午前中はヒマすぎる
割り当てられたのは狭くって、ちょっと体格がいい人だと胡坐をかいたら膝がはみ出しそうな場所だった。奥行きも大したことがないし、大きな人だと商品を置く場所にも困りそう。
さすが、【駆け出しマーケット】。
銅貨一枚で出店できるだけのことはあるね。
ちなみに別の場所に大人向けの露店スペースもあるそうなんだけど、そっちは銅貨五枚で横幅が三倍の広さらしい。【駆け出しマーケット】と違って、そちらは売り物の制限はないと受付のおじさんが言っていた。
「あれ、おとといの子かな?」
「うにゃ」
「お隣みたいだし、今日はよろしく」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
なんと、お隣さんは露店のことを教えてくれたお兄さん。
ふたりで頭を下げあってから、お店の準備を始める。
「では、ワシは適当にうろついてくる」
「うにゃ」
露店スペースに落ち着ける場所がないので、ピニャーシュさんは近くをウロウロしながらわたしの様子を見ることにしたらしい。
「……この間も思ったんだけど、もしかしていいところのお嬢さん?」
「そんなことはない……と思うよ」
もともとは村長の娘だったけど、もう村はなくなっちゃったし。村があったときでも、別にお嬢さんなんて言われるような生活はしてなかったと思う。
「ピニャーシュさんはね、にぃに――兄の従者さんなので」
にぃにが過保護なだけだよね。
「お兄さんの従者……?」
「兄は祠巡り中の神官です」
「なるほど。それで順路を決めるための情報を集めてたんだね」
旅する神官は別に珍しくない。特に、にぃにと同じ武神さまの神官さまの場合は結構あちこちうろついてる。【邪神の傷跡】の駆除は、武神さま系の加護者が中心に行ってるからね。
祠巡りに至っては、担当神がいるわけでもないから、神官さまならだれが行ってもいいことだ。そんでもって、そういった旅の神官さまには必ず護衛がつくので、お兄さんも納得したっぽい。
「祠巡りのついでに、美味しいものを食べたり物珍しいものを見れたら楽しいでしょう?」
「たしかに。でも、旅の途中で魔獣に襲われることもあるよね」
「にぃにもロイさんも強いからへーきだよ」
おしゃべりをしながら桶をひっくり返したものの上に皮を敷き、値札とともに商品を並べる。
[魔導チップ
【耐熱】x1【衝撃緩和】x1【耐暑】x1【充填】x2
魔導基盤
二個穴 x2
六三ラーメ
お買い上げ時に素体をお持ちの方には、魔道具化を無償で行います]
ヒガシショユ村では使われてなかったけれど、お金の単位は『ラーメ』というらしい。一銅貨とか大銅貨とかで通じるから知らなかったよ。
一ラーメが一銅貨で、十枚ごとに大銅貨→銀貨→大銀貨→金貨→大金貨と貨幣の種類が変わっていくのは知っていたんだけど。
なにはともあれ、六三ラーメは大銅貨六枚と銅貨三枚分というわけです。
ちなみに、駆け出しマーケットで販売される商品は出店手続きの時にランクの鑑定をされていて、印がつけられている。原価が固定化されている魔道具なんかはこの時点で値段が決まるので、値付けの苦労がないのはラクチンです。
販売開始時間が始まったものの、すぐにお客さんが来るわけではない。
朝一番でお店を始めても、お昼過ぎまで人が来ないことなんてザラだと聞かされてビックリしたよ。それでも早い時間から露店を出すのは、駆け出しマーケット内で人通りが良い場所を割り当ててもらえるかららしい。
「そんなわけで、午前中は持ち込んだ材料で翌日以降の商材を作ったりしてるというわけ」
「なんと……知ってたら素材持ってきたのになぁ」
革細工師見習いのお兄さんが、チクチクしてるのを眺めつつ大きなため息。
そして、視界に入る駆け出しマーケッターのみなさんがモノ作りに励む姿にふかくふか~く納得した。
素材の類は【お庭】の工房に積んであるから、ピニャーシュさんにもってきてもらうわけにもいかないしね。
今日のところは諦めて、明日からヒマな時間に魔導チップづくりに励むことにしようかな。




