高魔食材と愈食
ピニャーシュさん達が戻る前に大急ぎで青物を入手して、晩御飯の用意に取り掛かる。
鍛冶場から出たところを移動していた、アルキノコの群れを捕まえられたのはすんごくラッキー。アルキノコって、良い出汁がでるんだよ。
「にぃに、アルキノコの雑炊と、白飯と青菜炒めのどっちがいい?」
「え、その選択肢、メチャクチャ悩むんだけど」
「あ、雑炊じゃなくてお汁にするって選択肢もあるよ」
「なら、アルキノコは汁物でお願いします」
なんか、敬語で頭を下げられた。
……にぃにってば、どんだけ飢えてんの?
私が下ごしらえを始めると、にぃには鍛冶場に籠もってしまった。どうやら、わたしが料理を作りやすいように包丁を作ってくれるっぽい。ありがたいことです。
オカンのナイフでも、まだわたしの手には大きいので。
さてさて、大神殿から距離が離れるほど、魔素が濃くなるのはみんな知ってる常識だ。そんでもって、そういった地域で取れる食材は味が良いけど、そのまま食べると寿命を縮めてしまうことも、なんとな~くだけど知られてる。毒ではないけど、体に悪い的なフンワリしたイメージで。
ただ、高魔食材って、すっごく美味しいのだ。それこそ、中毒性があるんじゃないかってレベルでね。
ちなみに、高魔食材は人族にとっては蓄積性の毒でもあり、疲労効果が高い食べ物でもある。魔獣にとっては、ただの栄養豊富なごちそうだ。
コレは、かかさま情報ね。
んでもって、この情報と同時にかかさまから、高魔食材の扱い方を教わった。何度も実践に済みだからね、カンペキに処理できますよっ!
とはいえ、誰でも問題ないって状態にするのは時間がかかるので、今回は配膳しながら調整する方式でごまかす方向で。
残念なことに、調理場にはカマドがひとつしかない。鍛冶と武術訓練できる場所がメインで、調理場に関してはホントにオマケで付いてるカンジ何だと思う。にぃに、料理はできないっぽいし。
仕方がないので、まずは銀麦を研いで炊きはじめる。村から持ってきた、一番おっきな羽釜で炊いちゃうよ!
余った分は、おにぎりにして明日の朝ご飯にすればいい。あ、ついでにお汁もたくさん作っておこうっと。
銀麦の火加減を調整しつつ、お汁の下ごしらえを進めていく。
お出汁を取る用のアルキノコは、足のちょっと上で切り離し、おナベの水へドボン。傘と軸の部分は薄目に切って、修練場で風に当てる。ちょっぴり乾かしておくと、汁をたくさん吸いあげて美味しくなるのだ。
続いて、にぃにと掘った根菜の皮をむいて食べやすい大きさに刻んだものもおナベにドボン。アルキノコの足はこのまま一緒に火にかける。
「あ、お肉も刻んで入れなくちゃ」
村から持ってきた、脂の乗ったチンギアーレを薄切りにしてお鍋に放り込む。コレは、囲炉裏でじっくり火を通します。あとは青菜炒めの下ごしらえをしている間に、アルキノコの薄切りがいい塩梅に乾いているはず。
★☆★☆★☆★☆★☆★
青菜炒めが出来上がるころ、ロイさんとピニャーシュさんは鍛冶場に帰ってきた。
「うぇ!?」
入口の引き戸を開けたところで、わたしがご飯を作っている姿に固まるロイさん。ちょっとビックリしすぎでしょう。
「グラ坊が料理をするわけがないとは思ったが……」
「ちゃんと愈食は作れるようになってるから、安心してね」
「愈食は習得が難しいというが」
「かかさまにちゃーんと教わったからっ」
ピニャーシュさんは、冷静にわたしが作ったものを食べて大丈夫なのか心配している。
そこは問題ナッシングですよ☆彡
きちんとかかさまからのお墨付きももらってるんだから。
それはそれとして、ふたりともちょっぴり血の匂いがするけれど手土産はないみたいだ。新鮮なお肉を狩ってくるかな―と期待してたのに、残念至極にございます。明日以降は、あらかじめ食べれそうな植物や魔獣をお願いてとこうかな。
……というか、移動中に食料を物色しながら歩けば無駄がない?
そうすれば、もっともっと食卓が賑やかになるよね。
「あとは、お櫃と青菜炒めをを運んで、お汁の味付けをすればかんせーだよ」
「やば……超久しぶりのまともそうな飯だ……!」
ウンウンと頷きつつ、ピニャーシュさんが上り框に置いといたお櫃を持ってお部屋に上がりこんでいった。お耳がピコピョコしてるあたり、すごく嬉しそうだね。作った甲斐があるというものです。
え? にぃに?
チンギアーレ汁の煮える匂いに耐えきれなくなったにぃには、すでに囲炉裏の前で尻尾をピーンと立てた状態で待機中。味がついてないから、つまみ食いはしてないはず。タブン。
囲炉裏を囲んで、チンギアーレ汁とご飯と青菜炒めをにぃにと自分の間に置いて、大事なことを宣言する。
「今日はそれぞれが一度に食べる量の確認したいから、おかわりをよそうのはわたしのお仕事ね」
「それじゃあ、自分のペースで食えないだろう?」
ロイさんがちょっぴりゴネ始めたので、お肉たっぷりの汁をよそって渡すとすぐに静かになった。
「早死したいなら止めないけど……」
「む……」
「明日からはそれぞれに合わせて作るから、今日のとこは我慢してね」
ロイさんの魔力はたぶん、Fランク。
このあたりで取れる食材はDランクくらいだから、ロイさんにとって魔素含有量が多めな食材ということになる。少食ならまだしも、ロイさんは体格的からしてたくさん食べそう。一食あたりの量を確認して調整したご飯を用意しないと、あっという間に死んじゃうよ。
ピニャーシュさんはEランク、かな。
こちらはこちらで、年齢的にいままでどの程度の余剰魔素を摂取しているかわからない。なので、少し魔素量は控えたほうがいい。
にぃにはCランク。
これだけ魔力が高ければ、魔獣領域の深いところまで行かなければ調整不要だね。むしろ、普段の食事だと魔素量足りてないのでは? せっかくだから、ロイさんたちから抜いた分の魔素を足しちゃえ。
「愈食はありふれたスキルじゃが、調理済みのものから魔素を抜くのは高等技術じゃ。加護の儀も受けていない幼子が身につけている技術ではないはずじゃが……」
ピニャーシュさんは首を傾げていたけど、実際問題できるようになってるんだから仕方がない。
「春まで待たずに加護の儀ができれば、ちゃんとスキルが有るって見せてあげられるのにねぇ」
「いやはや、ほんとに残念です」と返しつつ、全員にご飯を配り終える。一応、配り終えたところで保険代わりに残った料理から魔素を抜いた。ロイさんがうっかり自分でよそっても良いようにしとかないとね。
「では、いただきます」
にぃにの号令で「いただきます」と声を揃えて手を合わせる。
ご飯が出来上がるたびにお供えはしといたけど、改めて心のなかでかかさまにお祈り。丸一日寝コケてしまったから、心配してるかも?
わたし、今日も元気だよ。
*銀麦
短粒種のおコメ。ハズレ村のある大陸では一般的な穀物。ちょっぴり値段はお高め。
*愈食
お料理系スキル。食材から旨味を損なわずに魔素を抜くことができる。調理済みのものから魔素を抜いたり、食材・料理に魔素を添加できるのは高ランクの証。
解熱・炎症緩和などの効果を付与できる。




