いつか来る日
ズルインズボスと揉めたあとはこれといって問題もなく、残りの日程は穏やかな環境でお店屋さんごっこを楽しんだ。
魔導チップは単体で売れず、【充填】と魔導基盤とのセットで毎日一~二セットづつ売れていった。
次の機会には、魔道具化まで済ませた状態で売ってみようと思っている。
とはいえ、『自分好みのアイテムを魔道具化できる』というのは案外評判が良い気もするので、両方出すのがいいのかな?
袋物のお兄さんとこのお父さんと追加のお取引が二回あったので、お小遣いがメチャクチャ増えた。
おかげさまで、目標だった服は吊るし売りだけれども新品を購入!
ビシッとした生地で作られた立て襟の膝上丈のワンピースで、下にもう少し丈の長い下着を着けるタイプのものを選んだ。
下着に白と淡い黄色の二着を選んだので、色はモスグリーン。
今までは、前合わせで体形に合わせて調整するものだったからちょっと新鮮です。
服に合わせて靴と靴下も買ったら、なんと大銀貨が五枚もいなくなってしまった。大銀貨って、一枚が銅貨千枚分ですよ!?
袋物のお兄さんのお父さんとのお取引がなかったら、とてもじゃないけど新品は無理だったね。
同ランクの五倍もするんだもの。後悔はしていないけれど、ビックリした。
「フェリシアは何を着ても可愛いね」
「にぃにはそればっかりだねぇ」
ワンパターンな誉め言葉に呆れつつも、それはそれで嬉しいわたし。
なんにせよ、褒められることはいいことなので。
「この服だと、ハーフアップもいいけど、お団子も可愛い気がする」
「髪型はにぃにに任せるけど、あんまり時間がかからないのにしてね」
「フェリシアはすぐに飽きちゃうからね」
「うにゃ」
あんまり髪型にこだわりがないので任せているのだけれども、にぃには結構な凝り性さん。
きちんとクギを刺しておかないと、いつまでも髪をいじくり回される羽目になるんだよ。
結い終わるのを待ってジッとしてるのも結構大変なので、時短でお願いしたい次第です。……まあ、出来上がりに不満があるわけじゃないからね。ある程度はガマンしているんだよ、これでも。
「ところでフェリシアは、湖に着いたらお魚を買いあさるつもり?」
「うにゃ。あっという間になくなったから、たくさん買わないと」
結局、悩みに悩みぬいた結果、湖から王都に向かい、最終的に海沿いを隣国に抜けるルートで行くことに決めた。
だって、湖に行っても漁業権のある人しかお魚を獲ってはいけないらしいんだもの。海もそのへんは一緒っぽいんだけど――海の方が買える食材が多そうなので、王都に寄った時にマジックバッグ基盤を売り払って資金を稼ぐことを考えると、湖側を先に回ったほうがいいよねってことになったんだよね。
「湖でも【駆け出しマーケット】に露店出す?」
「ん~、現地に着いてから考える」
長居する理由があれば別だけど、無理してお店を出す必要もないかなと思います。一応、情報収集のためにお店を出そうと思ったのがきっかけだからね。
包み焼き屋のおじさんや袋物のお兄さんと仲良くなれたのは、まあ、嬉しい副産物的なものなので。
「にぃにはお店出したい?」
「別に」
「なんか、にぃにの露店って毎回同じ人が買いに来てたよね」
「そうだね。アレ、きちんと研げればDランクまで性能上げられるし」
ソレは、転売目的で買いに来てたってこと?
「え、にぃにはそれで良かったの?」
「フェリシアの横で露店出すのが目的だったから、何の問題もないよ」
仕入れた錆びだらけのナイフやショートソードは、鋳つぶして素材に戻して再利用するらしい。
なんか、インゴットで買うよりも安上がりだとニヤニヤしてる。
にぃに、悪い顔してますよ?
「もう……仕方がないにぃにだね」
「うん。大好きで、食べちゃいたくなるくらい可愛い妹と、合法的に一緒にいられる時間が限られてるって気づいちゃったからね。仕方ないんだよ」
別れを匂わす言い回しに、のどの奥がキュッとなる。
にぃにと一緒にいられるのって、あとどれくらいなんだろう。今日明日ってつもりはないだろうけど――
「湖に着いたら、たくさんたくさん、お魚買わなきゃね。にぃにっ」
いつか来るその日を考えたくなくて、わたしは明るい声を出した。




