ある種のありふれた事件
寒さとひもじさに目が覚める。
どちらもいつものことなのだけど、昨日の晩にひどい寒気を訴えて一緒に眠った幼子が冷たくなっていた。これもよくあること過ぎて、もう涙も出ない。
高地にあるため冬でなくても気温が低いこの地で、毛布もろくにない環境下ではありふれた出来事だ。
小さく胸が痛むのは、きっとくだらない感傷なのだろう。
幼子を皆で葬窟に弔い、まだ日も昇らぬ暗い街中に散る。
各家々からゴミを回収し、謝礼代わりの残飯をもらわないと食べ物が手に入らないのだ。
――そっか。
一人減ったから、分前が増えるんだ。
一瞬、嬉しくなって、直後に落ち込む。
かわいがっていた弟が一人亡くなったのを喜ぶだなんて、なんてひどい人でなしなんだろう。
「……ま、いまさらか」
そう。いまさらだ。
すでにもう、何人も見送ってきた。
病気だったり餓死だったりと毎回その原因は違ったけれど、あいつらは死んで俺は今もまだ生きている。
不思議だな。
死んでいった奴らほど生に執着してたのに……
考えても仕方のないことを考えつつも朝の仕事を終え、帰路につく。
今日は、報酬代わりの残飯のパンが半切れ多かった。
きっと弟たちが喜ぶだろう――そう思っていたのに、俺達のねぐらの前には見知らぬ男たちがたむろしていた。男たちの足元でモゾモゾと蠢く大きなズタ袋を見た瞬間、思考が止まる。
――人さらいっ!!
そう認識した次の瞬間には、大事に抱えていた残飯入りの木桶を投げ捨て、男たちに飛びかかって、あという間に返り討ち。
「コレも追加だな」
「ほかに回収し損ねはないか?」
「さあ? しばらくすれば、また湧くだろ」
「ちがいない」
ケラケラ笑い合うおっさんたちに腹は立つけれど、しこたま暴力にさらされた体はもう動きそうにもない。
「――モリザイカイ町で見たチビ猫を捕まえられてたら、こいつら全部よりも高値で売れたんだろうがな」
「またその話か」
「最低でも二スキル持ちのメスだぞ?」
「はいはい、惜しかったなぁ~」
オレをずた袋に放り込みながら話している内容に、思わず唇をかむ。
そんなにいい獲物がいたなら、そっちを捕まえる方に労力を割けばいいのに……
「さて、門番が交代する前に引き上げるぞ」
袋の口が引っ張られて体が浮くのを感じた直後、乱暴に放り投げられた。
しばらくしてから地面が揺れ始めたことで、どうやら荷馬車に報られたのだと理解する。
ガタゴトと揺れる荷台に揺られながら、強く目を閉じ、おのれの無力さを呪いつつも思わずにはいられない。
せめて、【加護の儀】さえ受けられていれば。
【加護の儀】で、戦闘系のスキルを授かってさえいればもっと結果は違かったかもしれないのに――
期待なんてしていなかったけど、やっぱり助け手なんて現れず、オレたちは奴隷船に乗せられた。




