包み焼きと高原情報
なにはともあれ、ピニャーシュさんに情報収集するように言われたわたしは、食後の腹ごなしを兼ねて屋台広場をぶらつくことにしたんだよね。
にぃにたちは別の場所に行ったみたいで、すでに姿は見えなくなっていたから手近なところで聞けそうなのがありがたい。だって、同じ場所で話を聞いても仕方がないもの。
っていうか、にぃにはきっと、趣味と実益を兼ねて、武具屋とかを回ることにしたんじゃないかな。
ピニャーシュさんを背後に従え屋台を覗いて回ると、ちょうど朝のピークタイムも終了したみたい。売り子仕事はそっちのけで、昼の販売にに向け下ごしらえを始めている屋台がチラホラリ。
下ごしらえに勤しむおっちゃんたちを眺めて、『串に刺すのはああやると良いのか』とか『アレはああやって使うものなのか』などと参考になりそうなものを頭に刻んでいく。
にぃにとロイさんは、ふたりとも串焼きスキー。だけど、ひとつひとつ串に刺していくのはけっこう大変なんだよね。効率的なやり方っぽく見えたから、今度わたしもやってみようっと。
そうやって下ごしらえしている屋台を覗いて歩いているうちに、にぃにお気に入りの包み焼き屋さんを発見!
ちょうどいいことに、包み焼き屋さんも下ごしらえの真っ最中。
にぃにに再現を希望されていることなので、ありがたく調理手順(といっても肉餡は調合済みだ)を見学させてもらうことにする。
「うにゃ……」
ゆるっとした生地で肉餡を包んでいく頭モファモファなおじさんの手の動きはとても素早くて、見ているだけではどうやっているのか全然わからない。
とりあえず分かったのは、毎回、生地が手にくっつかないように油をつけること。それから、生地の上に乗っける肉餡の量が思いの外多いことくらい。
どうしてあの量の肉餡が、ちょびっとしか大きさの変わらない生地に包みこまれるのか……??? 本気で謎すぎる。
こう?
こうかな?
こんなかんじならイケるかも??
おじさんをマネして手を動かすけれど、どうやってもキチンと包めている想像ができない。
「うにゃにゃ……???」
頭にいっぱい疑問符浮かべつつエア包みチャレンジを続けていたら、屋台のおじさんがやり方を教えてくれることになったのです。『なんて親切なおじさん!』と感動してたら、習うのに使った材料分の代金をお支払いするという条件付きだった。
いや、いいんだけどね。
どうせ作ったら作っただけ、にぃにとロイさんが食べちゃうんだもの。
そもそもが、技術的なことを教えてもらえるにしては格安……なような気がするし。
「そうそう、そんな感じだ。筋が良いな。あといくつか包めばコツが掴めるだろう」
「にゃにゃ~♪」
モファモファおじさんにおだてられ、嬉しさのあまりついつい|にゃーにゃー言ってしまう《幼児語が……》。
コレ、にぃにたちに再会してから復活してしまったんだけど……悪い癖だから直さないとなんだよね。もう、十歳のお姉さんになったというのに、幼児語が出ちゃうなんてみっともなさすぎだもの。
ただにぃには、離れていたあいだの時間を埋められてるみたいでむしろうれしいっぽい。
見た目……というか、身長も百センテちょっとだからね。にぃにと別れた四歳の時から身長差が変わってないから、余計にそう感じるんだと思う。
どうにかチビを直したい所存です。
そんなわけで、本当ならよそ様の前でくらいは幼児語出ちゃうのは隠したいんだけど、このおじさん。どうもちびっこ大好き症候群を罹患なさっているようで、こどもっぽい言い回しで訊ねるとあからさまに口が軽くなる。むしろ、お姉さん言葉だと寡黙なおじさんに変身しちゃうので幼児言葉を使わないと会話が続かないんだよね……
とりあえず、包み焼き屋のおじさんからは高原地帯の情報をいろいろと教えてもらった。
高原地帯に多く出没する魔獣は、ネズミ系とオオカミ系、それからヒツジ系の三種類。鳥系が現れることもあるけれど頻度は低くなるっぽい。
背の高い樹木があまりない代わりに、わたしの背を越える高さの草がボーボーだから、絶対に大人から離れちゃダメだと注意もされた。見通しのきかない草むらで野獣に襲われるのも危険だけど、見えない段差も危ないからね。
草原を移動するあいだは、ミルギューから絶対降りませんっ!
だだっ広い草原をひたすら東に向かっていくと、だんだんと草丈が低くまばらになっていき、行く手に岩山がみえはじめたら王都まであと少しなんだって。
「――東に行くなら山超えするよりも北か南に逸れるほうが楽だし、街道もその二方向にしか伸びてない」
「そっかぁ」
「んでもって、北の湖ルートにしても南の海ルートにしても、この町からなら直接向かうほうが早いな」
「ということは、王都に用事がないなら北と南のどっちに行くかを考えて動かないとなんだねぇ」
「そういうことだな。ただ、俺は高原から出たことがないからどっちがいいかはちょっと分からん」
どうやら包み焼き屋のおじさんが詳しいのはこの町から王都に向かう街道の一部だけで、北の湖方面とか南の海側はさっぱり分からないっぽい。
というか、南に行くと海があるんだよね?
なんだか、新しい食材(主にお魚)の匂いがプンプンしますよ。その情報が聞けただけでもわたし的には嬉しい限りです。
「あにゃにゃ。そっか、残念」
「や。俺には分からんが、他の街から来た奴らもいるからそいつらから聞くといい。紹介しちゃる」
そもそも屋台のおじさんは高原のことには詳しかったから、結構いろいろとお話が聞けている。北と南の情報は他の人に当たってみようと思っていたら、ありがたいことに知っていそうな人を紹介してくれることになった。
「え、ほんとに? すごく助かるっ」
「いやいや。それほどでも……あるな」
「うにゃうにゃ。おっちゃん、頼りになるね」
渾身の笑顔を向けると、おじさん、めっちゃ溶け崩れた。
超・顔面崩壊ですよ。
内心、ドン引きです。
ちょっと離れたところから様子をみていたピニャーシュさんも、顔がめっちゃひきつってる。
ご近所の屋台のおじさんたちは華麗にスルーだね。もしかしたら、包み焼き屋のおじさんが可愛いものスキーなのは有名なのかもしれない。




