人だかり
嵐は突然やってきた。
「嬢ちゃんっ、注文とってきたぞ~!」
嬉しそうな声で駆け寄ってきたのは、言わずと知れた包み焼き屋のおじさんだ。どうやら、昨日の早朝にお願いした宣伝活動がうまくいったみたい。「オレはやったぜ!」と言わんばかりの表情でわたしのところへやってきた。
「さすが顔が広いだけあるねっ、おじさん!」
「そこまででもないけどな」
ははっと照れ笑いとともに、包み焼き屋のおじさんはモジャモジャの頭をポリポリしてる。
「焼き物系をやってる奴らがな、『耐暑』の魔力補充ができるヤツが欲しいそうだ。手拭いがふたつに、ハチマキひとつ。どれくらいで出来る?」
「『充填』チップを作り足す必要があるから、一時間……二時間もらえればイケると思う」
「そんじゃ、そのころにまた来るわ」
包み焼き屋のおじさんはそう言うと、素体用の手拭いとハチマキを置いて急ぎ足で戻っていった。どれも新品なのは、高いお金を払って魔道具化するんだったら少しでも長く使えるものにしたいという気持ちのあらわれなんだろうなと思います。
「おめでとう」
袋物のお兄さんの祝福の声に感謝の言葉を返し、ランチューたちを召喚しなおす。午前と同様、転がりそうになったら支えてくれるようにお願いすると、グッと手を握って笑顔を浮かべるランチューズ。
サムズアップをしたかったの?
親指が独立してないから、ランチューだとできない仕草ですよ?
ちょっぴりツッコミたい気分になったけれど、今はガマン。まずは、充填の魔導チップを作るのが優先です。
並べてある商材を片付けてから材料一式取り出すと、大急ぎで作業に取り掛かった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆
ざわ……ざわざわ……
極度の集中状態で魔導チップを作り終えたわたしの耳に聞こえてきたのは、たくさんの人の気配とざわめき。
「うにゃ……?」
目を瞬き、周りを見回してみるとひどくたくさんの人がわたしを見ていて驚いた。
「にゃにゃ!?」
ビックリしすぎてピョンと飛び上がると、見知らぬ見物客のだれかが拍手をしはじめる。
え、ホントなんなの?
何が起きてんの!?
「ねぇねぇ、今の、なに?」
「なんか光の中にあった模様が石に入ってったけど、何を作ってたんだ?」
「よく分からないけど、さっきのきれいだったわねぇ。もう一度見てみたいわ」
etc etc...
キョロキョロと周りを見回していたら、周囲の人たちが一斉にわたしに向かってしゃべりだす。
もう、この時点でわたしはいろいろといっぱいいっぱい。
どうしたらいいか分からなくって、もう、泣きそう。
「あの、皆さん。落ち着いてください。今、彼女が作っていたのは魔道具の基礎部品です」
そんなわたしに救いの手を差し伸べてくれたのは、袋物のお兄さん。
彼は集まっていた人たちに自分がわかる範囲の説明をして、今日はもう同じ作業をする予定はないと伝えて追い払う。わたしは、にぃににしがみついて震えていることしかできなかった。
「あぁ……やっといなくなったよ」
ふぅ、と溜息を吐きつつ座り込んだ袋物のお兄さんが、いたわるように背中をたたく。
「野次馬が多くてビックリしたよね~。なんか、次から次へと集まってくるからボクもすごく驚いちゃった」
まだ、のどが詰まったようになって声が出ないわたしの頭をポフポフなでる。
「とりあえず、注文の品を仕上げちゃおう? そんでもって、ソレをおじさんに納品したら、今日はお店を早じまいしちゃおう」
袋物のお兄さんが落ち着いた声で話しかけてくれたおかげで、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。それでもまだ、のどの奥が干上がったみたいにヒリヒリするので、お水を飲んで水分補給。のどのヒリヒリが収まったところで大きく深呼吸を何度かしたら、やっと声が出るようになった。
「ありがと、お兄さん。もうへーき……」
なんとか笑顔を作ってそういうと、袋物のお兄さんもホッとしたように笑みを浮かべる。
さっきから、袋物お兄さんにシャーシャーしてるにぃににも注意したいけど、そこまでの元気はまだないな。お兄さんは、わたしの不安を少しでも和らげようとしてくれてるだけなので威嚇はしないでほしいんだけど……
「いいえ、どういたしまして」
この日は、袋物のお兄さんに促されて包み焼き屋のおじさんに頼まれた三つの魔道具を仕上げた後、キッチリ納品してからお宿に帰ることにした。
……明日、どうしよう。
なんだか露店を出すのが怖くなってしまったけれど、明日になればそんな気持ちもなくなるのかな? それともやっぱり、怖いまま?
どうしたら良いのか思いつけなくて、にぃにの腕にしがみついて大きなため息をひとつ吐く。
とりあえず、明日になったら決めればいいよね。
解決できない問題は、明日のわたしに任せよう。そう決めると、ちょっぴり気持ちが軽くなった気がする。




