ずるくないよ
三人そろってお弁当を食べていると、おなかを空かせた駆け出しマーッケッターズ(ほかの露店の子たち)が、「ずるい」を連呼してきた。
「ずるくないよ。自分で手に入れた材料で作ってきたんだもの」
「でもずりぃっ」
昨日、スリーズの実を配ったからね。
きっとわたしのことを、ごねれば食べ物をくれる人認定したっぽいね。
とはいえ、どうみてもわたしより年上なのに、小さい子にたかるだなんて恥ずかしくないのか――なんてことは思っちゃいけない。なんというか、これまで旅しながら見てきた範囲だと、大きな町になればなるほど貧乏人の生活が苦しくなっていくっぽい。
原因は、たぶんだけど町の周囲が安全すぎるからじゃないかと思ってる。
コレは、かかさま情報なんだけど、人族は魔素が濃い場所では生きていけない。
でも、植物や魔獣は魔素が濃いと元気に大きく育つらしい。
なので、町の周りが安全なのは、イコール周囲に魔素が少ないってことになる。そしてそれは、植物の成長速度が遅くなることや、魔獣が大きく育たないことにも繋がっていく。
さらにもうひとつ、生活が苦しい原因なんじゃないかと思うのが、大きな町に住んでいる人はなぜか町の外に出たがらないこと。
不思議なことに、貧乏になればなるほどその傾向が強いんだよね。
お金持ちっぽい人は街道でも見かけるんだけど、護衛の人もたくさん連れている。逆に言えば、身を守る手段を用意できなければ、町の外では命の危険があるってことで――大多数の人は、そんな危険をおかしたいとは思ってないってことっぽい。
ほんのすこし、町を離れるだけでヴェルリーリョみたいな無害な魔草もいるのに……
そして、【駆け出しマーケット】に出店しているのは、【加護の儀】で戦うすべを授からなかった人たちだ。街中よりは食べ物が手に入りやすいとはいえ、危険も大きい町の外に食べ物を探しになんていかないだろう。
「昨日はただ、好意であげたんだよ」
「そんなこと言って、自分たちだけ見せびらかすのかよっ!」
「そうだそうだ!」
「お前らだけずるいだろっ」
「見せびらかしてないよ」
そんでもってかかさまいわく、一度、何の苦労もなく食料を手に入れられたら、『また』を期待する人も多いらしい。
「そう何度も、ご飯をタダで分けてあげるのは無理だよ」
というか、あと五日でこの町を出る予定だからね。
わたしが配る(かもしれない)果物をアテにする人が出てしまうと困ってしまう。しかも、困るのはわたしじゃなくて、餌付けされちゃう人の方なんだと昨日の晩、かかさまから教わった。
「なので、わたし、考えました。物々交換なら問題ないんじゃないかと!」
「……へ?」
いや、だってね。
一番の問題点は、『無料』であるという部分だと思うんですよ。というのも、モノを売ったお金で欲しいものを手に入れるのは普通のことだ。
それならいっそのこと、お金のかわりにモノをもらうんでもいいんじゃないかな……と。
「【駆け出しマーケット】で食品の取り扱いは禁止なので、今からそれぞれの露店を回ります。今日のくだものは、ひとつあたり十ラーメ以上するペシェの実だよ」
露店用のマジックバッグからまん丸で大きな実を取り出して見せる。
なんと、ペシェの実は直径二十センテもあるでっかい木の実。色合いは優し気な薄紅色で、表面はびっしりと柔らかな産毛に覆われていて、とっても触り心地が良い。甘みの強い果実で、切り分けるとふんわり花のような香りがあたりに漂い、それだけでも幸せな気持ちになれてしまう。
ちなみにお値段は、生産地で仕入れた場合のお値段です。
この辺では採れない果物だから、たぶん買おうと思ったら倍はするはず。
目の前に詰めかけてきていた男の子たちは、切る前からわずかながらも感じる甘い香りにゴクリとつばを飲み込んだ。
「え、なんかすごそう?」
「え、店にもどらないと――」
「自分のお店もあるからね。一周しかしませんよ?」
早くしないと、お客さんが来ちゃうからね。
わたしは大慌てで男の子たちが自分の店に戻るのを見届ると、ちょうど様子を見に来たロイさんを引き連れて【駆け出しマーケット】ないを練り歩き始めた。




