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対価は労働

 ズルインズボスは、本来の売値の十倍を提示していたせいで兄貴さんからお叱りの言葉とともに拳骨ひとつおとされた。

そんでもって、なんでそんなことをしてたのか問い詰められて白状したら、さらに怒られてふたつめの拳骨を落とされている。

三つ目の拳骨は、物々交換を言い出したせいだとばかりにわたしを睨み付けたせい。


「だいたい、普通だろ。仲良いヤツと美味いもん分け合うのなんて。図々しいんだよ、お前は」

「でも、目の前で――」

「お前に関係ないヤツがやってることなんて、凝視してんじゃねーよ。キモイな」


 ズルインズボスを軽く小突いてから、わたしに向かって自分と一緒に頭を下げさせる。


「弟弟子が失礼した。妙なイチャモンつけられた挙句に好みに合わないモンを無理して交換する必要もない。あとでまた、改めて言い聞かせます。今日のことはすみませんでした」

「……っした」


 え? どうしたらいいの、コレ。


 うろたえつつロイさんを見上げると、『どうしたい?』と言わんばかりの表情で首を傾げられた。


「ええと……元はと言えば、昨日うかつに周りにおすそ分けしてしまったわたしのせいでもあるので、お気になさらず?」

「お嬢、そこは疑問形じゃなくていい」


 苦笑交じりに頭を撫でられ、お口をへの字でロイさんを見上げる。

そんな、とつぜん大人の人に頭を下げられて、きちんとした返事をするなんて無理筋ですよ。今のだって、結構頑張ったんですよ? 褒めてくれてもいいと思う。


「本人がこう言ってるんで、頭を上げてくれ」


 ロイさんの言葉を受けて、二人の頭が上がる。


「ただ、そっちの坊主だけが物々交換が不成立で約束した果物をもらえないってのは不満だろう」


 うんうんと頷くズルインズボスの肩が軽く叩かれたけど、口を尖らせて不満顔。


「とはいえ、要らないものを押し付けるわけにもな……」

「そこで、だ。今回、物々交換で手に入れた品を運ぶのを手伝ってほしい。労働力の対価にペシェの実を渡すってことでどうだ?」


 ロイさんの言葉に思わず自分の売り場を振り返る。

なんか、言葉を失うほど荷物がどっちゃりと積んであった。一部はマジックバッグに入れてあるけれど、たしかにこれは一人じゃ運べない。


「……アレを、オレだけで?」

「や。当然、俺も一緒。実はどうやって運んだものかと途方に暮れてたんだ」


 明るく笑うロイさんに、ズルインズボスと兄貴さんが顔を引きつらせる。

「何往復必要だ、アレ?」という言葉を聞きながら、そっと袋物のお兄さんから小さな巾着を買い入れた。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 Cランクのマジックバッグ用基板、作り置きしておいて良かった~!


 袋物のお兄さんから買った巾着を大急ぎでマジックバッグに仕立て上げ、物々交換で手に入れた木箱に小物を詰め込んで。一部、入らないものもあったけれど、二人で運べばなんとか一往復で済む形に荷物をまとめることができた。入らなかったものは、丈の長いすだれやゴザなのでそれほど重くはない(ハズ)。


「お~、ずいぶんとコンパクトにまとめられたな」


 ガッツリと目減りした荷物に首を傾げつつもホッとした様子のズルインズボスと、偉い偉いと頭を撫でまわすロイさん。


「ロイ、あんまりフェリシアの頭をグシャグシャにしないで」

「ああ、悪い悪い。とりあえずこいつは宿に運んどくわ、お嬢」

「うにゃ。ロイさんもズルインズボスも、よろしく~」

「なんだそのズルインズボスって!?」

「名前知らないし」


 ついでに覚える必要もないと思っている。


「お前がいない間、オレが店番しとくからさっさと行ってこい」


 兄貴さんにどやされて首をすくめつつ、ズルインズボスはロイさんの後を追いかけて行く。


「兄貴さん、コレどうぞ」


 やれやれと頭を掻きつつズルインズボスの代わりに持ち場に着く兄貴さんに渡すのは、ペシェの実をみっつ。ズルインズボスの労働対価がふたつに、休み時間に店番する羽目になった兄貴さんへのご褒美です。


「……いいのか?」

「うにゃ。もともと、たくさん採れて消費しきれない分なので」


 かくかくしかじかと兄貴さんに物々交換を思いついた経緯を説明すると、彼は難しい顔で黙り込んでしまった。強面系の狼人さんなので、ちょっと怖い。


「タダでくれてやんのは相手のためにならない――か」

「うにゃ」


 実のところ、【お庭】のおかげで十人や二十人なら食べ物を与え続けることは別に苦にならない。

ただね、考えたんですよ。

今、この町でそうすることを、自分の『普通』にしてしまった場合のことを。


 わたしはこの町に定住するわけじゃないから、『もらえることが普通』じゃないかと勘違いさせてしまった相手を置いていく。

そんでもって、きっと、次の場所でも同じことをしちゃうと思う。

そうして生まれた『もらえることが普通』な人たちに誰が与えてくれるのか?

与えてくれる人がいなかったら、『もらえることが普通』な人たちがどうするのか?

想像していったら怖くなってきて。

そんでもって考えたんだよ。

物々交換なら、工程をひとつ飛ばすだけだから多少はマシなんじゃないかって。

【駆け出しマーケット】にいる人たちって、多少貧乏だとしても手仕事の成果を売りに出せるレベルだからね。手仕事の対価として、お金が手に入ったら次の材料か食べ物を買うわけで。

お金の代わりに食べ物が手に入るのは、仕事の対価として妥当かな――とまあ、そんな結論。

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