そうして時を忘れた ―SIDE にぃに―
期待に胸を弾ませながら踏み込んだ【蛇神の傷跡】は、ひどく拍子抜けする場所だった。
地面を適当に掘りぬいただけの、デコボコとしたトンネル。時折出現する魔獣は、邪神の力に侵され邪獣になったせいで少しだけ歪な見た目に変わっているものの、特に強さに変化もない。
「ちょっと、邪獣、弱すぎない?」
口をとがらせ文句を言うと、後ろからは苦笑する気配。
「入ってすぐに強すぎるのがいたら、洗脳アイテムを持ち帰ってもらえないだろ」
「たしかに! ソレは言えるかも」
ここで手に入るアイテムは、邪神寄りの思考を植え付ける呪いが付与されたものばかり。
邪神側からすると、傷跡内の浅い場所にいる邪獣はサクサク倒してもらって物品変化したアイテムをたくさん持ち帰ってもらいたいと言うのも納得できる。
ちなみに、一体の邪獣から手に入るアイテムは今のところ、最大でふたつ。
一体にひとつのアイテムというイメージだったから、複数手に入ることがあるのはちょっと驚いた。
必ず手に入るのは、金属製のメダルだ。
金属の種類は鉄か銅合金で、もれなく邪神の思念に汚染されていて禍々しさを感じる。ロイの目にはふつうに見えるらしいので、この禍々しさは加護者でないとわからないのかも。
ちょっと凝ったデザインだから、このまま売りに出す人もいそうだと思わなくもない。
「メダルが必ず手に入るのはちょっと嬉しいなぁ」
「ああ、ちょっとかっこいいのも混ざってるからか?」
「いや、外でも使える調理器具を作るのにちょうどいいなと思って」
「坊っちゃん、もう、ナベ屋にでもなったらいいんじゃないか?」
「ナベ屋にはなりません」
フェリシアが【お庭】以外で料理できないのは、結構不便なんじゃないかと思ってるだけだし。
【お庭】の調理器具は、僕の【鍛冶場】にある材料で作ったモノは、あくまでも賜ったスキルを磨くために武神さまからお借りしているもので作っている。そのため、|【鍛冶場】と【お庭】《改造されたスキルフィールド》の外に出すことができない。
これでは普段使いするのに、ちょっと難があり過ぎる。
外から持ち込んだ素材で作れば持ち出せるから、鉄や銅を入手する方法を考えていたところなのだ。
せっかくの機会だし、ここである程度の量を手に入れてしまいたいところだね。
「で、だ。坊っちゃん、物品変化も見たことだしそろそろ――」
「ちょっと蹴飛ばしただけでやっつけられる相手しかでないんだよ? せめてもう少し手応えのある相手がでてこないと、実践練習にならないじゃない」
「いや、それもそうだが――」
「あ、またランチュー発見!」
チョロチョロと現れた町中サイズのランチューを蹴り飛ばしてサクッとアイテムに変えると、今回は小さな宝石のあしらわれた髪留めがメダルとともに現れた。
「あ、コレ。フェリシアに似合いそう!」
鼻歌交じりに髪留めとメダルを回収したところで、次の獲物を発見!
「あ~……ダメだこりゃ」
やたらと妹に似合いそうなアクセサリーが出てくるせいで妙にテンションが上がってしまった僕には、ロイが死んだ魚のような目で呟く声は届かなかった。
☆★☆★☆★☆★
第一層は、Hランクの小動物系の邪獣が一匹づつ
第二層は、一層と同ランクの邪獣が二匹セットで
第三層になると、一層と同ランクの邪獣が二~十二匹ご登場
Hランクなんて剣を抜く必要もなく、軽く蹴り上げるだけでなんとでもなるから気にもならなかった。そのまま更に階層を下ってしまったのは――うん。物欲に負けたんだね、単純に。
邪獣が物品変化して手に入る一枚五グランのメダルと、子供向けなデザインの装飾品だ。
どれも鉄か銅で出来ていて、趣味に合わないと言われたら鋳溶かせば他のものを作る素材に出来る。工房に所属していないことを理由に金属素材が売ってもらえなかった僕にとって、必ず手に入るメダルがすごく魅力的だったんだよ。
第四層で、邪獣のランクがG相当に上がったけれど、やっぱりこの程度だと武器は不要。
ここにきて、手に入る装飾品に変化があった。
指輪や髪留めといった金属部分が少ないものから、かならずチェーンが付属しているネックレスが手に入るようになったんだ。チェーンの分も含めると、金属素材が一割増。数字で見ると大したことはないけれど、ここでまた、少しテンションが上がった。
第六層までの間はGランクの邪獣の出現数が変化するだけで、三層ごとに邪獣のランクが上がっていく。邪獣のランクが上がるごとに、手に入るアイテムの金属パーツの量が増えていくのがなによりも嬉しい。
あ、フェリシアにあげられる装飾品の種類が増えるのも当然嬉しかったよ?
ロイに言われて休憩をとりつつ進むこと、第一五層。Dランクの邪獣が現れたところで、ふと、我に返る。
「あれ……? 今、何日目……?」
『良かった……! グラジオラス、やっと正気に戻ったね』
真っ先に聞こえたのは、武神さまの声。
ホッとした声の響きと口にされた内容から、なんらかの状態異常に侵されていたことに気がついた。
『ちなみに、妹ちゃんへの伝言を頼まれてから、すでに三日と半日経っているよ』
「え、ウソ……」
【蛇神の傷跡】に入ったら、さすがに夕方に帰るのは難しいかもしれないとは思った。
それで一応、武神さまに伝言をお願いしたんだけど――まさか、いつの間にか三日も経っているなんて……!
しかも、三日目の夕方ってことは、もう帰る準備をしないといけないタイミングだよね?
「やばい、フェリシア絶対心配してる……」
『それはもう、ギャン泣きしてたみたいだよ。魔神が抜き身引っ提げて特攻してきて、死ぬかと思った』
「え、それは……ご無事で……?」
『森羅と理神が二人がかりで鎮めてくれて、なんとか、ね』
どうやら僕は、かなりヤバイことをやらかしてしまったらしい。




