とてもじゃないけど帰れない
フォレチェルで内陸に向かって一時間ほど走ってから【お庭】に戻ると、春エリアの草原でみんな揃ってお昼寝中。
なぜかみんなスッポンポンなんだけど――さては、着ていたものを全部洗ったね?
あたりを見回してみると、少し離れた日当たりが良い場所に、全員分の服が広げられていた。どれも一応は洗ったみたいなのに、それでも尚バッチい。
わたしたちはみんなが起きるまでの間に、全員分の服を回収して木のおうちに移動することにした。
クローゼットにしばらく入れておけば、もう少しましな状態になる……といいなと思います。いつの間にか、自動洗浄&復元機能がついてるんだよね。このクローゼット。
おかげで、やらなきゃいけない家事が減って、ものすごく助かってる。
木のおうちのわきに置いてある果物かごの中身がいつもより少ないから、朝ご飯代わりの果物を食べまくったみたい。
お腹の隙間がなくなると瞼が重くなるからね。みんなが爆睡しているのも納得です。
「ピニャーシュさんはこのあと、カニの解体?」
「うむ。重すぎて、そのままでは運べんのが難点じゃな」
「サイズ的に、マジックバックにも入らないからねぇ。でも、小分けにしたのを入れる用のは必要でしょう?」
「いくつか拝借したい」
「うにゃうにゃ。防寒の魔道具も作るから、下着を持ってきてね」
カニさんたちは冬エリアに置きっぱなしだからね。解体作業中に、ピニャーシュさんが凍死したら大変なのでサクッと用意しちゃいます。
湖や王都の道中、地味にマジックバックの基盤を作りまくったおかげで、魔道具作成スキルはなんとSランク!
魔導基盤なんて、数分で作れるようになったよ。
気軽に必要なものを用意できるようになったので、それがすごく楽しい今日この頃。
ピニャーシュさんが戻ってくる前に、イヤリングと手袋、それから腰巻の三つに防寒の付与を施す。まだ戻ってこないし、下着が届くのまでちょっぴり休憩しておこう。
ミルギューミルクにペシェの果汁を混ぜて、ちみちみ舐める。
今日からしばらく、十六人前のご飯を作らなきゃいけないからね。量を作りやすいものも考えないと。
『量もだけど、【お庭】の外で寝起きする予定でしょう?』
《そっか、外で作れるものって方向でも考えないとだね》
『それから、フェリシアちゃんたち以外の子は、極端な粗食に慣らされているから消化にいいものにしてあげないとダメだよ』
ということは、おかゆとかポタージュスープ系みたいに柔らかいものの方がいいのかな?
そう考えると、昨日の晩に用意したスクランブルエッグとかって微妙だったのかも。……いや、お腹壊した子はいなかったっぽいし、ギリギリセーフ?
《かかさま。体調崩した子が出た時に、生命魔法で対応できるかな……?》
『食中毒なら生命魔法で対応できるけれど、消化不良はお薬が必要だね』
「……お薬、か」
実のところ、未だに村のはやり病を夢に見る。時々ではあるんだけどね。
そして、その夢を見るたびに思ってしまうのは、『なんであの時点で、かかさまのご加護を授かってなかったんだろう』ってこと。
かかさまが司るのは、『魔』を関するすべてのものだ。
ソレは、魔法だったり、魔獣だったり、魔道具だったり――そして、魔法薬もその範囲内。だからどうしても、あの時に魔法薬が作れたのなら、今もまだオトンやオカン、村のみんなが生きていたんじゃないかと――わたしのせいでみんなが死んでしまったんじゃないか、と、そう思えて仕方がなくて。
だから、『魔法薬作成』スキルの存在から必死に目をそらしている。
《あのねぇ……かかさま》
目を閉じ、唇をかみしめる。
《わたし、ホントは、ひとりで逃げようと思ってたの》
だって、どう考えてもほかの子たちは足手まといになるのが目に見えていたんだもの。
自分の命の方が――自分の自由に動ける身分の方が大事だよ。だから、兄ちゃんさんが話しかけてこなかったなら、ひとりで逃げるつもりだった。
『それは別に罪じゃないよ』
そうかもしれない。でも、できなかったんだよ。
《わたし、ひとりで逃げて、今度はどこに行けばいいのか怖くなったの》
マルコの年下の子たちを気遣うのが当然だって思ってるのが分かったから、とても、とても怖くなった。ひどい目に合うのが簡単に予想できる子たちを置いてひとりで逃げたら――にぃにのところに、とてもじゃないけど帰れないって、そう思ったから。
『あの子はフェリシアちゃんがその選択をしても、態度を変えたりしなかったんじゃないかな』
《そうだとしても、わたしが無理》
にぃにが大神殿にから帰ってこなかった事情を聞いてなかったら、平気な顔して戻れただろうけど……
ぼかした事情でも、にぃにがひどい目にあわされる加護者をひとりでも減らすために大神殿に残ってたんだ、って聞いてしまったから無理。
似た状況でひとり、にぃにのところに逃げるなんてできっこない。
《だから、だからね? かかさま。魔法薬の作り方、覚えたい》
このまま先延ばしにして、『やっぱり、魔法薬の作り方を覚えておけばよかった』だなんて言いたくなんてないんだもの。
それに、いつまでも逃げてるわけにはいかないでしょう? にぃに。




