いつの間にやら移動中
わたし、思っていたよりずっと気を張って、疲れてたらしい。
にぃににしがみついて、泣いて泣いて泣きまくった挙句、力尽きてぱったりと寝落ちたみたいなのだ。
たしかにね、ギャン泣きした記憶はある。
あるんだけど……まさか目が覚めたら、オトンのマジックバックに詰め込まれているなんて思いもしないよね?
絵面的にあんまりな状態に戸惑いつつ周囲を見回すと、にぃにとバッチリ目があった。
「あ、フェリシア。目が覚めたね」
「うにゃ」
「おはよう」
「……おはよう?」
周囲の景色が動いてるから、移動中なのは間違いない。でも、わたしの記憶にあるのと大して変わらない時間帯のような気がするんだけど……?
変だなと思いながらお空を見上げる。
うん、やっぱり夕方近い時間帯だね。
変だなと思いつつ首をかしげてもう一つ。
わたしを運んでいるでっかい獅子人さんはどちらさま? と反対側に首を傾げた。
そうして自分じゃ解けないナゾごとにクエスチョンマークを飛ばしまくってたら、にぃにが驚きの事実を口にする。
「あれから丸一日眠ったままだったんだよ」
「え、ウソ」
「ほんとだってば。すごく疲れてたんだね、フェリシア」
……そういや、オトンとオカンが倒れてから、あんまり寝れてなかったかも。
だって、心配だったんだもん。
「ピニャーシュ、ロイ。フェリシアも起きたことだし、今日の移動はここまでにしよう」
記憶と変わらない時間帯の謎は解けた。
「では、周囲の小物を始末して参る」
「りょーかいっ」
ふたりはそう応じると、サッと木々の間に紛れるように消えていく。
わたしとにぃには置き去りだ。
なんか、リュックごとにぃにに渡されたのは荷物扱いされたみたいですごく微妙な気持ちになった。
わたし猫人、モノじゃない。的な。
「フェリシアは――先に鍛冶場に入っとく?」
「うにに?」
言われている意味が分からなくって首を傾げる。
今いる場所は人里離れた森の中。鍛冶場なんてあるわけもない。
周囲を見回し、『何言ってんだコイツ』的な顔でにぃにを見上げると、変な顔をしてわたしのことを見つめてる。
「どしたの、にぃに?」
「いや……『女』って生物も、『妹』だと可愛く見えるんだなってビックリしてた」
そう言って、にぃには頬を赤らめつつ口元を隠してそっぽを向く。
「にぃに、ソレは間違い」
「?」
「『妹』だから可愛く見えるんじゃなくて、わたしがメチャクチャ可愛いだけだからねっ」
ただの事実ですよ、事実!
胸を張ってフンスと息を吐く。
今はちょっぴり薄汚れちゃぁいるけれど、オカン譲りのこの淡い茶色のふんわりと波打つ長い髪に、まつげの長ぁい若草色のお目々! 猫人にしてはタレ気味なのがチャームポイントだ。
それにほっぺは柔らかぷにぷにのサラッサラだし、唇だってぷっくり可愛いピンク色と非の打ち所がない(らしい)。
あ、コレはみんなオトンの受け売りね。
水鏡じゃ、そんなに細かいとこまで見えないんだよ。
なにはともあれ、自信満々で目を閉じ、にぃにが頭を撫でてくれるのを待っていたのに、にぃにったらひどいんだよ。ナデナデ待ちのわたしの姿を笑うんだからっ!
「あははっ」
吹き出したと思ったら、大爆笑だ。
ひどいっ! ひどすぎるっ!!
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笑いの発作がおさまると、にぃにはわたしを『鍛冶場』へ案内してくれた。
近くの木の幹ににぃにが手を触れたら、真っ黒な渦が現れたからビックリしたよ。にぃにいわく、ごく一部の加護者はにだけ与えられたスキルの追加効果らしい。
神様って、案外えこひいきが激しいのかも。
全員にくれないってことは、お気に入り特典だってことだよね?
案内された鍛冶場は、ハズレ村にあった鍛冶屋さんの敷地よりもだいぶ大きなものだった。
修練場と言う名の固く踏み固められた広い前庭の奥には祠があって、修練場とお社をあわせたのと同じくらいの大きさの建屋がある。
正直、ハズレ村で一番大きかった小神殿よりも大きいんじゃなかな。
「この国の大神殿って、ひどい場所でさ」
建屋に向かいつつ、にぃにが話し始める。
「うにゃにゃ?」
「管理を簡単にするために、神殿側は加護者が自らの技を磨く機会を奪うようになっていたんだ」
【加護の儀】では、どんな人でもひとつ~みっつ位のスキルを授かる。授かったスキルの適正はピンからキリまであるそうだけど、それでも無才よりずっとマシだと聞いている。
たいがいの子は親の仕事を手伝っているから、親と同じスキルを。たまーに、まるで触れたことのない知識を得ることもあって、その場合は適正がとても高くなる。
【加護の儀】をうけた中でも、にぃにのように特にお気に入りと認められた人は、本来授かる予定だったものの他に特別な加護を授けてくれた神様絡みのスキルを高い適性で与えられる。
有名どころで言えば、魔神様の【全魔法】とか武神様の【武術】。理神様の【全知】とか森羅神様の場合は【農耕】【芸術】【創作】あたりだね。
「僕も、せっかく武神様から武術と鍛冶の才を賜ったのに、ソレを磨くことを禁じられててね」
「それを見かねた武神様から、ここを賜った……と」
「……理解が早すぎない?」
「話の流れでなんとなく」
――あと、神様の立場になって考えると、そうかなーって。
せっかくあげた才能を、本人の意志じゃないのに磨けないなんて悔しいよね。
「今となってはありがたいことなんだけどね」
鍛冶場を賜るまでは不満タラタラだったと言って、にぃには笑う。
「ちょっとした縛りはあるものの、どこでも使える安全な隠れ家をもらったようなものだから」
……なるほど。
いくら村が焼け落ちてしまっているとはいえ(わたしがやりました)、わたしが目を覚ますのを待たずに移動中&人里に向かっている様子じゃないのは不自然だと思ってたけど――
「にぃには、大神殿から脱走してきたんだね」
「っ!! なんで、急にそんな話になるの!?」
「今聞いた大神殿の環境が本当なら当然だと思うけど、正々堂々と里帰りしてきたんだったら他の村なり街なりにお泊りするはずでしょう。ハズレ村よりも森の深い場所を歩いてるのは変だなーって思ってたんだよ」
「なんてこと……僕の妹ってば、察しが良すぎる……!」
きっと、里帰り云々の話は口先三寸でごまかせると思ってたんだね。にぃには額に手を当て、困り顔でわたしのことを見つめてる。
ちびっこいから勘違いされがちだけど、わたし、年相応には賢いんですよ?
「ピニャーシュさんとロイさんが戻ってきたら、詳しい事情を話してね。にぃに」
「ハイ……」
にっこり笑って釘を刺すと、にぃにはガックリとうなだれた。
あ、あと。ロイさんとか言う獅子人さんのことも説明してほしい。モファッとした濃い色のたてがみの男性にしては可愛い系な、クマのにぃにと同年代(20歳位)だってことしか見た目じゃわからないので。




