
「フェリシア嬢は、十分よくやっとる」
「ピニャーシュさん……」
「何ぞ思い悩んどるようじゃが、相談先は必要かの?」
結論から言うと、相談してみてよかった。
にぃにがいるときに魔獣に出会わない理由が分かったので。
その原因は、にぃに。
【気配察知】スキルをSSSという最高ランクで習得しているため、進路を決めるときにはできる限り出会わないようにしていたらしい。
ピニャーシュさんも同じスキルを習得しているけれど、ランクはB。
ここまでランクが違うと、感知範囲も精度もぜんぜん違うはずなので納得するしかない。
「ヒガシショユ村に向かう途中、ピニャーシュさんとふたりで移動してたときは? にぃに、居なかったよね」
「アレは、ワシが穏身を用いておったからじゃな」
【穏身】は、【気配察知】とは反対に、自分(と接している生物)の気配を殺すスキルだそう。
このスキルを使いつつ魔獣を避けて移動していたから、道中で遭遇づらかったらしい。なお、密着している生物もスキル効果内に含まれるそう。
言われてみれば、確かに騎獣もわたしもピニャーシュさんにベッタリくっついてたね。わたしは背中に括られて揺られまくるという、なかなかの地獄体験だったけど。
「そっか……わたし、特別ダメな子ってわけじゃないんだね?」
ホッとして苦笑を浮かべると、ピニャーシュさんがものすごい変な顔になる。
「フェリシア嬢が『ダメ』じゃったら、世の中にダメじゃない者がひとりも居なくなるじゃろうに……」
ピニャーシュさんは呆れ顔だけど、それはちょっと、持ち上げ過ぎだと思いますよ?




