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コシコフ高原入口

 春が来る少し前、わたしたちはヒガシショユ村を後にした。

仲良しになったトリーと別れるのは辛かったけれど、彼女は春になったら大神殿からのお迎えがくる。そこで加護者としての役割や、振る舞いを学ぶのだ。いわゆる巫女修行ってやつだね。


 わたしも一緒に行ってみたかったけれど、ピニャーシュさんを故郷に送り届けなきゃいけないからね。にぃに(・・・)もあんまりいい顔をしなかったので、涙をのんで我慢我慢……

オトンが学んでいた大神殿の様子を見て、良さそうだったらそこで学べばいいと言われて諦めた。

そんなわけでわたしの巫女修行は、やっぱりピニャーシュさんの故郷でってことになりそう。



 ちなみに旅程は、街道沿いにポツリポツリと点在する(ほこら)を巡るというのんびりしたものだった。


 祠は町や村をつなぐ道に森の木が進出してこないように防ぎつつ、魔獣が近寄らない安全地帯を確保するために建立されたもののこと。これは、神官や巫女にならなかった加護者の仕事の一種であるらしい。

人通りの多い主街道ではほとんど見ないものだけど、小さな村に行く途中の細道にはそこそこの数がある。


 今回は遭遇しなかったけれど、使われなくなった道沿いにあるような場所にある祠が犯罪者のねぐらになっていることもあるんだとか。犯罪者が祠で暮らすだなんて不敬がすぎるっ。


 祠巡りは、ただただ道中の祠に立ち寄りながらお掃除や補修作業を行い、祀られている神さまにお祈りと供物を捧げるだけのもの。

言葉にするとソレだけだったんだけれど、祠って、思っていた以上に数が多い。

人通りが多い街道沿いだと、お掃除している祠から次の祠が見えるなんてこともザラだったよ。なので、お隣のバッジ王国に移動するまでに二ヶ月近くもかかってしまった。

騎獣に乗って移動していれば一週間もかからない距離なのに、六倍も時間がかかったんだからびっくりだよね。


 ……いや、この旅程は目的地にしているトニエ神国の神都につくまで続けるんだけどさ。

とはいえ、時間がかかるのが当然の旅路のお陰でフォレチェルで駆け抜けるハメにならなかったのは、わたしにとってのラッキーなこと。わたし、フォレチェルに走られると酔うんだもの。ミルギューの、のんびりゆっくりな歩調が一番です。


「フェリシア、湖っ! おっきい湖が見えるよ!!」


 ここ数日、ずっと続いていたゆるい上り坂を登りきった先でにぃに(・・・)の歓声が上がる。


「湖って、秋の終わりにお魚捕ったヤツだよね?」

「黙っておったが、アレは湖に流れ込んでいる川じゃ」

「……ナント」


 紅葉を眺めながら楽しんだ魚捕り(ワナを投げ入れただけとも言う)を思い出しつつ問いかけると、ピニャーシュさんから思わぬ情報が飛び出した。

 にぃに(・・・)とわたしが湖だと思い込んでいたアレは、どうやら向こう岸が見えないくらいに幅が広い川だったらしい。

 わたし、川も見たことがなかったんだけど、もっとこう……幅が狭いものだと思っていたよ。とりあえず、イメージ的にはわたしのミルギュー(体長5メータ)と一頭分から四頭分(20メータ)くらい。ソレ以上の長さになると、ちょっと身近になくて想像がつかないだけとも言う。


「やっとコシコフ高原じゃな」

「うにゃ」


 のんびりとした歩調で歩くミルギューが坂を登りきると、鮮やかな若草色と空の色を写し取ったような大きな湖が目に飛び込んできた。


「おおお……」


 なんかね、言葉もないってこういうことなのかな?

言葉を尽くすことで表現できなくなる、そんな大自然の『美』がそこにあった。

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