代替案
「思うたんじゃが……」
「うにゃ?」
「ミルギューを使うて集めんでも、フェリシア嬢の魔法で成型したものを持ち込めば良いのでは?」
夏エリアに戻ったときの気温差をどうするか悩んでいたら、ピニャーシュさんから思わぬ案がでた。
それは、魔法で雪をかき集めて作ったナニカごと、わたしが夏エリアに帰還するって念じてみたらどうかという提案だ。
いつも、ミルギューごと【お庭】に入っているから雪で乗り物を作るなり、わたしが入れるサイズの箱を作るなりして、そこに入るなり上るなりすれば【お庭】に雪の塊を持ち込めるんじゃないか……と。
「ソレは、イケるかも」
「じゃろ?」
「ただ、夏エリアの暑さはどうしようもないのでは?」
「中に入れるタイプにすれば、雪の中に居るわけじゃ。分厚いコートだけ、内部で脱げば大分違うじゃろう」
「……たしかに、大分マシな気がする」
少なくとも、さっきほど『ヤバい!』って状態にはならずに済みそう。
むしろ、今よりは薄着で出て、真っ先に自分たちを囲う雪室を作って肥大化させたものを運び出すって形もアリかも。
「とはいえ、試してみるのはコレが溶けて不足分が分かってからのほうがいいじゃろうな」
「ソレも言えてる。溶けるのを待つ間に、日課を済ませちゃおっか」
「備蓄のマナラップを更新してから、チーズ作りじゃったな」
「うにゃうにゃ。今日はにぃにがいないので、ピニャーシュさん、お手伝いお願いします」
「うむ、頼まれた」
日課をこなす間に溶けた分を使って、お昼前に多少は魔石づくりができるといいなと思います。
☆★☆★☆★☆★
日課をこなすこと、約二時間。
雪で作ったソリと荷台に積み上げた雪塊は思った以上に溶けておらず、即席で作った貯水庫(落とし穴ともいう)の中でみぞれ状態になっていた。
「もうちょい、溶けてたほうがいいかもだけど……」
水って重いんだよね。必要な分を汲み上げる手間を考えると、このままにぃに作の柄長レードルをつこんでしまいたい。でも、そうすると魔石の結晶化の過程が見えないから、すぐに飽きてスキル上げをあっという間に放り出してしまいそう。
うーん、悩ましい。
「溶けとる分だけ汲み上げればよかろ」
むむむと唸りつつ悩んでいたら、ピニャーシュさんがサクッと雪解け水を汲み上げてくれた。
すごい、嬉しい。
「ありがと、ピニャーシュさん」
「なんの」
ピニャーシュさんにお礼を言って、お隣の春エリアで作業開始です。
だって、夏エリアだと暑すぎるんだもん。それなりに長時間かかりそうな作業は、過ごしやすい場所でやったほうが効率もいいはず。
春エリアで落ち着ける場所を確保すると、柄長レードルに素体となる肉片を載せてから魔素水の中にゆっくりと沈めていく。
おナベは、使い慣れたにぃに作の寸胴鍋(極大)です。大ダルの底に付くくらいの長さで作ってもらったレードルは柄が余るけど、そこはソレ。おナベの端あたりでぎゅっと握れば問題ない。
鍋底にレードルが届いたところで、肉片に魔素を集めていくよ。
トリーが言うところによると、生き物の肺・心臓・肝臓は高濃度の魔素にさらされているうちに結晶化する性質があるらしい。
辺境で活動する狩人の死因のひとつに、肺が魔石化してしまう【魔血腫】という病気があるから、その説明には納得しかない。
肺は空気を処理する場所だったはずなので、空気中の魔素が悪さするんだろう。
そしたら、肝臓は食べ物に含まれていた魔素が原因かな?
心臓は……どうなんだろう、よくわからない。
この、魔石化した部分をもとに戻すことが出来たらいいんだけど……。身近に罹患している人がいるものだから、なんとかならないかと気になって仕方がない。とりあえず、魔石化した部分って元よりも大きくなるので、元通りにならないまでも魔石化した部分を安全に取り除ければ大分マシな状態になるんじゃないかと思ってる。
なにはともあれ、こういった性質がある臓器は、高濃度の魔素水に漬け置きするだけでも魔石化させることが出来るそう。
ただし、かなり時間がかかって効率が悪いんだって。
具体的には、結晶化する前に臓器が腐る。だから、魔石士の手によってより多くの魔素が素体に触れるように誘導する必要があるというわけだね。
じわじわじわりと水中の魔素を集めてみるけれど、素体に触れる直前でヌルンと脇にそれていく。
案外、命中させるのも大変だ。しかも、外した分の魔素はどっかに消えてしまうからね。踏んだり蹴ったりなんですよ。
それでも『下手な魔法も数撃ちゃ当たる』と言うやつで、当たる魔素もある。なによりも、成功した部分は視認できるレベルでプックリと膨れて硬質化するのだ。
目に見えるレベルで変化があれば、やる気も上がる。
ひとつ、ふたつと、出来た魔石が素体からコロンと外れていくのを凝視しているうちに、いつの間にやらお日様が沈み始める時間になっていた。
「にゃにゃにゃ!?」
いつの間にこんな時間に!?
長い時間、ずーっと同じ姿勢でいたせいで背中と首は痛くなってるし、お腹もグーグー鳴いている。
「おお、さすがに集中が切れたようじゃな」
首をさすりつつピニャーシュさんの方を振り向くと、水桶を両手に持って苦笑していた。
「何度も声はかけたんじゃが……」
そのたびに、『お水、お水が足りない……』と呪文のように呟くものだから、色々と諦めて魔素水を運んでくれることにしたらしい。なんか、ゴメンナサイ。
「そろそろグラ坊も帰って来る頃合いじゃ。まだ続けるというのなら止めぬが……せめて、食事を摂ってからにしたほうが良かろうて」
「はい……そうします」
『集中力があるのは良いことだ』とピニャーシュさんは笑っていたけれど、呼ばれても気付けないのはあまりよろしくないことだと思います。コレは、多少なりとも改善しないといけないことだね。気をつけようっと。




