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商材づくり

 お約束通り、露店営業の許可を取ってくれたので、翌日の朝から商材作りに取り掛かることにした。


 魔道具作成スキルのランクがまだ低いからね。魔導チップを一つ作るのにも、結構な時間がかかるんですよ。今日のところはうっかり徹夜作業をしないように、ベース素材になるFランクの魔石を用意しておこうかな。



 朝食後、にぃに(・・・)とロイさんが出かけていくのを見送ってから作業にとりかかる。

ピニャーシュさんは、【お庭】の温泉に入ってのんびり過ごすらしい。お昼ご飯は一緒に食べる予定だし、午後からは包み焼き屋のおじさんとの約束がある。なので、午前中は魔導チップをみっつ、午後にふたつ作るのがせいぜいだろう。


「……で、なんの魔導チップを作るかが問題だね」


 なんせ、G・Fランクで刻める刻印はに十種類近くなる。


 Gランクの刻印は、【鋭刃】【貫通】【充填】【重量増加】【耐圧】【耐久性上昇】【衝撃緩和】【防刃】【マテリアル化】の九つ。

 Fランクの刻印は、【耐火】【耐寒】【耐暑】【耐水】【耐熱】【撥水】【防汚】【防臭】【防水】の九つになるからね。


「これから暑くなるから【耐暑】あたりは手堅そうなんだけど……」


 むぅっと口をとがらせ首を傾げる。

悩ましいのは、露店のFランク限定の縛り。

【耐暑】を単品で使った場合、Fランクだと一ヶ月程度しか効果が保たないんですよ。


 魔道具って、そもそもが高級品。

ちゃんとしたお店に並ばないというFランク以下のものでも、銀貨が何枚も飛んでいく。

 銀貨って、アレですよ?

おにぎりが百個は買えちゃう高額貨幣。

とてもじゃないけど、一ヶ月の快適さのためになんて使う気になれない金額です。せめてCランクの魔導チップなら、一番暑い三ヶ月を余裕で過ごせるんだけど……


「賑やかしを兼ねて、魔導基盤も置こうかな……?」


 魔力を補充しながら使えるタイプの魔道具にしてしまえば、初期費用はかかるけれど長く使うことができる。魔力を補充するためには、ふたつの魔導チップをセットする魔導基盤が必要になってしまう。

イコール、さらにお金がかかってしまうという……なんというか、本末転倒? みたいな。

 でもまあアレだ。

たとえ三倍の値段になったとしても、何年ものあいだ使いまわせるならそのほうがお買い得だよね。なので、コレでイイのだ。


 なんにせよ魔導基盤を用意するんだから、【充填】の魔導チップをふたつ用意するのはは確定です。

残りみっつは――【耐熱】【耐暑】【衝撃緩和】……かな?


 【耐熱】はかかさま(魔人様)いわく、火を使うお仕事の人に便利な刻印らしい。

鍛冶師さんとか、料理人さんとか?


 続いて【衝撃緩和】。

この刻印は、衝撃を吸収or緩和してくれる。

魔獣の体当たりはもちろんのこと、靴に使えば長距離を歩いても足への負担を軽減できるというスグレモノ。もちろん、鞍に付けるのもアリだね!


 【耐暑】は、着用者にとって『ちょっと暑いかな』という程度まで体感温度を下げてくれる刻印。【耐寒】という、逆の効果をもたらす刻印もある。


 このみっつは、売れ残っても自分で使えば良さそうだから作ってみようと思います。



 そんなわけで早速、気合を入れてお気に入りの大きなクッションにペタンと座りこむ。疲れたらコロンと転がれるからね、お布団代わりにもなる厚手のクッションですよ。

それから昨日のうちに用意しておいたFランクの魔石を右手に引き寄せ、正面に置いた同ランクの魔導インクのツボからスポイトで一メモリ分を吸い上げて取り皿に載せたら準備は完了です。


 まずは、取り皿の上部を魔力の膜で包み込み、魔導インクをその中へと吸い上げる。

マナラップの要領だから、もう慣れたものです。

この部分は素早く行わなくちゃいけない。なにせグズグズしていると、魔導インクに含まれている魔素があっという間に拡散してしまうからね。スピード、大事。

 逆に言えば、ここで素早くロスを最小限に抑えることができれば魔導チップに刻むための刻印を作るための時間はたっぷり取れる。もちろん、魔力の膜を維持しつつ刻印を形作るための魔力が尽きなければの話なんだけど。

膜の内側にあってすら、魔導インクはすぐに薄く広がろうとするからね。

形を作るはしから拡散していこうとするのを防ぎつつ完成させていく――コレが案外難しいのですよ。


 魔導インクを大まかなパーツに切り分け、それぞれの形を少しずつ整え、魔力濃度を均質化し終えるまでに結構な時間が掛かった。

一つ完成させて魔石に刻み終えただけで、もう、精神的にはクッタクタ!

おっきく息を吐き出しながら後ろに倒れ込む。


「トリーのエールが恋しいなぁ……」


 ヒガシショユ村に居た頃よりも大分、作業に集中できるようになったはずなのだけれども、たまに彼女のことが恋しくなる。

なんというか、すごく絶妙なタイミングで声掛けをしてくれるんだよね。トリーってば。

魔石作りを始めたばかりの時は、ソレにものすごく助けられた。


「……さて、続きを作ろうっと」


 一人でも根気のいる作業はできるようになったんだけど、なんかねやっぱり、ちょっと人恋しくなってしまうんですよ。性格的に甘ったれなんだろうなぁ……しっかりせねば。

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