出荷先
「さて、みんなの【加護の儀】を大急ぎで終わらせたワケを話すね」
【加護の儀】も終わり、全員にちゃんとした温かい食事を食べさせてから切り出したのは、儀式を今日行わなきゃいけなかった理由です。
「ピニャーシュさん、お願いします」
「うむ。早速じゃが、お主らが乗せられた船はすでに東の魔獣領域を北に回って、北東にあるベルチーニ王国に向かっておるようだ」
ちなみに、向かっている方角は、かかさまに教えてもらった。
そのことをピニャーシュさんに話したところ、目的地はその国だろうという話になったのだ。なお、バッジ王国の東隣がソルベル王国で、そのさらに東にあるのがベルチーニ王国らしい。
ベルチーニ王国の立地は、北東と南西を魔獣領域にはさまれ、東と東南は海に面している。
残る西はソルベル王国、北西はリニャーリ王国という猿人種至上主義の国なんだけど、国境付近(微妙にはみ出てる)には高い壁が張り巡らされていて入国には許可が必要。むしろ、入国できるのは馴染みの商人だけじゃないかっていうレベル感っぽい。もちろん商人も猿人のみだというから徹底している。
閉鎖的な国なのは間違いないね。
なんにせよ、ベルチーニ王国の場合、海に面している範囲が広い。
海には魔魚が住んでいるからね。ある意味、四方向を魔獣に囲まれているという見方もできる環境ではあるわけで……ぶっちゃけ、魔獣狩りの戦力として人材を積極的に買い入れているそうなんだよ。狩り奴隷というそうなんだけど、この制度を積極的に取り入れている国はそれほど多くはないらしい。
「統計的に、猿人は高ランクの魔法を授かりにくいからの」
猿人のドメニコさんが、ひとり納得した表情になる。植物魔法Fランクも、なかなかの才能だと思うんだけど――イメージ的には、あんまり戦闘向きっぽくないよね。
「で、だ。船で向かうと、バッジ王国からベルチーニ王国まで二~三日で到着してしまう」
「もしや、明日の昼までに逃げんと……?」
顔色を悪くしたルカさんの問いに、ピニャーシュさんは頷いた。
「奴隷として売り払われることになる」
「脱出は、わたしとピニャーシュさんで成功させる予定」
ピニャーシュさんがね、外に出る方法があるというので、逃走はわたしが頑張りますよ。
魔石作りで魔力水を作りまくっているうちに極めてしまった水魔法が、渦を巻くよっ!
「じゃが、脱出先は魔獣領域になる。さすがにワシひとりで全員を守り切るのには戦力的に心許ないのでな」
「脱出時にやることは?」
「基本的に、子供たちの面倒を見てもらえればよい。マルコ、カルロ、ドメニコの三人は、あとで修練用の武具を渡そう」
「あ、武術系スキルのない人にお願いしたいことはあるよ」
乳嚢とランチュー卵の回収と、回収されてきた果物をドライフルーツにする作業は良いヒマつぶしになるだろう。チビッ子と言っても四歳の子が一人いるだけで、あとは7歳以上なのでそういった軽作業なら問題なくこなせるはずだ。
作業中につまみ食いもできるし、喜ぶんじゃないかな。
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最低限の情報共有と打ち合わせを終えたあと、【お庭】にピニャーシュさんを残してわたしたちは船に戻った。
サラさんの負担を軽減しようと思ってのことだったんだけど、いや、もうメチャクチャ後悔したね。
全員お風呂に入ってキレイになってたものだから、小部屋にこもった臭いのひどいことひどいこと……涙が出るわ吐き気がするわで大変だった。
それはもう、必死に換気したよ。
小さいながらも窓があって、本当に良かった……!
なにはともあれ朝になり、厳つい猿人のおっちゃんが水音のする桶を片手にやってくる。どうやら回収されなかったお椀は、洗わずにそのまま使うらしい。全員が一列に並ばされて、ただの水が配られた。
たぶん、弱り過ぎてる子がいないかの確認も兼ねていたんだろう。ひとりひとりを、やたらと念入りに眺めているのが気持ち悪かった。
「――さて、始めよっか」
猿人のおじさんもいなくなったし、みんなを【お庭】に避難させたら脱出作戦の開始です。




