にぃにの事情
ロイさんは食べた。
ともかく、たくさんたくさんた~~~~くさん食べた。
ひと口食べるたびに「うまい!」って、どこの武芸者? みたいな。
「まさか、チンギアーレ汁がひと雫も残らない残らないとは思わなかったよ……」
「うまかった!!」
「それは良かったけど……」
コレは、最低限食べる分を除いて余分な魔素を全部抜くしか手がないね。
「……ロイは明らかに食べ過ぎだけど、美味しかった。フェリシア、ご馳走様でした」
「馳走になった」
「いえいえ、おそまつさまでした」
互いに頭を下げ合って、ここから改めてお話し合いのはじまりはじまり。
「それで、フェリシアは何が知りたいんだっけ?」
「にぃにが家出してきた理由と、今現在、どこに行こうとしてるのか、かな」
聞かれていたことをポロッと忘れたのか、はたまた、答えたくなくてすっとぼけようとしたのかは分からないけど、とりあえず真顔で返す。
「家出……燃え尽きてて、帰れなくなってたから仕方ないと思うんだけど……」
「犯人はわたしです」
表情をキリっと引き締め、言い切る。
「いや、知ってるし、犯人探しはしてない」
そうだよね。火をつけることになった理由も話したもんね。
「で、なんで大神殿から逃げてきたの? 巫女様にイタズラでもしちゃった? わたしも一緒に謝る??」
わたしが心配してるのは、大神殿でにぃにが悪いことをしてきたんじゃないかってこと。
なにせにぃには、まだ成人したばかりの一五歳。
巫女様にセクハラかましてたとしても、ギリギリ若気の至りでごまかせるかも? ほら、アレだ。にぃにってば、男の子の割に可愛い顔してるし(オカン似だね)、案外された側もまんざらでもなかったりするかもしれないし。
「ウソでしょ、ほんとに勘弁してよ……」
イカ耳抱えてうなだれるというにぃにの反応は、正直、予想外のものだった。
「『か弱い』を武器に無理やり関係迫ってくるような相手、絶対無理っ」
「おおお……?」
ええ? あれ??
オスってメスに迫られると嬉しいものなのでは???
頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。
「??? だって、アレでしょ? 『据え膳食わぬは男の恥』だよね?」
「そんなの、不誠実な男の世迷言に決まってるでしょ。誰にそんなアホなこと、教え込まれたの?」
「にぃにが村にいた頃、おっきいおじさんが言ってたけど……」
正直、名前までは覚えてない。当時のわたし、まだ四歳以下だったし。
なにか不穏なことをにぃにが呟いた気がするけど気づかなかいふりをして、ピニャーシュさんとロイさんに視線を向ける。
ヘルプ! ヘルプですよ!!
この空気、どうにかしてください!!!
わたしの無言の訴えを汲んでくれたのか、ピニャーシュさんが口を開く。
「グラ坊、ロイと外で少し体を動かしてくると良い。事情はわしから伝えておこう」
「……おねがいします」
ゆらりと立ち上がると、にぃには怯えた様子のロイさんを連れて部屋を出ていった。
「正直、種の特性もあるのだが……。幼子に余計なことを言ったアヤツが悪い。フェリシア嬢が気にする必要はない」
「あ、アレ言ってたのってロイさんだったんだ」
「フェリシア嬢が『おっきいおじさん』呼んでいたのはアヤツだったからの」
なら、自業自得ってやつだね。
にぃにに八つ当たりされるのは可哀想だと思ってたから、ちょっとホッとした。でも、まあ。心の中で手は合わせておこう。なーむー。
「さて、グラ坊が大神殿を出た理由と、今後についてじゃったな」
「うにうに」
それから、ザックリとした事情説明が行われた。
・大神殿に集められる加護者が年々減っていること。
・中位や高位の神々の加護者が現れなくなっていること。
このふたつの理由から、大神殿では加護者の間で子を成すことを強要するようになっているらしい。
「グラ坊のようにその方針に嫌悪感を示すものもいるが、そうでないもの、迎合するものもいる。男も、女も同様に。そんな中、大神殿の方針に嫌悪感を示した女衆のひとりが、グラ坊を籠絡しようとしているフリをしていると周囲の圧が弱まることに気がついた」
大神殿としては、最上位神の加護――それも神子と呼ばれる寵愛を得ているにぃにの子どもなら、同じとはいかぬまでも力の強い神々からの加護を期待できる、と考えたのだろう。
にぃににとっては迷惑なことに、大神殿に与えられた私室は巫女様たちが出入りし放題(私室、とは!?)。
出される食事や飲み物には催淫剤が盛られるようになり――大神殿から逃げ出すに至った――とまあ、そういうことらしい。
ちなみに、今いる【鍛冶場】は、にぃにの置かれた状況を憐れんだ武神様が授けてくれた鍛冶・武術スキルの修練を積むための拡張機能なんだとか。ホントの名称は、【スキルフィールド】というっぽい。
「グラ坊が前倒しでハズレ村の村長を継げれば、大神殿とて手を出せなくなるはずだったんじゃが……」
「あ~……」
熱病で滅んでいたからアテが外れちゃったというわけだ。
実際オトンなら、そういう理由で逃げてきたにぃにに前倒しで村長の座を譲るくらいしただろうし。
「ということは、追手がいるかも知れない中での国外脱出が当座の目標かぁ」
「うむ……。それにしても、理解が早すぎぬか?」
「だいたい、想定内だったので」
想定外だったのは、にぃにが悪いことをしたわけじゃないのに追われてるって部分だね。コレに関しては、冤罪かけてゴメン! ってことで。
あとで、にぃににはちゃんと謝まろう。
ピニャーシュさん達はもともとこの国の人じゃなかったそうだから、オトンが亡くなってこの国にいる理由がなくなった。なので、ふたりとも故郷に帰る。にぃにはソレに同行するつもりでいるっぽい。
「にぃにが保護者だから、わたしも一緒にいくかたちになるんだねぇ」
「その予定じゃ」
「ということは、国境越えだね」
わたし、地理に関しては全然わからないんだけど……大神殿側がにぃにを手放す気がないんだろうなと思われるこの状況で、正当なルートで国境を超えられるとは考えづらい。
「国外脱出なんて、できるの?」
「……」
コレ、ノープランじゃない?
先行きが暗すぎて、思わず半笑い。
かかさまに相談して、どうにかなる案件かな? コレ。




