変わらぬ日常と白昼夢
国境の町で革細工を細々と売って暮らす、小さな商家に僕は生まれた。
加護の儀で革細工スキルを授かり、手に職を持てたのはありがたかったけれど、ほかのスキルを授かれなかったのがちょっぴり不満ではある。
いや、ほら、アレだ。
補助スキルとか、料理スキルとか? そういったものが授かっててもいいと思うんだ。なにせ、日常的に食事の用意はしているんだから。
その上、魔法も風属性でランクG。
一応は使えるけれど、火を熾す補助と、部屋の空気をかき混ぜるていどのことしかできないから飯のタネにするのは無理筋というこの悲しさ。
まあ、嘆いてもどうしようもないのは分かっているんだけどさ。
「それじゃ、父さん。行ってくる」
「おう、今日も頼む」
十歳で加護の儀を受けてから、朝一番に露店を出しに行くのが日課になった。
ウチの町では【駆け出しマーケット】といって、新人職人や職人見習いが作る、店で販売できない不出来な品を売るための場を格安で貸してくれる。
パンを一個買える程度の金額で店が出せるなんて、すんげー破格。安すぎる。
駆け出しマーケットの入り口で、世話役のおっちゃんに金を払って割り当てられたスペースに売り物をさっさとならべていく。ここ三年、毎日決まった時間に露店を出しにきているからすっかり顔パスでイケるから出店手続きはラクチンだ。
まあ……毎日、品物を並べなおさなきゃいけないのが面倒だけど。
「お、坊主。今日もやってんな」
「こんにちは、ゲイツさん」
羊人のゲイツさんは、定期的に駆け出しマーケットに顔を出す常連さんだ。
きっと、猫人の子供が好きなんだと思う。
ちょこちょこ顔を出しては、自分とこの売り物のミョモのおすそ分けをくれたり、何かしら買ってくれたりするありがたいお客さんだから気にならないけど。
今日も、弟が作り散らした袋をひとつご購入。
「いつも、ありがとうございます」
「お互い様さ」
「そんな。ゲイツさんにはもらってばっかりですよ」
「そうかぁ?」
いやいや、ホントに。
ウチからは対価なしになにかしてあげたことがないから、ちょっと申し訳なさを感じる。
「そういや、弟君はそろそろ加護の儀だったか?」
「ですね~。再来月なので、必死にあれこれ挑戦してますよ。『革細工以外のスキルが授かるかも』なんて言って」
「ああ、そういうウワサもあるな~」
ゲイツさんが笑う。僕も笑った。
『日常的に行っている行動がスキルにつながる』なんて今は信じていないけれど、弟はまだ信じているみたいなのだ。三年ちょい前の自分を見ているようで、こっぱずかしい気分になる。
よくよく考えてみれば、そんな簡単にスキルを得られるワケがない。日常的に行っているだけで習得できるなら、世の中はきっと、料理スキル持ちであふれているだろう。洗濯とか掃除もスキル化できそうだけど、そういったスキルを習得している人は多くない。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ゲイツさんが帰っていったあともポツリポツリと訪れるお客さんの相手をしたり、隣のスペースに陣取ったお仲間と雑談しながら夕方近くまで過ごす。雑談中には自身のスキルやステータス上げ作業もできるので、案外貴重な時間だったりもする。
実のところスキルランクはもう上がらない可能性があるから、良い品を作るためにはステータスを上げなきゃいけない。
だけど、このステータスってやつがまた、上がりづらいんだよねぇ……
気晴らしに駄弁りながら頑張っているけれど、ぜんぜん上がる気配がないのが嫌になる。
「おにーさん、手に取って見てもい~い?」
声をかけてきたのは、弟よりもいくつか下の年頃に見える同種の少女。
……え。なにこの子。めっちゃ可愛いんだけど。
毛色は薄茶で、淡いモスグリーンの大きな瞳に虹色の光が浮かんでは消えていく。
なんというか、神秘的?
頭の中はパニック状態だったけれど、口はいつものように勝手に商品を薦めだす。
僕、すごいんじゃない? 半自動販売人的なスキルでも芽生えちゃったかな。(ナゾ)
彼女の質問に答えつつも、頭の中は『え、めっちゃ可愛い』とか『これがガンプクってやつ?』とかどうでもいいことで埋め尽くされてて――ハタと気付いたら、彼女はいくつかの商品を購入して目の前から去っていた。
……あ、きっと今の、白昼夢。
そう結論付けて、慌てて店じまいをすると家路を急いだ。
早く帰らないと、弟の独創的すぎるメシを食わされる羽目になる。それだけは、何とか避けなくちゃ!




