【蛇神の傷跡】ーSIDE にぃに―
魔獣の異常行動に戸惑いつつも気を取り直し、フォレチェルとガルゥの群れはなんとか殲滅した。
「坊っちゃん。回収も終わったし、少し休まねぇか?」
「奇遇だね。僕も同じ提案をしようと思ってたとこだよ」
周囲の魔素を中和する結界を張ったお陰で、遺骸回収中に魔獣が追加で現れることはなかった。
それでも、ほとんど三連戦に近い状態だ。とくに回収作業が大変で、正直、かなり疲れてるからね。
休憩は大歓迎。
獲物をすべて【鍛冶場】の修練場に運び込み、囲炉裏でお茶をすすりつつフェリシアが用意しといてくれたおにぎりを炙ってかじりつく。
焼く前におにぎりの表面に塗りつけた、ショユが焦げた香ばしい匂いがたまらない。
「ところでさ、ロイ」
「うん?」
「ガルゥもフォレチェルも、明らかに誘導されてるっぽい動きだったよね」
「あ~、それな~」
ロイも同じことを考えていたようで、ウンウンと頷きながら指についたショユをペロリと舐めている。
「俺もまだ入ったことはないんだが、アレだろ?」
「アレ?」
「え~っと、アレだ。【邪神の傷跡】。出来立てのやつは、近くの魔獣をおびき寄せて捕食するって師匠から聞いたことがある」
僕もオトンから、【邪神の傷跡】については聞いた記憶がある。
大昔に封印された邪神の欠片が、本来の力を取り戻すために作り出す迷宮のことだ。創世四神の定めたモノとは別の法則で作られた空間で、多くの場合は洞窟のような形をしているらしい。
【邪神の傷跡】は周囲の魔獣をおびき寄せ、自らの戦力へと変化させる。
そうして集めた戦力を周囲の土地に解き放って人里を襲わせたり、あえて【蛇神の傷跡】内で退治させて有用そうなアイテム――武具だったり装飾品だったりと様々な形をしているっぽい――に変化したものを持ち帰らせる……なんてこともするそうだ。
そうしたアイテム類は基本、邪神の思念に汚染されている。
そのまま使うことはできないから神官や巫女の手による浄化が必要なんだけど……。ソレを面倒がって、邪神の信徒に堕ちる者も少なくないと教わった。
「ってことは、見つけてヒガシショユ村に報告する必要があるね」
「だな~」
とりあえず、ヌンツィオからこの辺りに【蛇神の傷跡】があるという情報は聞いていない。
ヌンツィオは【法の神】の愛し子だから、ヒガシショユ村周辺の情報は隠さず伝えられているはずだ。この国の神殿はブラン王国みたいなおかしなことにはなってないようだから、たぶん、そうだと思う。
キチンと情報伝達が行われている前提で考えるなら、彼の耳に入ってないということは、このあたりには今まで【蛇神の傷跡】なかったと思っていいはず。
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小腹を満たした後、軽く見て回っただけで【蛇神の傷跡】の入口はアッサリと見つかった。
「こいつぁ、お嬢がうっかり野宿しようとしてたっつーイエノキだなぁ……」
「腐っても魔獣領域に生えてる木だし、フェリシアが潜り込もうとしてたヤツより、大分大きいんじゃない?」
「まだ、おナカマだろ?」
「それは、そう」
なんせ、根本に開いたウロの大きさはフェリシアのミルギューが四頭とも余裕で潜り込めるくらいのサイズ感。
ちなみにフェリシアのミルギューは、端っことはいえ魔獣領域内で捕まえたものだから一般的に飼育されているものよりも倍以上大きい。体高も三メータ近くあるのにフェリシアはやたらと乗りたがるものだから、いつ落ちるかとヒヤヒヤしてしまう。
従魔だからといって乗りたがるの、ホントにやめてくれないかな……。フェリシアが落っこちる前に、僕の心臓が止まりそうなんだけど。
……っと、思考が逸れた。
「それじゃあ、入ってみようか」
「いや、坊っちゃん。報告後に、この国の神殿が調査員を手配するんじゃないのか?」
「季節を考えてみてよ。今の時期じゃ、調査が入るのは最短でも春以降。今は冬も最初の月だよ? 二~三ヶ月後の調査を待つ間に【蛇神の傷跡】がどれだけ力を蓄えてることか……」
……というのは建前で、本音は【蛇神の傷跡】でしか見れないという邪獣の物品変化を見てみたい。
「坊っちゃん……。本音、ダダ漏れだぞ」
「え、ウソ!?」
「マジ。まあ――入口を少しくらいなら大丈夫だと思うが……」
「だよねっ! じゃあ、さっそく。とっつにゅー!!」
ため息混じりとはいえ師匠代理の許可を得たので、僕は「やっぱりだめ」なんてことを言われないうちに【蛇神の傷跡】内部に足を踏み入れた。
邪神の傷跡は、いわゆるダンジョン的なヤツです。
物品変化は、倒した魔獣がアイテム化することなのでドロップアイテムになります。




