激オコぷんすかぷん
ところで、悲しい事件があった。
わたしが長い夢を見ている間に、トリーの【加護の儀】が終わってしまっていたのだ。
「――で、今はやっと帰ってきたお兄さんの引っ付き虫になっているというわけね」
「うにゃ」
ちなみに、お店をやってる時間帯はトリーのお家で面倒を見てもらった日もあるそうで(夢じゃなかった)――やっとにぃにが帰ってきたという話を聞きつけて様子を見に来てくれたっぽい。
重ね重ね申し訳ない次第です。
「そちらのご家族にもご迷惑をかけてしまったようで、申し訳ありません」
にぃにが流れるように土下座する。
わたしは、張り付いている背中から落ちないように、慌てて足に力を入れた。前方に向かって傾いでいるから、ズルズルと床に落ちてしまいそう。
ふんばれ、わたし。
「ほんとよね。よりにもよって魔獣領域に自衛手段に乏しい妹を置き去りにするなんて恥じよ、恥! ただでさえちんまり細っこいフェリシアが、さらに縮んじゃったじゃない。もう少し帰りが遅れたら、死んでるわよ? ちゃんと分かってる?」
「はい、言葉もありません……」
トリーは、怒涛のようににぃにがやらかした、わたしへの配慮にかけた行動の数々を指摘していく。
にぃにはにぃにで、そのひとつひとつに謝罪の言葉とともに改善方針をあげている。謝罪の言葉を口にするたびに上下する視界が気持ち悪くなってきて、わたしはにぃに背中からソロリと降りた。とりあえず、トリーがいるうちはにぃにが消えてしまうことはなさそうなので。
……でも、視界にはいれとこう。
やっぱり、まだ不安だし。
床の上で土下座を続けるにぃにを視界に収めつつ、テーブルの上からすっかり冷めてしまったホットミルクの入ったカップを手に取り一口舐める。
二晩経ったからね。
少しはわたしも精神的に落ち着いてきて、視界ににぃにが入っていれば錯乱しなくなってきましたよ。おトイレの時ににぃにの尻尾が必要なのは変わらないので、もうちょいガマンしてもらいます。
ところで、わたしたちがこんな時期に宿を求めてやってきた理由を、トリーにはかなり端折って話したことがある。
村が原因不明の熱病が流行したことによって全滅したこと。
にぃにとは五年も離れて暮らしていたこと。
ピニャーシュさんもお年なので、祖国に帰りたがっていること。
話したのはこのみっつだけ。
「トリーが、話していない詳細部分を割と正確に把握してることに、驚きを隠せません……」
なんかね、話した以上に事情に詳しいんだよ、トリーってば。
にぃにがブラン王国の神殿にいたことなんて話したこともないのにね。不思議不思議、とっても不思議~!
「この村にはヌンツィオさまが居られるからの……。詳細に説明せんでも、グラ坊と面識があることを隠していない以上、推測するのはそう難しく有るまい」
「そっか」
なるほど。ヌンツィオさんがどの程度、自分の事情を話したかは知らない。
でも、『ブラン王国、加護者の扱いやばいらしいぜ』くらいは村の人が聞いてるのかも。ヌンツィオさんが話さなくても親兄弟が一緒なんだし、ご家族経由で予定よりも多く情報が流れてる可能性はある。
んでもって、にぃにとヌンツィオさんの出身地が離れている以上、『お世話になった』場所というのは神殿に限定される……と。
それはさておき、第三者の口から改めて語られてみると、なるほど納得。
わたしの心の動きがよく分かる。
わたし、にぃにと再会したときに、『まだ、生きてる家族が居た!』とすごく嬉しくなって、にぃにからも歩み寄ってくれることで『ひとりじゃないんだ』と安心しかけていたわけだ。
ところがそこにきて、日帰りしてくるはずのにぃにが、想定以上に危険だとされてる場所に行ってしまったことにより錯乱状態になったんだね。
『にぃにまで死んじゃうかもしれない』という可能性が、その引き金だ。
実際、【邪神の傷跡】に入った後は経過報告のひとつもなかったし、ヒガシショユ村に帰ってきたときには完全に死んだと思ってたからね。
ちなみに、【邪神の傷跡】についてわたしがパニクった原因は今は亡きオトンのせい。
だいぶ昔にあった邪神戦争のころのお話を、盛りに盛って実体験として語っていたらしいことがピニャーシュさんの口から判明している。
なんて見栄を張ってくれたんだ、オトン。
……と、ソレは置いとこう。
「なるほど、わたし『上げて落とされた』状態で錯乱状態になったんだねぇ……」
そもそも、にぃにとわたしの間の信頼関係自体が構築途中だと思われるので、その状態でいきなり土台を外されたら――まあ、錯乱状態になったのも仕方がない状態だったのかな、と。
にぃにが【邪神の傷跡】に入ったことが加護者として仕方がないのとはまた別で、成人前の子供としてはふつうの反応なのかなと思います。
「ところでにぃに」
「はい、なんでしょう?」
にぃにのお返事がちょっと変だけど、面倒だから突っ込むのをやめて要件を続ける。
「わたし、今回手に入れてきたアクセサリーも、メダルを溶かして作ったおナベも要りません」
「えええ……」
「『えええ』じゃないわよ。今回の元凶になったモノを使いたくないのは当然でしょ」
にぃにはショックを受けてたけど、コレはトリーの言う通り。
どんなに可愛いアクセでも、今回のことを思い起こす羽目になりそうなだからね。
絶対拒否の構えです。




